頭を強く打つことで生じる頭部外傷の危険性を知っている人は多いと思います。これと同様に、お腹を打つことで起きる腹部外傷にも注意が必要です。頭部に比べると頻度は少ないものの、臓器を損傷した場合は緊急を要する状態になることもあります。今回は腹部外傷について紹介していきます。

目次

腹部外傷の原因

外傷の原因は、大きく次の2種類に分けられます。

鈍的外傷

自転車などでの転倒、交通事故・高い場所からの転落など外から鈍的な力による外傷を鈍的外傷といいます。スポーツ時の怪我でよく起こる打撲や捻挫、骨折なども鈍的外傷に分類されます。腹部外傷の原因で最も多いです(慶應大学病院医療・健康情報サイトKOMPASより)。

鋭的外傷

包丁やナイフなど鋭利な刃物や、釘、ガラス片や金属片などによる外傷を鋭的外傷といいます。切り傷(切創)や刺し傷(刺創)は鋭的外傷になります。

今回は原因として多い鈍的外傷を取り上げます。

腹部外傷の危険性

人間の臓器を詰め合わせた箱
腹部には、生きていく上で重要な役割をしている臓器が多くあります。鋭的外傷の場合は出血などで外傷にすぐ気がつきますが、腹部に鈍的外傷が起きた場合、見た目で異常がなくても体内で臓器が損傷を受けていることも考えられます。臓器の種類は以下の2つがあります。

実質臓器

空洞がなく中身のある臓器を実質臓器といい、腎臓や肝臓、脾臓(ひぞう)、膵臓(すいぞう)が当てはまります。

腹部外傷によって臓器の一部分が割れたり裂けたりして損傷を受けると、ほとんどの場合出血がおこります。また膵液や尿など、臓器で作られる体液が体内に漏れ出てしまって腹膜炎などを引き起こす恐れもあります。

管腔臓器

中が管状になっている臓器を管腔臓器といい、胃や十二指腸・大腸・小腸がこれに当たります。

腹部外傷によって臓器内部の圧力が上昇してしまうと、破裂してしまう場合があります。そうすると食物や便など、管腔臓器内にある内容物が体内に漏れ出てしまい、腹膜炎などを引き起こしてしまう危険があります。特に大腸から便が漏れ出て細菌による腹膜炎を引き起こした場合、重篤な状態に陥ることもあります。

臓器の損傷は放置すると命に関わる危険性も高いため、腹部外傷の場合は見た目に異常がなさそうでも特に注意が必要です。

腹部外傷と症状

腹部外傷が起きた場合、腹痛に加え、ブルンベルグ徴候(打ち付けた場所を押すと痛む)や腹部板状硬(押すと患部が固くなる)がみられることがあります。

最初は元気でも、時間の経過と共に症状が表れることもあります。お腹をぶつけた後に以下のような症状がみられた場合、体内で大量に出血を起こしている可能性があります。すぐに病院を受診するか、救急搬送が必要です。

  • 嘔吐
  • 顔色が悪い、顔つきが苦しい
  • お腹が膨らんでいる
  • 貧血
  • 意識障害

また、子供が強くお腹を打ったときは症状をうまく伝えられない恐れがあります。周囲が特に注意して様子を見ましょう。

まとめ

お腹を強く打ったとき、内出血や擦り傷など肌に変化をきたすことはもちろんありますが、見た目に表れない部分で外傷が起こる場合もあり得ます。また遅れて症状が出てくることもあるため、治療が間に合わず命を落とす危険もあります。腹部外傷によって臓器損傷の可能性があるということを把握しておきましょう。