尿失禁とはいわゆる「尿もれ」です。実は、尿失禁は60歳以上の高齢者の50%以上に存在し、日本国内に約300万人以上いるといわれています。

患者さんは尿が漏れることで、パッドやオムツをしなければならないことや尿の臭いが気になってしまうことなどから外出を控えてしまったり、人と会うことが減ったりとQOLを著しく低下させる大きな問題です。

介護をする家族の負担になる場合も多い「高齢者の尿失禁」。この記事では「高齢者の尿失禁」に焦点をあて、自宅ですぐに行えるセルフケアや、認知症患者さんに有効な行動療法など、尿失禁の治療について解説していきます。

目次

尿失禁の4つのタイプ

尿失禁は高齢者の多くが感じる症状のひとつですが、尿がもれてしまう原因、そしてその程度はさまざまです。まずは原因ごとの尿失禁のタイプについて見てみましょう。

尿失禁は腹圧性、切迫性、溢流性、機能性、そして反射性の5つのタイプに分類することができます。このうち反射性は脊髄損傷などを原因とする特殊な症状のため今回は扱いません。残りの4つについて解説します。

1.切迫性尿失禁

尿意を感じたあと、トイレが我慢できずに尿が漏れてしまう症状のことです。過活動膀胱の症状のひとつです。

2.腹圧性尿失禁

くしゃみや笑ったときなど、お腹に力が入ったときに尿が漏れしてしまう症状のことです。
女性では経膣分娩の回数や肥満などがリスクになります。一方、男性では前立腺の手術後に起きることがあります。

3.溢流性(いつりゅうせい)尿失禁

膀胱に溜まった尿が漏れ出てしまう症状です。漏れ出てしまうほど尿が溜まっている状態なので、腎不全になっていることもあります。また、症状ではトイレが近い(頻尿)と訴えて病院にこられる方もいます。

4.機能性尿失禁

手足の不自由や認知症のためトイレにうまく行くことができずに漏れてしまう場合で、膀胱の機能とは関係なく漏れてしまいます。
介護の負担が大きく、在宅医療を受けるような高齢者では最も問題になる症状です。

急に症状が出た場合、別の病気の可能性も…

尿失禁のほとんどは1,2で占められています。2つのタイプのいずれかに該当する方のうちおよそ30%の方で、両方が同時に起きているといわれ、その場合を混合性尿失禁と呼びます(高齢者尿失禁ガイドラインより)。

通常、高齢者の尿失禁の症状は「以前から症状が続いている」「徐々に悪化している」という特徴を伴うことが多いです。この点、急に症状が出た場合は何か別の病気である可能性が高いため、一度まず病院を受診してみることをお勧めします。

また、下腹部がポッコリと膨らんで張っている場合は尿が大量に残っている可能性が高く、溢流性尿失禁が疑われます。この場合も早めに病院を受診した方が良いでしょう。

今からできるセルフケア「骨盤底筋訓練」について

「以前から症状が続いている」という場合、まずご自身で行える治療は「骨盤底筋訓練」です。安全にかつ誰でも始めることができます。

骨盤底筋は、お尻や膣、尿道の周囲を支えるハンモックのような筋肉で、尿道・膣・肛門を締めるときに使います。以下の方法でトレーニングを行います。

  1. 1~2秒締める+2~4秒緩める
  2. 5~10秒締める+5~10秒緩める
  3. 1と2をそれぞれ5回繰り返す

上記を1セットとして、1日10セットを目標として行うと良いでしょう。

力を抜くときには息を吐き、腹部や大腿に余分な力が入らない(腹圧をかけない)ようにするのがポイントです。仰向けで膝を立てた姿勢や座った姿勢で行うのがよいでしょう。下腹部に手を置き、お腹に力が入らないように肛門や膣を締めたり、緩めたりを繰り返します。

毎日継続することも大切で、入浴中や電車やバスの移動時などを利用するとよいでしょう。 また、便秘対策、体重管理は必要不可欠で、ボディスーツやガードルなど締め付けのきつい下着の着用は症状を増悪させるので注意が必要です。

骨盤底筋を鍛えよう!

