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治った後のことも見据えて、意思決定を支援

―二つ目の「意志決定支援・選択支援」は特に、治癒が難しくなってからの対応が主になるでしょうか?

顕著に問題となるのはそこでしょう。成人ではアドバンス・ケア・プランニングといいます。これから起こることにどう対応するのか、何を大切にしていくかを事前に話し合うことが大切です。患者さんと主治医の意向を確認しながら、何がその子にとって一番なのかを一緒に考えていきます。

もう一つ大切なのは、病気の軌跡illness trajectoryです。がんでは多くないかもしれませんが、病気によっては、脳性麻痺のように進行はしないけれど不安定なものと、代謝病のように少しずつ進行していくものとがありますよね。すると、同じような事象が起こった場合でも、1年後・5年後・10年後を見据えながら介入を考える必要があります。ですから、家族の意向だけでなく、病状や病気の経過を知ることから始めなければいけない場合もあると思います。退院後の生活も含め、その先を見据えて考えます。

 

―ご家族の意向に加え、ご本人の気持ちも聞きながら進めるのでしょうか。

本人の意向が最も大切です。子どもの場合は本人の推定意思としての家族の意向に寄りがちです。ただ、家族が“家族の意思”として話しているのか、“子どもの代弁者”として話しているのを意識する必要はあります。“ケアする人”として、自分がケアしやすいように話しているとすれば、それはその子の本当の意向ではないかもしれません。ですから、家族の意向はもちろん重要視しますが、あくまで一つの意見として聞き、最終的には「この子のこれからを見据えたときに何が大事か」を考えますね。

何をしたいか、どういうことを大事にしたいかは子どもの話の中で出てくることもあります。「家に帰りたい」などですね。だから、たとえ小さい子どもの話でも、きちんと耳を傾けるようにしたいと思っています。

 

―お子さんやご家族に説明するとき、気をつけていることはありますか?

「緩和ケア」という言葉に抵抗を示すご家族もいらっしゃいます。特に、治らないかもしれないという時期に緩和ケアとなると、看取りが近いと思ってしまう家族も多いです。それを踏まえた主治医から「(緩和ケア医を)どう紹介すればいいですか」と聞かれることもあります。

ですが僕は、「緩和ケアを行います」ということはきちんと伝えようと思っています。「緩和ケアで行うのは看取りだけではなく、症状緩和を含めてその子が穏やかに過ごせるお手伝いをします」とお伝えしますが、状況が思わしくないときは最期をどのように過ごすか話し合うことも大切で、そういうことも担当するということを認識していただくことも大切な場合があると考えているからです。

薬も同じです。副作用や効果など、「この子の場合はこういう効果がある」という細かい説明は、特に家族には必ずしていますし、本人にも年齢・発達に合わせてしっかりと伝えるようにしています。

 

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