黄色ブドウ球菌はさまざまな環境下の中で生き抜く力を持っている菌です。この菌に汚染された食品を摂取すると食中毒になったり、傷に付着すれば化膿したりします。また病院で起こる院内感染症の原因菌としても知られています。今回は黄色ブドウ球菌について解説していきます。
黄色ブドウ球菌とは?
黄色ブドウ球菌の名称は、顕微鏡で見た時の菌の形態や配列がブドウによく似ていることから名付けられました。
黄色ブドウ球菌は健康な成人の約20~30%で鼻腔内や皮膚から検出される身近な菌です(MSDマニュアルより)。また哺乳類・鳥類の皮膚や粘膜などにも存在しています。
菌自体は存在しているだけでは無症状のまま経過します。
ただ菌は熱に強く(耐熱性)、乾燥や食塩・酸に強い特徴を持っています。食品に付着して増殖した場合は食中毒を起こしたり、傷口に侵入すれば化膿したりする菌です。
また基礎疾患を持つ人が何らかの原因で免疫力が低下した場合、肺炎・敗血症・髄膜炎・関節炎などの重篤な感染症を引き起こすメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)があります。
黄色ブドウ球菌が原因となる病気は?

黄色ブドウ球菌が原因となる病気のうち、一般の人が注意したい食中毒と子供に多いとびひについて具体的に解説します。
食中毒
黄色ブドウ球菌は食品の中で増殖するときにブドウ球菌エンテロトキシンという毒素を生み出します。ブドウ球菌自体は加熱により死滅しますが、エンテロトキシンは酸に強いため胃酸にも消化されず残ります。そして胃や小腸に吸収され、お腹の症状をもたらします。
潜伏期間は1~5時間(平均3時間)で、吐き気・嘔吐・腹痛・下痢などの症状が現れます。重症化することは少なく、数時間から2日間程度で症状は改善します。高熱が出ることはありません。
症状は健康な人であれば数時間から2日程度で軽くなっていきます。
とびひ(伝染性膿痂疹)
夏によくみられます。黄色ブドウ球菌が原因となるとびひは、水疱性膿痂疹といわれるタイプです。強いかゆみを感じます。
菌の生み出す表皮剥奪毒素が、あせもや湿疹、虫刺されなどが気になって掻いてしまった皮膚に侵入することで水ぶくれが広範囲で現れます。また丘疹(きゅうしん、皮膚が赤く盛り上がった状態)や赤い斑点も特徴的です。
水ぶくれの中にやがて膿ができます。そして破れてただれた状態(びらん)になり、さらに広がっていきます。
治療では有効と予想される抗生剤を使用します。その際には抗生剤への抵抗性を確認し、場合によっては変更します。
また抗菌薬の軟膏を1日に数回ほど塗って治します。塗った後に医師の指示があればガーゼで覆うようにします。かゆみ止めの内服(抗ヒスタミン薬)は併用することが多いです。
治療する上で気をつけたいこと
最近耐性菌が多く、治療が長引く場合があります。医師の指示通りに通院しましょう。
医師から「もう来なくて大丈夫です」と言われている場合を除いて、薬が切れたら必ずまた受診することを前提に薬は処方されています。「何も言われなかったので行かない」は治療が長引く原因になるので避けましょう。
またある程度の日数で薬の効果を確認するため、しっかり治すためには必要以上に薬を希望しないことも大切です。あまり効いていない薬を長く使ってしまうと耐性菌ができる可能性があるので注意します。
黄色ブドウ球菌による病気を予防するには?
食中毒の場合
ブドウ球菌による食中毒の報告件数は年々減少しています(国立感染症研究所(PDF)より)。ただ予防するに越したことはありません。
以下に予防対策をまとめました。
- 手に傷がある時は調理をしない(やむを得ないときには手袋を使用するなど、食品に直接触らない)。
- 手洗いをこまめに行う。
- 食品は冷蔵庫に入れ、菌が繁殖しないようにする。
- 髪の毛や唾(つば)などが食品に入らないように帽子やマスクを着用する。
- おにぎりを作る場合にはラップを使用する。
- 手袋の着用を検討したほうが良い場合もある。
とびひの場合
あせもや湿疹をつくらないために、日ごろから体を清潔に保ちます。また体を洗う際に強く洗うと皮膚を傷つけてしまうため、そっと洗うことも重要です。また爪を切ったり、かきむしったりしないようにしましょう。
また鼻の穴の近くはたくさんの菌(常在菌)がいます。その中に黄色ブドウ球菌もいて、鼻をほじった後に傷付いた皮膚を触るととびひにかかってしまう可能性があります。
子供の鼻をほじる癖は止めさせた方がいいですが、現実的に難しいです。鼻の中を傷つけないよう、爪をこまめに切り、さらにやすりでなめらかにしておくことが重要です。
まとめ
黄色ブドウ球菌は健康な人から検出されることがある、身近な菌の一つです。食中毒やとびひの原因菌ではありますが、普段からしっかり予防など対策を立てていればそこまで恐ろしい菌ではありません。また食中毒になったとしても重症化する可能性は低いです。ただ多剤耐性菌の一つであるため、抵抗力が弱っている場合は注意が必要です。特徴をしっかりと把握しておきましょう。