あなたは一日にどのくらいの塩分を摂っていますか?自身がどのくらいの塩分を摂取しているのか、日頃から意識していない方も多いかもしれません。塩分の摂りすぎはよくないというのはわかっているけれど、ちょっと摂りすぎたくらいなら大丈夫と考えていませんか?

この記事では、塩分のとりすぎによりからだに起こる症状と病気について解説しています。

目次

日本人の塩分摂取量

厚生労働省の出している基準によれば、1日の塩分摂取量の目標は成人男性7.5g未満、成人女性6.5g未満となっています(e-ヘルスネットより)。しかし、WHO(世界保健機関)は1日あたりの塩分摂取量を5.0g未満日本WHO協会より)とうたっており、日本の基準は世界的な基準と比べると、多めの摂取量が設定されていることがわかります。

さらに実態をみると、20歳以上の1日あたりの食塩摂取量は平均10.1g令和元年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)より)と報告されています。低カロリー・低脂肪であると評価されることのある和食も、実は多くの塩分が含まれており、わたしたち日本人は塩分過多に陥りやすい状況にあるのかもしれません。

塩分の役割

そもそも塩分は人間の体の中でどのような役割をしているのでしょうか。主な働きは次の4つです。

  • 浸透圧の調整
  • 酸塩基平衡の維持
  • 栄養の消化吸収のサポート
  • 神経伝達、筋肉収縮のサポート

このうち、「浸透圧」「酸塩基平衡」はあまり聞き慣れない言葉かもしれません。以下で詳しく解説しますが、いずれも生命維持のためにはちょうど良い状態を保つことが必要ですが、塩分はこれら浸透圧や酸塩基平衡をちょうど良い状態に保つために重要な役割を果たしています。

浸透圧の調整

浸透圧とは、薄い膜を隔てて濃い液体をと薄い液体がある場合、濃度を一定にしようとして薄い液体が濃い液体のほうに移動する、というしくみです。夏に蒸し暑い部屋と冷房の効いた涼しい部屋があった場合、2つの部屋の間のドアを開けると温度が一定となるように冷たい空気は暑い部屋に移動していきます。浸透圧もこのようなイメージです。

からだの中の浸透圧では、人間のからだの中の水分(体液)である細胞内液(細胞の中にある体液)と細胞外液(細胞の外にある体液)の間で水分が移動します。細胞の内外で水分が移動するのは、細胞外液のうち主に血液に塩分(ナトリウム)が含まれているためです。

塩分を摂取したりあるいは水分不足により血液中の塩分濃度が高くなり、細胞内から血液中へ水分が移動し、血液中の塩分濃度を薄めようとします。逆に水分を摂取すると、血液中は相対的に塩分濃度が低くなります。その結果、今度は血液中から細胞内に向かって水分が移動し、血液中の塩分濃度を濃くしようとします。

酸塩基平衡の維持

酸塩基平衡とは、体内の酸性とアルカリ性のバランスが保たれていることです。人間の体液のphは7.4±0.05日本腎臓学会誌より)に保たれており、弱アルカリ性の状態です。このバランスが崩れると、酸性に傾いた場合はアシドーシス、アルカリ性に傾いた場合はアルカローシスという状態になり、次のような症状がみられます。

  • アシドーシス:吐き気、嘔吐、頭痛、不整脈、意識レベルの低下、など
  • アルカローシス:嘔吐、食欲不振、筋力低下、など

塩分は体内ではナトリウムイオンNa+塩化物イオンClとして存在し、体内のph(酸性とアルカリ性のバランス)を一定に保つ役割を担っています。

栄養の消化吸収のサポート

ナトリウムイオンは食べ物吸収するための手助けをしています。また一方の塩化物イオンは胃酸の主成分となっており、消化をするために必要な成分となっています。

神経伝達、筋肉収縮のサポート

ナトリウムイオンは興奮を伝達し、筋肉を収縮させるという役割があります。

塩分の過剰摂取で起こる症状

梅干し

塩分を摂取すると、血液中の塩分濃度があがります。すると、次の3つのような症状を引き起こします。

喉の渇き

塩分の過剰摂取により血液中の塩分濃度が上がると、細胞内の水分が細胞外へ出ていきます。同時に、そのサインとして喉のかわきを感じます。

むくみ

医学的には浮腫(ふしゅ)といいます。血管内の水分が血管の外に漏れ、細胞同士のすきまを満たす液体(間質液)が増えると、むくみの症状が起こります。慢性的に塩分の過剰摂取が続くと、水分は外に漏れやすくなります。

血圧が上がる

血液中の塩分濃度が高くなると、細胞内から水分が出ていくと同時に、心臓は血流量を上げることで血液の液体成分を増やし、血中の塩分濃度を下げようとします。

血圧は「1回心拍出量(血流量)×心拍数×末梢血管抵抗」のことをいいますが、血流量が上がると血圧も高くなります。また、ポンプである心臓が頑張って働かなければいけなくなり、心臓にも負担がかかります。

塩分過多と3つの病気

塩分摂取過多により引き起こされる病気の代表として、高血圧、腎臓病、心臓病の3つがあげられます。

高血圧

前の項で説明した通りですが、血液中の塩分濃度が高くなると、その濃度を下げるために血流量が増えて血圧が上がります。塩分過多の状態が続けば、慢性的な高血圧の原因になる場合もあります。

腎臓病

体内の余分なナトリウム(塩分)を排泄する役割を持っているのが腎臓です。塩分過多になると腎臓の排泄機能が対応しきれなくなり、腎臓が疲弊します。そうすると体内のナトリウム濃度が上がり、上記の高血圧、心臓病のサイクルにもつながります。腎臓そのものは機能が弱ってしまい、ナトリウムだけでなく、体内の余分なものを排泄する機能が弱くなってしまうため、身体に不必要なものが蓄積されてしまいます。

また、高血圧により腎臓病を招くケースもあります。腎硬化症という病気です。高血圧は動脈硬化を起こすことがありますが、動脈硬化により腎臓への血流が低下し、腎臓そのものが硬くなってしまう(=腎臓の機能が低下してしまう)という病気です。

心臓病

高血圧の方が塩分をさらに取り続けると、心臓の負担を増やし続けることになり、動脈硬化心肥大が進みます。その結果、心筋梗塞狭心症、脳卒中を引き起こす場合もあります。

まとめ

塩分が本来持っている役割と、取りすぎが引き起こすトラブルについて、少しでも頭の片隅に置いていただければと思います。塩分についての知識を少し補うだけで、医療機関のお世話になることが随分減る気がしませんか?