腸管出血性大腸菌感染症は、下痢・腹痛の後に、血便を伴う悪化する腹痛が特徴な症状である感染症であり、O157・O111などが原因菌として分離(特定の細菌をつかまえて培養により増やすこと)されています。

この感染症は、食中毒という形で集団感染が生じて例年、報道に取り上げられ、年間3,000~4,000人の報告がありますが、この中で重症な経過をとる溶血性尿毒症症候群(HUSを発症すると、死亡例の報告もあります。

ここでは、腸管出血性大腸菌感染症による食中毒などの歴史、症状経過と早期発見の方法、予防法に関して説明します。

目次

本年の腸管出血性大腸菌(O157)の集団発生の事例

2017年8月~9月、関東地方を中心に腸管出血性大腸菌感染症(O157)が広域に発生したニュースは、皆様の記憶に新しいと思います。

8月11日に群馬県の総菜店で調理・販売された料理を食べた人のうち、腹痛・血便を訴えて医療機関を受診した例が多く、そのうちの11人から遺伝子検査で同じ遺伝子型の腸管出血性大腸菌(O157)が分離されました。この11人のうち4名が入院し、3歳女児が溶血性尿道症症候群(HUS)を発症して死亡しました。感染源としては、ポテトサラダ・コールスローサラダが推定されましたが、特定できませんでした。

本年では、関東地方を中心に10を超える都道府県で同様な食中毒として報告がされています。しかし、実際の症例数はこれ以上に多いと考えられ、本症に関しての啓発が必要です。

腸管出血性大腸菌(O157、O111)集団発生の歴史

米国では、1982年に米国でハンバーガーを原因とする出血性大腸炎が集団発生して、腸管出血性大腸菌(O157) が原因菌として分離されました。その後も、オーストラリア・ヨーロッパでも集団発生が相次いで発生して、その存在が認知されてきました。

日本においては、1990年の埼玉県で、幼稚園での井戸水を介したO157の 集団発生が起こり、園児の2名の死亡があり注目されました。1996年には、兵庫県・岡山県でカイワレ大根が感染源として推定され、9000人以上の大規模な食中毒感染と3名の死亡が報告されました。

牛肉・レバーによる集団報告例もあります。2001年には、輸入による牛たたきが感染源となり7都県で240名の患者発生が報告されました。2011年4月には焼肉チェーン店で181名の集団感染例があり、このうち82名から腸管出血性大腸菌のO111が検出され、21名が脳症を発症、5名が死亡しました。

こうした事態から、厚生労働省は生食用食肉の基準を改定し、2012年には牛生レバーの提供を禁止する措置をとりました。

この腸管出血性大腸菌感染症は、第3類感染症として報告が義務とされており、例年3000~4000人程度の報告があります。しかし実際にはこの報告がされない軽症例や、症状がない不顕性感染の症例がさらに存在しているものと考えられております。

腸管出血性大腸菌の感染経路・症状

O157をはじめとした腸管出血性大腸菌は、主には細菌が付着した飲食物を口から摂取することにより感染します。感染をさせる菌の数は50-100と少量です。この理由としては、O157が酸に対して抵抗性が高く、胃酸の中でも生存が可能であることが挙げられます。

潜伏期間(感染しても症状がない期間)は2~5日であり、症状がなくなっても発症から1~2週間は便から排泄されます。

血便がみられたら速やかに医療機関を受診してください。この際に、1週間以内でのバーベキューや焼き肉店・焼き鳥店での喫食、動物との接触の有無が診断に重要な情報となります。治療としては、抗菌薬の処方・整腸剤の投与です。

重症な合併症として溶血性尿毒症症候群があります。この兆候としては、下記があります。

  • 貧血による顔色不良
  • 血小板減少による出血傾向鼻血あざ
  • 急性腎不全(尿量の低下・むくみ
  • 神経症状(けいれん・意識低下)

この合併症を起こした患者さんは集中治療室での管理を1~2週間要し、致死率は1~5%です。

家庭で可能な腸管出血性大腸菌の予防対策

基本的には食中毒予防の原則として、二次感染を防ぐことが重要です。

食品の鮮度を保つ

冷凍庫-10℃以下、冷蔵庫は10℃以下で保存してください。

大腸菌は寒冷には比較的強いため、殺菌には加熱が必要となります。

食肉の加熱

熱には弱いので、75℃・1分以上の加熱をしてください。特にバーベキューでは加熱が不良となる傾向があります。電子レンジ使用ではかき混ぜて熱を加えてください。

肉と野菜・果物は分けて調理する

生の魚・肉を切るなどの調理後には、包丁・まな板・食器などを必ず洗ってから、野菜・果物の調理を行ってください。

タオルや衣類、入浴

感染者が家族にいる場合には、タオル・衣類・洗濯を別にしてください。また、入浴は最後にして、シャワーのみがよいでしょう。

まとめ

腸管出血性大腸菌のこれまでの食中毒例、感染源、その対策に関して説明いたしました。この感染症は飲食店・家庭間での感染が問題となります。嘔吐・下痢の後でみられる血便の症状が本症に特徴であり、早めの受診が推奨されます。原因食物は食肉・野菜など多岐にわたりますので、日々の食事での調理方法、調理場や家庭での手洗いなどの衛生管理を再確認してください。