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「リハビリは、安心して見られる活動でありたい」

―親御さんは、リハビリに対してどのように携わっていくのでしょうか?

小児がんの治療は、親御さんが見ていてつらく感じる場面も多いと思います。だからこそ、リハビリはできるだけ安心して見られる活動でありたいと考えています。ご家族のニーズとしては機能面の改善や発達の促進が一番多いですが、「楽しんでいるところや笑っているところを見たい」というニーズも結構あるのです。

なので、親御さんにリハビリの様子を見ていただくことは多いです。それは楽しい時間の共有だけではなく、「◯◯ちゃんはもう少し☓☓の筋力をつけたいので、こんな運動を促しています。お部屋でお母さんと遊ぶ時もこんな風にすればここが鍛えられますよ」といったように伝えることで、日常生活のなかでもリハビリの要素をプラスすることができるようになるというメリットもあります。

ただ、発達段階やお子さんのタイプによっては、より効果的な介入のために、あえてお預けしていただくこともあります。

 

―実際にリハビリをご覧になった親御さんの反応はいかがですか?

ありがたいことに、笑顔で見ていただいていることが多いですね。一緒にボールプールに入られるお父さんもいらっしゃるくらいです。リハビリ室は遊具や玩具に囲まれた見た目にも楽しいスペースなので、笑顔で過ごしていただくことが多いと思います。

それから、普段は親御さんがいないとダメなお子さんでも、慣れてくるとリハビリの時間は一人になれることがあります。すると、その時間はお母さんたちに休んでいただける場合もあるのです。リハビリの時間は限られていますが、頑張る親御さんたちにとっての休息の時間や、楽しい時間を一緒に過ごすという意味でのリフレッシュの時間になったら良いなとも考えています。

 

―リハビリを見ている親御さんから質問を受けることはありますか?

ありますが、「これは遊んでいるだけなんじゃないですか?」などと目的を聞かれることは意外と少ないですね。はじめに親御さんとお会いしたときにリハビリの目的を伝えて同意を得ているので、大きな目標を共有できているというのが大きいと思います。

一番多い質問は、「治療中にベッド上で何をしたらいいですか」というものです。その子の状態や発達にあわせて、先ほどお話ししたような課題を提案しています。

親御さんや病棟の看護師、保育士、CLSなどの多職種がいなければ、私たちはリハビリの目標は達成できません。そして、子どものリハビリはそれで良いと思っています。家族も含め、みんなが同じ目標に向かっているというところが大事だと考えているのです。手を出しすぎるとリハビリから卒業できなくなってしまうので、「一緒に」「私にもできる」と共有できるのが理想ですね。

リハビリは、目的と評価を定め、「これはこのために行う」というのが分かっていれば、誰にでもできます。だから、そこを評価して「ここが強い」「ここはまだ足りない」「これはできている」「これはこうすればできる」と明確にしていくのが私たち作業療法士の役割だと思います。

 

―単に「身体を動かす」というところに留まらない、たくさんの意味を持った時間なのですね。

そうですね。遊びも、子どもが自分の意思で動くことを大事にしているので、その日にやってほしい課題は目につくところに置き、お子さんに自分で選んでもらうようにしています。周りから見たら遊んでいるだけでも、実は大きな目的があるということが多いです。

例えば、電車遊び。楽しいリフレッシュ活動という面も当然ありますが、床でハイハイをしたり、片手で支えて遊んだりすれば全身運動になります。床に座って立ち上がる練習になることもあります。同じ電車遊びでも、子どもによって目的が変わるのです。

 

―リハビリの目標は、どのように設定していくのでしょうか。

一人ひとりの子や、最終的な目標によっても異なります。退院時期に向けて「ここまでに復学ができるようにする」という場合もあれば、病院で最期の時間をむかえるお子さんもいらっしゃるので、その場合はここで何をするかが大事になります。予後と、治療全体の目標やプランを考えることが非常に大切です。

小児がんの場合、柔軟に目標を変化させる必要があるのは難しい部分です。通常、作業療法士ははじめにショートの目標とロングの目標を決めて入るのですが、それがどうしても達成できなくなるときもあります。そうなったときに「じゃあ、次の目標はこうしよう」と変えていく必要があるのが特徴だと思います。

 

―病院で最期をむかえるお子さんに対してのリハビリというと、想像できない方も多いと思います。どんなことをしていくのでしょうか?

私たちは、緩和的な介入も行っています。痛くない姿勢を作ったり、痛みを出さない動作の獲得をお手伝いしたり、リラクゼーションやタッチケア、遊び方を検討したりもできるのです。そこは寄り添いながら課題を選んでいくことが大切だと思います。

リハビリは、「機能を元通りにする」という概念だけではありません。ニーズに寄り添いながら、終末期のお子さんにも積極的に関わっています。ご家族や本人のニーズがある限り最期まで離れることはありません。

 

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