「最近ちょっとズボンがきつくなってきた」「久し振りに体重計に乗ってみたら驚いてしまった」…デスクワークの多い現代人にとって、肥満はかなり身近な問題です。心当たりがある方、ドキッとした方もいると思います。

ところで、「太った状態」に関してはこの「肥満」という言葉に加え、「肥満症」「メタボリック・シンドローム」という用語があります。本記事では、それぞれどのような状態を指すのか、また「肥満症」と診断された場合はどんな治療を行うのか解説していきます。

目次

「肥満」「肥満症」「メタボリック・シンドローム」の違いとは

上記3つは、用語だけ聞くと似たようなものだと感じるかもしれません。しかしその実態は、下記のように異なっています。

  • 肥満:身体に必要以上の脂肪がついている状態。病気ではありません
  • 肥満症BMI25以上かつ肥満による病気(後述)を合併している、または内臓肥満が確認できる状態。治療が必要な病気です。
  • メタボリック・シンドローム:ウエスト(腹囲)が男性85cm以上、女性では90cm以上。さらに高血糖、高中性脂肪血症、HDLコレステロール血症、血圧高値のうち2つ以上がある場合。病気そのものというよりは、病気の予備群と考えます。

BMI(Body Mass Index=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
例えば身長170cmで75kgの人の場合、75 ÷1.7÷1.7=25.95 ということになります。正常範囲は18.5~25です。

つまり、肥満症は医学的に治療が必要な状態です。

WHO(世界保健機関)は、世界的な肥満の判定基準をBMI30以上と定めています。しかし日本人の場合、BMI25以上になると様々な合併症の頻度が高くなるため、このように定められています。になると様々な合併症の頻度が高くなるため、このように定められています。

「肥満による病気」って?

肥満症の定義には、「肥満による病気を合併している」とありました。実際、肥満は非常に様々な病気の原因となり得ることが知られています。

まず、肥満が多くの生活習慣病の原因となることは想像に難くないでしょう。脂質異常症高血圧高尿酸血症(痛風)脂肪肝などの他、女性であれば月経異常を起こすことがあります。

あるいは、物理的な問題が病気を招く場合もあります。体重を長期間にわたって支え続けることで膝関節の軟骨がすり減ってしまったり(変形性膝関節症)、腰椎が変形・圧迫骨折を起こす変形性腰椎症を引き起こしたりします。また、首周りの脂肪が気道を塞いでしまい、睡眠時無呼吸症候群につながることもあるのです。

内臓肥満ってなに?

肥満には、「皮下脂肪型肥満」「内臓脂肪型肥満」の2種類があります。テレビ番組などで、「リンゴ型肥満」「洋ナシ型肥満」という言い方を聞いたことがある方もいるかもしれません。

皮下脂肪型肥満(洋梨型肥満)」は女性に多くみられます。お尻のあたりから大腿部にかけて皮下脂肪がつくことでみられる肥満です。

一方、「内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)」は男性に多くみられます(女性にもみられることがあります)。お腹の上部がせり出すタイプの肥満で、主に内臓脂肪脂肪肝などが原因となります。こちらのタイプの肥満は内臓に負担をかけるだけでなく、合併症を引き起こしやすいのが特徴です。

肥満症の治療は病院で

肥満症患者と医師
肥満症の治療は、内科、糖尿病内科、内分泌代謝内科などで行います。

基本となるのは、食事や運動といった生活習慣の改善です。まずは「体重3kg減」「ウエスト3cm減」など、少しずつ目標を定めて治療に取り組んでいくと良いでしょう。僅かな減量であっても、生活習慣病の予防には非常に効果的なのです。

食事療法

肥満症の治療で最も大切なのは、消費エネルギーが摂取エネルギーを上回るようにすることです。医師から摂取エネルギーを指示された場合、そのエネルギー量を守ってください。

主食(炭水化物)・主菜(良質なタンパク質)・副菜(ビタミン、ミネラル、食物繊維)をバランス良くとることを心掛けます。極端に食事を減らすとかえってリバウンドを起こしやすくなるため、必要な栄養はしっかり摂取してください。

食事の量を減らすと物足りなくなってしまうのでは、と思う方のために、いくつかコツを紹介します。

  • よく噛んで、一口ずつゆっくりと食べる
  • 「ながら食い」をしない(無意識の食べ過ぎを避けることにつながります)
  • 食事日記(食事の記録)をつけ、自分の食生活を見直してみる

なお、食事制限を行っている間も、水分はしっかり摂りましょう。後述する運動療法の最中に水分不足になってしまうと、かえって身体によくない影響を及ぼす場合があります。

運動療法

運動療法だけで肥満症を治すことはできないので、食事療法と組み合わせて行ってください。また、他の病気を合併している場合もあるため、運動を行っても問題ないか必ず医師に相談しましょう。

下記のような有酸素運動が有効とされています。無理のない範囲で続けましょう。

  • ウォーキング
  • ジョギング(ゆっくりで構いません)
  • 水泳

薬物療法

BMI35以上の肥満症に関しては、医師の指導のもとマジンドール(商品名:サノレックス錠)という薬を用いることがあります。ただし、この薬には依存性があり服用期間はできるだけ短くしなければなりません(最長でも3ヶ月)。その他にも様々な副作用の報告があり、さらに服薬をやめるとリバウンドを起こしてしまう場合も少なくありません。

決して安易に処方して良いものではなく、肥満を専門に治療している医師とよく相談の上治療を受けるようにしましょう。くれぐれも、基準外の方が自己判断で使用することのないようにしてください。

外科療法(スリーブ状胃切除術)

BMI35以上の高度肥満症患者さんか、BMI32以上かつ糖尿病や高血圧などの治療が必要な場合、手術による治療を行うことがあります。

日本で最も多く行われている方法が、スリーブ状胃切除術です。腹腔鏡を用いて、胃の外側を大きく切り取ります。切除後の胃は、バナナ1本程度の大きさ(容量:100ml程度)になります。切除した胃はお腹に開けた穴から摘出するため、元に戻すことはできません。

食事の摂取量を減らすことで、大幅な減量を見込むことができます。ただし、食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎の方は受けることができません。

BMI35以上におけるスリーブ胃切除術は保険適応です。

薬や手術は「楽して痩せる」方法ではありません

薬物療法や外科療法は、決して楽に痩せるためのものではありません。食事や運動による治療で効果が見られず、このままだと生命の危険があるという患者さんに対する治療法です。まずは食事療法・運動療法をしっかり行うことが大前提となります。

薬による治療には、依存や副作用の危険が伴います。また、高度肥満の方の手術には大きなリスクが伴いますし、他の手術と同じように合併症が起こる危険性もあります。これらの治療については、主治医ともよく相談して検討してください。

最後に

ここまで、肥満症の診断と治療について解説を行ってきました。肥満症は治療が必要な病気であり、まずは食事や運動によって改善を図っていきます。高度な肥満に対しては薬や手術による治療も行うことがありますが、これらが第一の選択肢ではないことを覚えておいてください。

健康診断で肥満症やメタボと診断されたら、まずはかかりつけ医に相談してみてください。医師の指導のもと、無理のない減量で健康な身体を取り戻しましょう!