妊娠・出産をきっかけにお尻トラブルに遭うという話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。妊娠中の方の多くはお尻にトラブルを経験しているといわれています。女性のお尻トラブルを考えるうえで、妊娠・出産は特に注意すべきイベントです。今回は女性に多い肛門疾患と妊娠・出産との関係について解説します。
女性に多い肛門疾患は?妊娠・出産で痔になるの?
社会保険中央総合病院(現・東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターが1960年代から1989年にかけて行った調査によれば、外来に訪れた女性患者さんの肛門疾患について、多かったものから順に並べると次のようになります。
- 痔核(いぼ痔)
- 裂肛(切れ痔)
- 痔ろう(あな痔)
- 肛門掻痒症
- 術後後遺症
- 肛門ポリープ
男性は痔ろうなどの感染性疾患の患者さんの割合が多いのに対し、女性は痔核、裂肛の割合が多い傾向にあります。後ほど説明しますが、もともと女性は便秘を抱える方が多いことに加え、妊娠・出産時のからだの変化による肛門部分への負担も、女性のお尻トラブルを悪化させる原因のひとつと考えられています。
妊娠・出産により特になりやすい2つの肛門疾患
妊娠・出産により特に悪化しやすいものは「痔核」、「裂肛」です。では「痔核」、「裂肛」とはどのような病気なのでしょうか。
痔核(いぼ痔)
肛門には排便時にクッションの役割を果たす部分がありますが、「痔核」はこの部分を構成する痔静脈叢(じじょうみゃくそう、静脈のあつまり)が詰まって腫れあがってしまう病気です。
痔核には肛門内にできる内痔核と、肛門外にできる外痔核があります。妊娠中には外痔核(特に血栓性外痔核)が多く、硬いしこりができ、多くは強い痛みを伴います。また、内痔核が肛門外に脱出し戻らなくなった状態の痔核嵌頓(じかくかんとん)も時々見受けられます。
裂肛(切れ痔)
「裂肛」は、肛門の上皮が破れたり、裂けたりしてしまう病気です。便秘・下痢が主な原因です。硬い便などにより上皮が傷つけられるタイプ(急性裂肛)と、急性裂肛を繰り返すことで患部に細菌感染を起こすタイプ(慢性裂肛)があります。排便時に鋭い痛みと出血が主な症状です。
妊娠中・出産の「痔」の原因と対策
どのような理由で、妊娠・出産で「痔」が悪化するのでしょうか?
1.便秘になりやすい
女性は妊娠状態を維持するために黄体ホルモンが分泌されます。この黄体ホルモンは大腸の動きを抑制し、水分も吸収してしまう働きもあり、便秘になりやすくなります。また、妊娠中の女性は、大きくなった子宮が大腸を圧迫することにより、便秘になりやすくなります。
便秘は、肛門周辺の血行不良を引き起こしたり、硬い便が肛門周辺の皮膚を傷つけたりすることで、痔核や裂肛の原因になります。
便秘にならないためには、決まった時間にトイレに行くこと、十分な水分と食物繊維を摂ることを心がけましょう。
2.運動不足などによる血行不良
臨月が近づくとお腹が大きくなるため、からだを動かしづらくなります。この点、長時間座ったままの姿勢を続けるデスクワークも、肛門周辺の血行不良を招くことで痔の原因となります。
肛門周辺の血行不良は痔核の原因となります。また、妊娠前から痔を患っていた場合、妊娠中の血行不良は痔が悪化する原因になります。妊娠中も、適度な運動が大切です。
また、入浴はシャワーだけで済ませるのではなく、湯船につかりゆっくりと体を温め、血流をよくしましょう。
治療はすべき?治療で気を付けることは?
妊娠中に痔になった場合、緊急性があるもの以外、手術を行うことは稀です。からだへの負担を避けるため、妊娠中は外用薬や内服薬により症状を抑えて経過を観察し、手術は必要に応じて出産後に考慮します。
治療に使われる薬は内服薬よりも安全な外用薬が多く用いられます。ステロイドが入っている外用薬は体内への吸収は無視できるほどで、胎児に影響はないとされています。しかし、妊娠中の大量・長期間の使用は避ける方が無難です。
まとめ
妊娠中は、お腹が大きくなったり、ホルモンバランスが変化したりすることで、からだにさまざまな変化が起きます。妊娠中は、とりうる治療法が限られていることや胎児への影響など、より不安に感じることが多いかと思います。気になる症状がある場合には、早めに専門医に相談するようにしましょう。
また、妊娠・出産の経験自体が、からだに何らかの変化をきたすこともあります。妊娠・出産の際の病院選びは、出産後にもかかることができる、出産後の病院の引継ぎがスムーズであるといった点も、ひとつのポイントとなります。