皆さんは、大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)という病名を聞いたことがありますか?

大腸憩室炎とは、大腸に壁の一部が外側に膨らむ憩室(けいしつ)という状態に、何らかの原因で炎症が合併したものです。近年の高齢化、食生活の欧米化に伴い、日本でも大腸憩室炎が増加しています。

大腸憩室炎は、軽症の場合には保存的な治療が中心ですが、重症例ではときに緊急手術が必要となる怖い病気なのです。

今回は、消化器外科医の立場から、気になる大腸憩室炎について、どんな病気なのかを説明します。

目次

大腸憩室炎とは?

まず憩室とは、消化管の壁の一部が、外側に風船のように膨らんだ状態のことです。憩室は、食道から大腸まで消化管の色々なところにできますが、大腸にできた場合、大腸憩室症といいます。多くの場合、多発します

大腸憩室症のはっきりとした原因はまだ明らかになっていませんが、食生活の変化などによって腸の運動が亢進し、長期にわたり腸管内の圧力が高くなることによって発生する可能性が考えられています。

例えば野菜など食物繊維の摂取が減少すると、便の量が減少することによって腸管の運動に変化が起こり、腸管の圧が高くなって憩室ができやすくなると言われています。

したがって、もともと大腸憩室症は、肉中心の食生活が特徴のアメリカなど西洋諸国に多く見られ、日本では比較的まれな疾患でした。ところが、近年の「食生活の欧米化」に伴い、日本でも大腸憩室症が増えています。

また、大腸憩室症は年齢とともに増加します。例えば、40歳以下では10%以下であるのに対し、70歳代では50%、80歳以上では約70%が大腸憩室を持っていると報告されています。

大腸憩室症は、症状がなければ治療の必要はありませんが、炎症や出血など合併症を伴うことがあり、この場合は治療が必要となります。大腸憩室症のうち、10~25%に大腸憩室炎を合併するといわれており、軽症から重症まで様々な症状が出ます。

日本では、比較的軽症とされる右側大腸憩室炎盲腸と上行結腸が中心)が多いとされていましたが、最近では欧米と同様に重症化しやすい左側大腸憩室炎(S状結腸に多い)が増えているとのことです。左側大腸憩室炎では様々な合併症を伴うために手術が必要となることが多いとされています。

大腸憩室炎の症状

腹痛

大腸憩室炎の最も一般的な症状は腹痛圧痛(お腹を押さえたときの痛み)です。腹痛は初期には間欠痛(良くなったり悪くなったりを繰り返す)のことが多く、次第に持続痛へと変化していきます。日本で多い右側大腸憩室炎では右下腹部痛を伴うことが多く、急性虫垂炎との鑑別が問題となります。大腸憩室炎に特有の症状はありませんが、下腹部痛が続く場合には、大腸憩室炎の可能性がありますので受診をおすすめします。

その他、下痢嘔気・嘔吐、食欲不振便秘、排尿障害(膀胱への刺激による)などいろいろな症状がみられることもあります。

また、発熱白血球の増加など炎症所見が見られますが、これらを認めない症例もあります。

大腸憩室炎の診断

一般的に、大腸憩室の有無や分布を検査するためには注腸検査(バリウムなどによる造影検査)や内視鏡検査が行われますが、急性炎症を伴う場合にはこれらの検査は行われません。

大腸憩室炎の診断は、超音波(エコー)検査CT検査によって行われます。これらの検査によって、憩室炎の部位、腸管壁の状態、炎症の程度、膿瘍(炎症による膿のたまり)、またフリーエアーというお腹の中に漏れた空気(腸管に穴が空いている穿孔を疑う所見)などを診断します。

また、大腸憩室炎と似た症状を持ち、鑑別しなければならない病気には、急性虫垂炎虚血性腸炎急性腸炎大腸がんなどがあります。特に、右下腹部の痛みで発症した右側大腸憩室炎の場合、急性虫垂炎との鑑別が難しいこともあります。

大腸憩室炎の治療

医師と看護師と患者

大腸憩室炎の治療には保存的治療と外科的治療がありますが、どちらを選ぶかは重症度によって決定されます。

大腸憩室炎が軽症で合併症がない場合、腸管の安静(絶食と点滴)および抗菌薬投与によって保存的に治療します。ただし、大腸憩室炎は再発することが多く、一旦症状が落ち着いたとしても、慎重な経過観察が必要であるといわれています。また、憩室症のある人は普段から腸管の圧が高くならないよう、下剤の服用を最小限にしたり、食物繊維の多い食事を心掛けたりといった生活指導が行われます。

一方、穿孔(腸に穴があくこと)、膿瘍形成(膿のたまりができること)、狭窄(腸が狭くなる)・閉塞(腸がつまること)、あるいは瘻孔(ろうこう)形成(腸の一部が他の臓器などと細い管で繋がること)などの合併症を伴う場合には外科的処置が必要となります

手術の術式は、合併症の状態や程度に応じて様々ですが、腸管の切除や、膿瘍ドレナージ(膿をお腹の外へ出すチューブを挿入する手術)などが行われます。憩室が破れたり、腹膜炎の程度がひどい場合には人工肛門を作ることもあります。

また、炎症を繰り返す症例では手術が考慮されますが、このような慢性憩室炎に対して最近では腹腔鏡(ふくくうきょう)による傷の小さな手術が行われることも多くなってきました。しかし、施設によって腹腔鏡手術の適応基準は違いますし、また炎症が強く癒着が激しい場合には、通常の開腹手術(お腹を切開する手術)に途中から変更することもあります。

まとめ

大腸憩室炎は、食生活の西洋化や高齢化に伴い日本でも増加傾向にあります。

ほとんどの症例で腹痛がみられ、急性虫垂炎や他の色々な疾患との鑑別が必要となります。そのため、超音波検査やCTにて診断されます。多くは保存的治療(絶食と抗菌薬投与)で改善しますが、再発が多いことが問題となっています。重症例では手術が必要となる場合もあり、腸の切除やドレナージといった手術が行われます。最近では腹腔鏡による手術も多くなってきました。