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精神医学における精神症状の一つとして「妄想」があります。空想や想像に浸ることは、誰でも経験することがあるでしょう。しかし空想や想像に浸ることと、「妄想」を持つことは全く違います。正常な精神状態であれば、「妄想」を持つことはまずありません。病的な精神状態にある人だけが、「妄想」を持つ可能性があるのです。「妄想」の症状は、正常な人には理解できないことがあります。「妄想」の正確な定義と、様々な種類の妄想の例、妄想が出現することがある精神疾患にはどのようなものがあるのか、この記事で解説していきます。

どこが病気?精神症状としての妄想の特徴とは?

病気のとしての「妄想」の特徴は、以下の3つです。

  • 本人が病的に強い確信を持っている
  • 周囲が論理的にその内容を本人に訂正させられない
  • 妄想の内容が現実的ではない

正常な人の思い込みや信念、空想と異なる、病的な「妄想」の最大の特徴は、その異常な程の確信にあります。

世の中には無限の事柄があり、普通の人であっても、信じていることはそれぞれ異なります。また、我々は誰もが何かを信じているものであり、他人が何かを信じることも受け入れています。誰かが奇妙な、現実離れしていることを信じ、主張しているだけではそれを妄想とは決めつけられないものです。

ただ、正常な人は自分が何を信じていようが、時には自分が信じていることに距離を置き、自分の考えに多少とも批判的になれます。どんな考えを持ち、どんなことを事実と信じていようと、他人の意見や考え、別の事実の可能性を受け入れる余地が心のどこかにあるものです。しかし、「妄想」を持っている人にはそれができず、「妄想」が唯一絶対不変の真実になってしまうのです。「妄想」が現実以上にリアルで自明なことに感じられ、それが事実とは異なるというあらゆる周囲の反論や説得を受け入れることが出来なくなるのです。

妄想の内容とは?よく見られる「妄想」の例は?

お金-写真

妄想はその内容によって大別すると、被害妄想、微小妄想、誇大妄想があります。妄想の内容は、その時代時代の文化的な影響を受けるもので、現代という時代の状況も、最近見られる妄想内容に反映されています。以下、日常でよく見られる妄想の例を示します。

1.被害妄想

「見張られている」「嫌がらせをされている」など、周囲から自分が悪意を持たれている・意図的に苦しめられていると思い込むタイプの妄想です。なお、被害妄想を持つ方は自分と関係がないはずのことを、自分に何らかの関係があると被害的に信じ込んでいることがほとんどです。それを被害関係妄想といいます。統合失調症でよく見られます。

関係妄想

「テレビのニュースで、自分のことを言っていた」「インターネットに自分のことが書かれている」など、自分とは無関係なことを自分に関係づけするものです。テレビに加え、最近はインターネットと自分を関係づける妄想がよく見られます。被害妄想を伴うことが大半であり、幻聴を伴うことがあります。

注察妄想

周囲に誰もいないときであっても、「盗撮されている」「誰かから見られている」「盗聴されている」など、自分が何らかの手段で監視されていると思い込むものです。

嫉妬妄想

「夫(妻)が浮気している」といった妄想に基づき、身近な人への激しい嫉妬がみられます。認知症などで見られることがあります。

被毒妄想

自分の飲食物に毒を入れられたと信じ込むものです。普通の食事について、「変な味がする」と訴える幻覚の一種である幻味を伴うことがあります。統合失調症で見られることがあり、妄想から身近な家族を疑うことがあります。時に食事を拒否することから、拒食に至ることがあります。

物盗られ妄想

「財布を盗まれた」など、大事なものを誰かに盗まれたと訴える妄想です。認知症にみられやすく、家族や介護士など身近な人が疑われることがあります。

2.誇大妄想

「自分は神に選ばれた特別な人間である」など、自分の地位や存在を過大評価する妄想です。統合失調症、双極性障害の躁状態で認められます。

恋愛妄想

芸能人や身近な異性が「自分に好意がある」と思い込むものです。相手が嫌がっていたり、拒絶していたりするにも関わらず、自分に好意があるという妄想を持ち、しつこく言い寄ったりします。

血統妄想

自分が天皇家や貴族などの、高貴な血筋だと信じ込むものです。日本では戦後はほとんど見られなくなりました。

3.微小妄想

自分のことや、自分に関係していることを過小評価したり、否定的な価値づけをしたりする妄想です。自尊心が極端に低下する、うつ病や双極性障害のうつ状態で認められます。

罪業妄想

「この事件は自分のせいである」「取り返しのない罪を犯してしまった」など、強い罪悪感を持ち、自分を責める妄想です。宗教的な背景が関係するようで、神に対する罪悪感を抱く罪業妄想がヨーロッパで見られるようです。

貧困妄想

実際はそうではないのに、お金や資産が無くなってしまい、破産した、または貧乏になったと思い込む妄想です。

心気妄想

体のどこかが悪くなった、大きな病気にかかったと確信する妄想です。医師が繰り返し身体に異常のないことをその人に保証しても、ありもしない病気を悲観し続けるものです。罪業妄想、貧困妄想と合わせてうつ病の3大妄想といわれています。

妄想がみられる病気は?原因となる代表的な精神疾患は?

統合失調症

統合失調症とは、幻覚と妄想がみられる病気の代表的なもので、10代~30代にかけて発症し、発症率は0.8%とされます。統合失調症の妄想では、主に被害関係妄想がみられます。幻覚は幻聴が主であり、幻聴に伴って、「誰かが自分の悪口を言っている」などの被害妄想が見られることがあります。

うつ病

うつ病とは、抑うつ状態(気分の落ち込み、憂鬱感)が病的に続くものです。働き盛りの男性で目立ちまずが、若年者や高齢者を含め、幅広い年齢で見られ、生涯有病率は13%~17%とされます。患者さん全体では女性の患者さんが男性の2倍おられます。うつ病では、自尊心の低下に伴い、自分にマイナスの価値づけをする微小妄想がみられることがあります。

双極性障害

双極性障害とは、気分が高揚する躁状態と、気分が落ち込む抑うつ状態が繰り返す病気です。発症の男女差はなく、生涯有病率は0.2%~1.6%とされます。双極性障害のうつ状態では、うつ病でみられる微小妄想が見られ、躁状態の際には誇大妄想がみられることがあります。

認知症

認知症では、物事を忘れやすくなる記憶障害に伴って、被害妄想である物取られ妄想がみられます。代表的なアルツハイマー型認知症は、女性に多く、65歳以上が好発年齢です。年齢とともに頻度が増加し、80歳以上の有病率は20%を超えます。

妄想性障害

妄想性障害とは、一つあるいは複数の妄想の症状のみが見られる病気です。統合失調症と異なり、幻覚や幻聴は見られず、妄想の内容も現実的にあり得るテーマが多いことが特徴です。そのため、周囲も病気だと認識しにくいことがあります。中年期に発病し、主に被害妄想がみられます。妄想により、他人に不信感を抱きやすく、治療は困難なことが多いものです

まとめ

妄想は、様々な精神疾患の症状として見られます。妄想は、患者さん本人に病気の認識がないことから、治療や周囲が関わっていくことが難しいのです。

妄想がみられる病気は、どのように治療するのか?家族や身近な人に妄想がみられたらどう対処すれば良いのか?そのような悩みについては、下記の記事で解説します。身近な人の妄想に悩んでいる方は、ぜひご覧ください。