誰もが耳にしたことのある「免疫」ですが、詳しく説明できる人は少ないのが現状です。それもそのはず、免疫の全貌解明は研究途上で複雑なシステムなのです。本記事では、現時点で解明されている範囲を分かりやすく解説します。
免疫とは何か
伝染病(疫)を「免」れるのが免疫のはたらき
免疫には、疫(=伝染病)を免れるという意味があります。つまり伝染病の感染を逃れられるということです。
例えば風疹に感染したら、ほとんどの人は2度目にまた風疹に感染することはありません。風疹のワクチンを接種した人も、多くの人は風疹に感染しません。これは両方の例ともに、風疹に対して免疫を持っているからです。
伝染病以外でも免疫がはたらくことがある
免疫は伝染病だけではなく、体にとっての異物も排除する働きがあります。分かりやすい例が臓器移植の拒絶反応です。自分の体ではない臓器が移植されると、それを排除するために攻撃します。そのため、臓器移植後の患者には免疫システムが働かないように免疫抑制剤が使われます。
また花粉症やアレルギー、アトピーは、本来体にとって害のある異物ではない花粉や食べ物を異物と判断して、それらを攻撃してしまう免疫システムの誤作動です。
さらに、自己免疫疾患と呼ばれる病気(全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど)があります。これは、本来自分の体の一部である組織を異物と誤認識して免疫システムが活発になり、自分の体を攻撃してしまう病気です。
また、がんは自分の体の中で一部の細胞が勝手に増殖を始めてしまう病気ですが、免疫システムは、がん細胞が異常な増殖を開始する前にその細胞=がんを見つけて破壊してくれます。
このように免疫とは体にとって重要で不可欠なシステムである一方、誤作動を起こすと病気にもなり、システムの詳細な解明が研究され続けているのです。
免疫に関わる沢山の細胞と体の防御物質
とても優れた機能である体の免疫システムには、免疫細胞とリンパ器官をはじめとする細胞や体を防御するためのたくさんの物質のネットワークから成り立っています。
細胞
名称 | 解説 | |
白血球 | 顆粒球 | 好中球・好酸球・好塩基球に分かれます。 病原体を食べて細胞の中の酵素で殺菌したり、アレルギーに関与します。 |
単球・マクロファージ | 病原体をまるごと食べて処理します。 炎症に関わるサイトカインという物質を産生します。 また、処理した病原体の情報をT細胞に伝えます。 |
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リンパ球 | ヘルパーT細胞 | 免疫の司令塔です。キラーT細胞やB細胞に指示を出します。 |
キラーT細胞 | 病原体を攻撃して排除します。 | |
B細胞 | 病原体の形に合った抗体(後述)を作ります。 また病原体を細胞内に取り込み、T細胞へ情報を伝えることもします。 |
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NK細胞 | B細胞やT細胞よりも早く病原体を認識し、傷害を与えます。 病原体に感染した細胞やがん細胞に対して自爆スイッチ(アポトーシス)を入れることができます。 |
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樹状細胞 | 病原体を細胞内に取り込むとリンパ節に移動して、病原体の情報をT細胞に伝えます。 | |
肥満細胞 | 異物を排除する炎症反応やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギーに関与します。 |
物質
抗体がメインで活躍します。抗体とは非常に小さなタンパク質で、IgG、IgM、IgD、IgA、IgEの5種類があり、基本的にはY字型を組み合わせた形をしています。Yの頭の部分がとても可動性に富んでいるので、どんな病原体にも結合できます。
病原体の侵入からいち早く作られる抗体がIgM、その後本格的にIgGが作られます。IgAは粘膜や腸管に存在し、病原体侵入の予防に役立っています。
- 抗体:病原体である抗原の形に合った抗体が結合し、様々な免疫反応を引き起こします。また病原体に抗体が結合すると他の細胞が病原体を見つけやすく、食べやすくなります。
- 補体:病原体を破壊することができます。また病原体にくっつくことで、他の細胞が病原体を食べやすくして異物排除に働きます。
免疫のしくみ

人の体には侵入してきた病原体をすぐに攻撃できる自然免疫と、数日してから作用する獲得免疫があります。自然免疫は体に本来備わっている防御システムです。一方、病原体のことをよく学習してから攻撃するシステムが獲得免疫といえます。
自然免疫
病原体が体に入ってくると、常に体内をパトロールしているマクロファージがいち早く駆け付け、病原体を丸飲みして細胞内の酵素で分解します(貪食)。マクロファージだけでは対処しきれないときには、さらに好中球や樹状細胞を呼び寄せ、病原体の排除作用を増強させます。
また補体が病原体にとりつき、破壊します。さらに補体が病原体にとりつくことで、マクロファージが貪食しやすくなります。
以上のことが約4日以内に起こります。これは侵入する病原体に関係なくどんな相手でも攻撃できるシステムで、自然免疫と呼ばれます。
獲得免疫
自然免疫で異物を処理しきれなかった場合、より強力に異物や病原体を排除するのが獲得免疫です。
マクロファージや樹状細胞は病原体を貪食するときに、その病原体の情報をヘルパーT細胞に伝えます。ヘルパーT細胞はB細胞に対し、病原体に合った抗体を作るように指示を出します。B細胞から作られた抗体は、補体と力を合わせてウイルスに感染した細胞を壊します。さらにヘルパーT細胞はキラーT細胞にもウイルス感染した細胞を破壊するように指示を出します。キラーT細胞はウイルス感染細胞を見つけると攻撃し排除します。
免疫システムは、ウイルス感染の場合はウイルスに感染した細胞を攻撃しますが、細菌感染の場合は細菌自体を異物とみなして、細菌そのものを攻撃します。
抗体は侵入した病原体に合ったものが作られます。抗原と抗体は鍵と鍵穴の関係と同じで、このような一対一の反応を特異性といいます。
生まれ持った防御システムである自然免疫に対して、病原体の侵入によって作られる免疫システムを獲得免疫とよびます。病原体に対する特異性が高く、さらに後述のようにその免疫が記憶されることが獲得免疫の特徴です。
免疫記憶
病原体の情報が伝達されるとB細胞は抗体を作り続けますが、伝達されなくなると記憶B細胞となって抗体を産生することなく静かにしています。
しかし同じ病原体が侵入すると素早く大量に抗体を作ることができます。これは免疫記憶と呼ばれ、このシステムを利用したものがワクチンです。
ワクチン接種により体内に抗原が入ると免疫記憶が起こり、2回目以降に抗原と再接触するとより早くより強い免疫反応が起きます。この免疫反応のために無症状あるいは軽症ですむことができるのです
まとめ
実際は補体にもT細胞にも紹介しきれないほどの種類があり、免疫に関わるタンパク質も他に沢山あります。さらに詳しく知りたい方は、参照リンクをクリックしてください。