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転院による口の治療への影響

――転院によって、口の治療に何かしらの不都合は考えられますか?

脳卒中は脳の病気なので、口も動かなくなってしまいます。口が動かないということは、食べれないし、喋れません。QOL(生活の質)が下がってしまうので、それをリハビリによって回復していくわけです。

口の治療、歯科治療は、口の機能のリハビリテーションにとても重要ですが、どうしてもまずは全身状態を安定させることが優先されます。実際に、クリニカルパスの話がありましたが、パスに口の治療のことはあまり書かれていないと思います

特に、歯科はどの病院にでもあるわけではないですから、口の機能を守るために役立つ歯科治療の情報が、転院によって途切れてしまう可能性があります。

急性期病院は歯科がある大きい病院が多いですが、回復期病院では歯科がないところも多いです
歯科のない病院にも、地域の歯科医が訪問してくれる場合がありますが、急性期病院からの情報が十分に伝わらないこともあると思います。

口のことが後回しになってしまうのは仕方のない部分もありますが、意外に回復期になってからの方が口の問題がクローズアップされると私は考えています。

――実際に治療の情報が上手くわらないことで、どんなことが懸念されますか?

急性期病院では歯科が口の機能の管理を行っていたとしても、回復期に行った時に、その情報が引き継がれなければ、継続的な管理が必要だったとしても治療を受けられないといった状況が起こり得るのです。

たとえば、口や喉の問題で上手く食事ができない場合(摂食嚥下障害といいます)、病状を安定させるために、いったん胃ろうを作りましょうという選択肢がとられることは結構あります。鼻から管をずっと入れているのは苦しくて、嫌な方も多いので。

それで決められた入院期間中に、嚥下機能が十分に改善しなかった人は、胃ろうのまま病院を移ったり自宅に帰ったりすることになります。

しかしその時、きちんと口から食べる力が評価されないと、本当はリハビリをすれば胃ろうを外せる人に対しても、「この人は口から食べられないんだ」と思われてリハビリが止まってしまう可能性も考えられます

今はそういうことは少なくなってきていると思いますが、その人の食べる力がどれくらいあるかをきちんと評価してもらって、必要に応じてリハビリをすると良いと思います。

特に脳卒中においては、重度の意識障害がなければ嚥下障害が半年後まで残るのは10%くらいと言われていて、だんだん良くなってくることが多いです。

患者さんの病態は変わっていくので、定期的に食べる機能を評価してあげることが大切ということですね。

少なくとも回復期病院にいっている人は、ちゃんと口のリハビリもやっていると思うのですが、そのあと回復期から家に帰ってきた後も、必要に応じて食べる力の評価を受けることが大事です。しかし、まだまだ十分にそういうことは広まっていません。

それをどうにかするための取り組みを、医科歯科で少しずつ始めています。

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