薬の治療について

病院では最初に抗コリン薬といわれる種類の薬が処方される場合が多いです。特に切迫性尿失禁がある場合は有効です。

しかし、この薬は喉が乾く、便秘、目が霞むといった副作用が比較的出やすい薬で、継続して内服して行くことが難しい方も多くいらっしゃいます。最近は副作用が出にくい種類の薬も発売されていますので、担当医に相談するのが良いでしょう。

腹圧性尿失禁の場合は気管支拡張薬としても使用されるβ2受容体作動薬(スピロペント®)が保険適応となっています。尿道の抵抗が強くなり尿漏れを防ぐ作用がありますが、一方で動悸や尿が出づらいなどの症状が強くなることがあります。

機能性尿失禁の対策について

機能性尿失禁の場合は患者さんの手足の不自由や認知症が原因となるため、骨盤底筋訓練や服薬の治療で良くなることは難しいです。

手足の不自由など活動が制限されている方の場合は、環境の整備が最も重要です。トイレまでの時間や負担を減らすために段差をなくす、トイレまでの導線に手すりを設置する、ポータブルトイレを利用するなど、生活環境を整備することで不自由になったからだの動きをカバーしましょう。

認知症のある方では、尿意やトイレ自体を理解することが難しい場合もあります。このため、介護をされているご家族の負担が大きくなってしまうことが多いです。

うまくオムツで排尿できればいいですが、その費用や交換の頻度から尿道に管を通して排尿(尿道カテーテルの留置)させてしまう場合も見受けられます。安易なカテーテル留置やオムツでの対応は、患者さんの活動性が低下し、足腰が弱くなる原因となります。適応に関しては十分な検討が必要です。

介護

在宅での尿失禁のケアに関する検討」では、排尿自覚刺激行動療法という治療が認知症患者さんの失禁回数を減少させることがわかりました。この方法は介護する人が患者の尿意の確認や失禁の有無を定期的に確認し、その時に排尿の意志があればトイレに誘導、さらにうまくトイレで排尿できた時には褒めてあげることで、トイレで排尿するという能力の再獲得を行なっていく方法です。

最初は2時間おきに尿意を確認していくことが推奨されています。およそ3ヶ月ごろから有効性が出てくるといわれています。リハビリなどの運動を一緒に行っているとより有効との結果が得られており、介護する方々との連携が重要です。

オムツについて

排尿が不安定になる高齢者の方々ではオムツを使用する可能性が出てきます。

現在様々なタイプのものが販売されています。
オムツ選びのポイントは自分でトイレにいける程度の活動ができるかということと尿もれの量になります。

オムツの種類は大きく分けると3種類あります。

1.パッド型

通常のパンツ内に当てるタイプのものです。わずかな尿もれなどが対象になります。最近は男性用のものも販売されています。

2.パンツ型

パンツ型なので、自分で履くことができるもしくは立った状態が維持できる方が対象です。

3.テープ型

ベッド上で寝たきりの方が対象です。介護の方が交換しやすいのが特徴です。

 

夜に使用するものは寝ている間に漏れないよう、より吸水力が強いものを選んだほうがよいです。それ以外に皮膚の荒れ方やゴムなどの強さで選んでいけばよいでしょう。いくつか試してみるとあったものが見つかると思います。

オムツの種類

オムツは医療費控除の対象になります。また市町村によりオムツの助成が受けられる自治体もあります。品川区では以下の方々はオムツ費用が助成されます。

  • 寝たきり等のため、常時紙おむつを必要とする、要介護3~5の方
  • 要介護1・2で常時失禁があり、昼夜紙おむつを必要とする方(民生委員による確認が必要)
  • 障害者手帳をお持ちの方で下肢障害、体幹機能障害の方
  • 療育手帳(「愛の手帳」「愛護手帳」「みどりの手帳」と呼ばれる地域もあります)をお持ちの方(就学児以上の方)

まず市町村の福祉課に相談してみると良いでしょう。

まとめ

尿失禁は高齢者で大きな問題である一方、年だからと諦めてしまったり、対応が後手に回ってしまったりすることが多々あります。しかし、きちんと指導を受け、自身の排尿の状態と原因を把握することで、より快適な生活が送れる場合があります。

もし困るようであればまずは専門医に相談して見ましょう。

排尿機能学会では排尿機能学会認定医という排尿に関する専門資格を認定しています。日本排尿機能学会のHPから検索が可能です。