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「元気をもらいに病院に来ている」

―お子さんやご家族と話すとき、コミュニケーションにあたって心掛けていることはあるでしょうか。

最近は、傾聴するようにしています。外来は特にそうですね。

自分が担当した患者さんには、「何か心配なことがあれば、平日日中に気軽に電話してください」と伝えているので、電話相談をよく受けます。ちょっとしたことでも掛かってきますが、話している間に解決するケースも多いです。

例えば、「ちょっと熱っぽいけれど、ご飯は食べていて元気」という相談は多いです。「救急外来にかかったらどうですか」とか、「成育までは遠いので、近くのお医者さんにかかってみて」「それで解決しなかったら、また電話をください」などとお伝えします。

 

―相談も含めて、治療を終えた後に長いお付き合いになる患者さんも多いですか?

生きている子、亡くなった子、どちらもいますね。

小児がんは、治った後も様々な症状が出ます。神経芽腫のお子さんであれば低身長や、内分泌でいうと性腺ホルモンが出ないから思春期が来ないなどです。治った後のことを本人と一緒に全体的に見守っていき、適切な時期に適切な検査を行って必要なことを提案していくのが長期フォローアップ外来です。

私たちは、何年経っても長期フォローアップは必要だと思っています。その中で、30代になった患者さんから「会社でこういうことをしている」という話を聞くと、私の知らない社会を知ることができて楽しいです。

一方、亡くなった子のご家族とも結構繋がっています。濃厚な時間を過ごしたその子を知っている人、というのが私しかいないこともあるので、電話や年賀状をいただくなどはありますね。

 

―普段、先生は子どもたちに医療を提供する立場だと思いますが、反対に「子どもたちからパワーをもらっている」と感じる場面はありますか?

元気をもらいに病院に来ているような感じです。みんな、本気で遊んでくるんです。お母さんと真面目な話をしている時に、全然関係ない子が後ろからつついてきたりします(笑)。

みんな無邪気で、そして賢いと感じます。私たちが思いもよらないくらい、自分のことと向き合って、思い切り考えているんです。毎日が真剣なのだと思います。

 

―最後に、小児がんについて、伝えたいことがあればお聞かせいただければと思います。

(小児がんと向き合うのは)とても大変な日々ですが、その中に実際に入ってみると、笑えることも楽しいこともあります。

周りから見ると「苦しい」「つらい」「涙」など、嫌なことのイメージが強いとは思います。それももちろんありますが、子どもたちは子どもたちらしく、真剣に遊んでいますし、勉強もします。成長や楽しいこと、新しい出会いもあるんです。そういうイメージが、子どもたちの未来に繋がるといいなと思っています。

 

編集後記

終始穏やかな口調で、小児がんについて語ってくださった塩田先生。特に話題が子どもたちの様子になると、楽しそうな表情を浮かべていたのが印象的でした。今回、全部で10名にお話を伺いましたが、どなたも明るい雰囲気をまとっていたことが強く記憶に残っています。

「つらい」「苦しい」と思われがちな医療現場ですが、その中には普通の子と同じように笑ったり泣いたりしている子どもがいて、その子たちを懸命に支えているチームの存在がありました。筆者自身、今回の取材の前後で「小児がん」という病気への印象が大きく変わったと感じています。

小児がんやその医療現場を、「自分とは関係ない」と思い込まず、病気と戦いながら生活している子どもたちの存在を知ってください。そして、治療を終えた彼らが戻ってきやすい社会を作っていくことができればと思います。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年2月26日時点の情報です。