目次

脳卒中ときいて、「口の治療も必要になる」とすぐに思いつく方は少ないかもしれません。
しかし脳卒中は、口の機能にも多大な影響を及ぼし、口の状態を評価することはリハビリの段階で非常に重要になってきます。

また、脳卒中などで長期入院が必要な方は、1つの病院にずっとお世話になることはなく、そのことが口の治療を難しくすることもあるようです。

今回は東京医科歯科大学の古屋 純一先生に、脳卒中と口の機能の関係、そして脳卒中の療養にはつきものといわれる転院の制度についておうかがいしました。

長期入院に転院はつきもの?転院しなくてはいけない国の制度とは

古屋先生

今回お話を伺った古屋先生

――まずは要介護(長期入院が必要)となる病気についてお聞かせください。

私は歯科医師なので、口のことと関係している病気で言うと、脳血管疾患とか、脳卒中といわれる病気が関係してきます。
というのも、筋肉や歯など、口の構造物の動きを支配しているのは脳です。
なので歯があっても、脳の機能が障害を受けると口は動かなくなってしまいます

脳の機能が障害を受ける病気はいくつかあるのですが、要介護になる原因疾患の第1位は脳卒中です。第2位が認知症。第3位は高齢による衰弱です。

このうちの1位と2位はどちらも脳の機能が低下していく病気となっています。
脳卒中は発症すると脳の機能が一気に落ちてしまいますし、認知症はだんだんと脳が萎縮していく病気なので、やはり脳の機能が悪くなってしまう。
特に口との関係では、この2つが要介護になる大きい病気です。

さらに、認知症で入院するというのは本当に悪い状態なので、長期入院に関しては脳卒中が一番関係してきます

――長期入院となると、どうして病院の移動が必要なのでしょう。

脳卒中で考えていくと、発症後は全身状態を安定させなくてはいけませんから、いわゆる急性期病院というところに入院をします。急性期病院というのは大学病院や、地域の大きい基幹病院と呼ばれているところです。

脳機能の障害が残ることが多い病気なので、当然リハビリが必要になりますが、急性期病院で実施できるリハビリは限られています。そこで、回復期リハビリテーション病院に転院する必要があるのです。

ところが、脳卒中を発症してから、回復期リハビリテーション病院に転院できる期限が国の制度で決まっています脳卒中だと発症後2ヶ月以内が回復期リハビリテーション病院に転院できる限度となっています。

――思ったよりも短い印象です。どうして期限が決まっているのでしょうか?

国の方針で、「急性期病院は生命に関わる治療を施すところ」で、「リハビリを集中的に行うのは回復期病院」という風に、病院の役割や機能というのが決まっているからです。

リハビリがある程度進んだあとの維持期についても、患者さんの状態を保つための施設に行くことになっており、それぞれ役割が違います。

大学病院は急性期病院であることがほとんどで、たとえば医科歯科大学に入院されても、脳卒中の場合には、2か月以内には全身状態を安定させて、リハビリのための転院をして、病院を移って療養生活を続けていく制度になっています。

――回復期以降も入院期間は決まっていますか?

脳卒中に関して言えば「こういう風に治療や療養をしていきますよ」という計画書のような、クリニカルパスというものが、どの地域にもだいたいあると思います。

上記リンク先は、東京都の地域連携の取り組みを紹介したHPで、患者さん用の脳卒中パスも一部公開されているので誰でもダウンロードできます。

病気によっても異なりますが、回復期病院では最大で180日間リハビリテーションを行うことができます。逆に言うと6ヶ月しかいられないということですね。

リハビリが終わった後は、基本的には自宅に帰ることを目指しますが、中長期的に医療的ケアやリハビリが必要で退院が困難な方は療養病床に、在宅復帰を目指したリハビリが必要な方は介護老人保健施設に、常時介護を必要とする方は介護老人福祉施設など、地域の様々な病院・施設に転院することも多いです。

――患者さんご本人やご家族はずっと同じ病院でみて欲しい気持ちもあると思うのですが、入院期間の制度は、いかなる場合も適応されるのでしょうか。

もちろん症状によって入院期間は異なりますが、地域の病院の役割を明確化することによって、住み慣れた地域でずっと暮らすことを目指すのが国の方針です
医科歯科大学は急性期病院ですから、その役割を果たすことがまず大切です。

――治療は急性期病院で、ということですが、回復期病院に転院してから病状が悪化してしまった場合にはどうなりますか?

もし、全身状態が悪化して、回復期病院で対応が難しい場合には、地域の急性期病院に転院することになると思います。
そういった地域連携がいま、重要とされています。

―――転院の際、次の病院は急性期でお世話になった病院が紹介してくれるのでしょうか。

主治医や看護師と協力し、福祉の専門職である社会福祉士(医療ソーシャルワーカー)による転院支援を受けながら、転院先を探していく場合がほとんどだと思います。

転院する側(ご家族やご本人)の希望も重要ですが、受け入れる側の病院にも条件があります
たとえば気管切開があったり、管からの栄養があったりする状態だと、管理の都合上受け入れられないとか、病院のマンパワーや設備によって、受け入れを判断していくことになります。

医療ソーシャルワーカーの力を借りず、ご家族の方が次の病院を見て回る探し方も良いと思いますが、病院の機能が細かく分かれている上に、様々なルールがあるので、患者さんやご家族が自分の力だけで見つけるのは大変だと思います

次のページ:転院による口の治療への影響