「原因不明の炎症」で、筋力が低下する難病 …多発性筋炎・皮膚筋炎とは?」の記事では、多発性筋炎・皮膚筋炎の症状を中心に紹介しました。

多発性筋炎・皮膚筋炎は、原因不明の全身の炎症などの基本症状のほか、肺炎や悪性腫瘍など合併症の恐れがある難病です。病院では、血液検査日常生活動作(15項目)検査筋電図検査などで診断されます。

治療は、大きく筋炎の治療、皮膚炎の治療、合併症の治療に分けて考えられます。抗炎症効果(炎症を鎮める)と免疫抑制効果(免疫を抑える)を併せもつ「副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)」による薬物療法が中心です。

目次

ステロイドは、「兵士のストレス」を抑える薬だった?

ステロイドは、腎臓の上部にある「副腎」という臓器の「皮質」で作られるホルモンです。そのため、副腎皮質ホルモンとも呼ばれています。このホルモンは、常に体内で作られ、さまざまなストレスに対処する働きがあります。

ステロイドは、副腎皮質ホルモンの一つである糖質コルチコイドを化学合成したものです。ストレスに対する抵抗力があるため、第二次世界大戦中のドイツでは兵士が過酷な状況に耐えるための薬として開発されていたようです。

また、膠原病の治療にもっとも効果のある薬として知られています。体に起こる炎症はストレス反応の一種であるため、ステロイドを服用すると筋肉や皮膚の炎症が抑えられるのです。

患者さんの約90%は、日常生活に復帰している

買い物をする主婦-写真

筋炎の治療には、「プレドニゾロン」というステロイドを2~4週の間、1日あたり40〜60mgの大量投与します。炎症の正常化、CK(クレアチンキナーゼ)などの筋肉の酵素の改善、筋力回復の様子をみて、効果がある場合はステロイドを2週間隔で10%程度減量していき、数ヶ月かけて維持量(最小限の服用で効果があらわれる量)まで減量します(大阪大学大学院医学系研究科・免疫アレルギー内科より)。このとき、症状の再燃に注意しながら徐々に量を減らすことが大事です。

プレドニゾロンの服用で、90%以上の患者さんに効果があらわれ、日常生活に復帰しています(難病情報センターより)。そして約30〜40%の患者さんの筋力は完全に回復します(難病情報センターより)。しかし重い症状のときは「メチルプレドニゾロン」というステロイドを注射する療法で効果をあげます。これは「ステロイドパルス療法」と呼ばれる治療で、通常3日間行われます。

ステロイドは副作用に注意して

ステロイドは長期間・大量に服用していると副作用が心配です。主に次のような副作用が起こるといわれています。

大量服用したとき

免疫力低下、糖尿病胃潰瘍、精神症状、ムーンフェイス

長期間服用したとき

副腎機能の低下、骨粗しょう症、高脂血症、筋力低下、白内障緑内障

「自己免疫の異常」が関係する多発性筋炎と皮膚筋炎に治療にとって、大量のステロイド療法は、炎症を鎮め、しかも免疫異常も抑える作用があり第一選択薬となります。投与にあたり感染症の合併、血糖値、骨密度には十分に注意することが必要です。

ステロイドの効果が「不十分」なときは

ステロイド治療を行ったうえで、次のような状況にあるときは、副腎皮質ステロイドに「免疫抑制薬」を併用します。

  • ステロイドの効果が「不十分」なとき
  • 副作用でステロイドが「使えない」とき
  • ステロイドを減量して「症状が再燃した」とき

保険で認可されている免疫抑制薬は、シクロフォスファミドアザチオプリンです。どちらも骨髄障害などの副作用がときに見られます。専門医と相談しながら、ステロイドと同じく治療効果と副作用とのバランスをうまくとることが大事です。

皮疹には紫外線対策、外用薬を

皮疹(皮膚の発疹)の治療は、主に「サンブロック(遮光)」と「局所ステロイド治療」が行われます。まずは症状を悪化させる紫外線は避けるようにします。生活に支障のない範囲で遮光に心がけましょう。

悪性腫瘍は積極的に治療する

合併症である急速進行性の間質性肺炎の治療では、当初からステロイドと免疫抑制薬を併用します。免疫抑制薬は、シクロフォスファミドのほか、間質性肺炎の場合のみ保険が適用されるタクロリムスを用います。早期の免疫抑制剤の併用でステロイドの減量が可能になったり、生命予後が改善すること可能性があります。

悪性腫瘍が出現すると、筋炎や皮膚炎の症状は改善しにくい傾向にあります。一方で、悪性腫瘍の治療を行うだけで、多発性筋炎・皮膚筋炎が軽快する例もあります。そのため、腫瘍に対する積極的な治療を行います。

まとめ

治療は、ステロイドの投与が中心で、90%以上の患者さんが回復しています。専門医と相談して、副作用のバランスをとりながら、上手に治療と向き合いましょう。

治療中、あるいは回復がはじまってから気をつけることは、十分な安静と休養、疲れない程度の運動、高たんぱく・高カロリーで消化のよい食事、風邪などの感染症予防、薬の副作用による食欲亢進への対処です。