多発性筋炎は、筋肉に原因不明の炎症が起こり、筋力が低下する病気です。関節リウマチなどと同じく「膠原病(こうげんびょう)」の一種です。

手足に力が入らない、痛みがでるなどの症状が急に起こります。そして顔面、眼瞼(まぶた)、手指、肘・前胸部などの皮膚に、特徴的な湿疹や紅班(赤い発疹)があらわれたときは、皮膚筋炎という別の名前で診断されます。

どちらも発症の詳細は不明で、厚生労働省の難病に指定されています。

目次

「多発性筋炎」と「皮膚筋炎」はどう違う?

自分の体を守るはずの免疫機能が異常をきたし、産生された抗体(ウイルスなど異物を除去する細胞)が、自分自身の正常な細胞を攻撃してしまうことで起こる病気を「自己免疫疾患」といいます。

多発性筋炎と皮膚筋炎はどちらも、自己免疫異常が関係していると考えられています。そして、筋力低下、筋痛など基本的な症状がどちらもほとんど同じです。そのため、ひと括りに説明されることが多い病気です。症状は大きく次の3つに分かれます。

筋肉の症状

両手(上腕)、両足(大腿)を中心とする筋肉の炎症により筋力低下が起きます。
下肢(あし)の筋力低下ではしゃがみ立ちができない、階段の昇降が大変になるなどのが症状が認められます。上肢(うで)では、物を持ち上げることが辛くなる、ドライヤーを使うこと、洗濯物を干すことが大変になるなどの症状があります。
また、飲み込む筋肉や頭部を支える筋肉が侵されると、嚥下困難(食べ物を飲み込むことの障害)や頭部挙上困難(横になった状態で頭を持ち上げることが難しいこと)が見られることがあります。

内臓の症状

心電図異常、間質性肺炎、関節症状などの随伴症状を合併することがあります。皮膚筋炎には悪性腫瘍の合併も多く、健常者の4倍とも報告されています。

皮膚の症状

皮膚筋炎では、両側眼瞼(まぶた)の上部に浮腫みをともなうヘリオトロープ疹という赤紫色の皮疹が出現したり、手関節の伸側(曲げたときに伸びる側、関節の外側)に落屑(乾燥した皮膚がぽろぽろと落ちること)を伴うゴットロン徴候と呼ばれる紅斑がみられたりします。

特徴的な皮膚症状がある場合は「皮膚筋炎」、ない場合は「多発性筋炎」と区別されます。

中年期の女性に多く、全国で約2万人

多発性筋炎・皮膚筋炎は、病状が緩やかに進行するため、はじめは自覚症状がないことが多いようです。体重減少・食欲不振など、そこまで深刻ではないと思える症状が続きます。やがて発熱・全身倦怠感・易疲労感(歩行など簡単な動作で疲れること)が起こり、手足の痺れ・だるさに悩まされます。

初期症状が分かりづらいことで、発症者数は完全に把握できていないようです。厚生労働省によると、2012年で約1万9500人の患者さんがいると推定されています。毎年1000人以上発症しているため、現在では約2万人の患者さんがいると考えられています(厚生労働省:指定難病・概要、診断基準等P.2(PDF)より)。

女性に発症することが多く、国内の男女比は1:3です。発症年齢は5~9歳50~60歳代にピークがあります(難病情報センターより)。

胴体に近い筋肉が、気がつくと低下している

ドライヤーをかける女性-写真
多発性筋炎・皮膚筋炎は、筋肉を構成する細胞が壊死することで筋力が低下します。筋肉の炎症は、二の腕・太もも・首など胴体に近い箇所で、左右対称に起こるのが特徴です。症状は徐々に現れ、やがて日常生活に次のような影響を及ぼします。

二の腕の主な症状(肩帯筋筋力低下)

  • ドライヤーが重く感じて髪の手入れができない
  • 高いところの物がとれない
  • 服を脱いだり着たりが難しい

太ももの主な症状(腰帯筋筋力低下)

  • 椅子から立ち上がることができない
  • 階段の昇り降りがきつくなる
  • 浴槽に浸かったり上がったりが辛い

首の主な症状(顎部屈筋筋力低下)

  • 食べ物を飲み込みにくく、よくむせる
  • 頭が枕から持ち上げにくい
  • 声がかすれ、話しにくさを感じる

また、咽・喉頭筋の障害によって、飲食が困難になる「嚥下障害」や、誤って食べ物が気管に入り、誤嚥性の肺炎にかかることがあります。そしてまれに心臓の筋肉が障害される影響で、不整脈を起こすことがあります。

皮膚には、ゴットロンとヘリオトロープ

皮膚の症状は次の部位に紅班が現れます。発疹はほとんどかゆみがなく、日光にあたると悪化するのが特徴です。

手指肘膝の関節

手指の関節に「ゴットロン徴候」と呼ばれる、ガサガサした赤い発疹の集まりが出現します。肘・膝の関節は、角層が厚くカサカサした紅斑がでます。ゴットロンとは、1931年、手指背部の紅斑を報告したハインリッヒ・アドルフ・ゴットロン医師にちなんで命名されています。

上まぶた

上まぶたに「ヘリオトロープ疹」という紫紅色の発疹が現れ、むくんだように腫れます。ヘリオトロープは、薄紫色の花をつける植物の名前です。発疹が薄紫色になるのは白人で、日本人は、褐色のある紫に見えることが多いです。

その他

そのほか、首から胸にかけてV字に紅斑がでる「V徴候」や、ショールを巻いたように肩から背中にかけて紅斑がでる「ショール徴候」があらわれます。

合併症「特殊な肺炎」に注意

多発性筋炎・皮膚筋炎は、臓器障害を合併する恐れがあります。空咳が続く、息切がする場合は「間質性肺炎」という特殊な肺炎を心配します。特に、急激に症状が進行する「急性間質性肺炎」は注意が必要です。呼吸不全などにより、死亡率は約10%と報告されています(厚生労働省より)。

また、健康な人と比較して、多発性筋炎・皮膚筋炎患者さんは悪性腫瘍を高率に合併します。多発性筋炎で健常者の約2倍、皮膚筋炎で健常者の約4倍の確率で「悪性腫瘍」が確認されています。特に、発病から2年間は特に悪性腫瘍が見つかりやすいといわれています(難病情報センターより)。

まとめ

多発性筋炎・皮膚筋炎は、筋肉に原因不明の炎症が起こり、手足の筋力低下や皮膚症状(紅斑)が起こる病気です。膠原病の一種で、厚生労働省の難病に指定されています。

「間質性肺炎」や「悪性腫瘍」を合併する恐れがあり、死亡率は約10%と報告されています。症状がさまざまで他の病気と診断され、正しい治療の開始が遅れるケースがあります。思い当たるときは、できれば膠原病科を探して受診することをおすすめします。