実際には飛んでいないのに「黒い蚊のようなものが目の前を飛んでいるように見える」、「まつ毛にゴミが引っ掛かっているみたいに、糸くずのようなものが見える」ということは、案外多くの人が経験しています。実際に目をこすっても黒いものは変わらない場合、これらの症状は「飛蚊症」と呼ばれています。よくある病気だからこそ放っておいて大丈夫なのか、治療の必要があるのかなど飛蚊症について詳しくみていきましょう。

目次

黒いものの正体は!?飛蚊症のメカニズム

眼球の内部は空洞ではなく「硝子体(しょうしたい)」と呼ばれる卵の白身のような透明なゼリー状のものが詰まっています。外から入ってきた光がレンズの役割をしている角膜・水晶体を通り、更にこの硝子体を通って網膜に達することで私たちは物を見ています。

しかし何らかの原因で透明なはずの硝子体が濁ってしまうと、その「濁り」が影となって網膜に映ってしまいます。これが「黒いものが見える」と言う飛蚊症の正体なのです。

飛蚊症の原因

もやもや

硝子体が濁ってしまう事で起こる「飛蚊症」ですが、この原因は大きく分けて生理的原因病的原因の2つにわけられます。

生理的原因

生まれつきの飛蚊症

母親のお腹の中にいる胎児のころ、眼を作るために硝子体の中には血管があります。眼球が完成すると自然とこの血管はなくなっていくのですが、生まれてからもこの血管の名残がなくならず残ったままになっていることがあります。

老化が原因の飛蚊症

卵の白身のような硝子体ですが、加齢に伴いゲル状から液体へと液化してしぼんでいきます。通常は網膜とピッタリとくっついている硝子体も、この液化によって網膜とはがれ網膜と硝子体の間に隙間ができてしまいます。

これを「後部硝子体剥離」と言い、硝子体の後ろの膜の部分が網膜に映り飛蚊症の症状が現れます。

病的原因

網膜裂孔

硝子体と網膜がはがれ後部硝子体剥離が起こるとき、網膜が引っ張られるため亀裂が入ったり穴が開いたりしてしまう「網膜裂孔」を引き起こす場合があります。この網膜裂孔でも飛蚊症の症状が現れる事があります。

網膜剥離

網膜裂孔をそのままにしておくと、その穴から液化した硝子体が網膜の後ろに入り込んで網膜を剥がしてしまいます。これを「網膜剥離」と言い、飛蚊症が急に増えるなどといった症状が現れます。

放っておくと失明の危険性もあるため、早急な治療が必要になります。

ぶどう膜炎

虹彩・毛様体・脈絡膜の3つをまとめて「ぶどう膜」と呼びますが、これらに炎症が起きる「ぶどう膜炎」になると炎症細胞が集まって硝子体に濁りが生じ飛蚊症の症状が現れることがあります。

硝子体出血

網膜から硝子体への出血です。原因として、網膜裂孔、網膜剥離、網膜静脈閉塞症などの眼底疾患以外に、糖尿病高血圧などの基礎疾患の合併症として起こることがあります。

硝子体の出血では黒い点ではなく、液体を流したような黒い影が急に表れます。

飛蚊症の見え方

手をだす男性

飛蚊症と言っても「黒い蚊」と言う人もいれば、「ゴマ」「糸くず」「髪の毛」「黒いスス」「タバコの煙」など見え方は人によって実にさまざまです。

その数も一つだけという人から大量に見えるという人がいます。中には黒色ではなく、白っぽいものが見えると訴える人もいます。

眼を動かすと一緒に動いて移動するのが特徴で、障子や白い壁・明るい場所などでは目立って見えるようになり、逆に暗い場所では分かりにくくなります。

飛蚊症の治療

眼科検査

生理的飛蚊症の場合は特に治療の必要はありません。最初は気になるかもしれませんが、次第に慣れてきてそのうち気にならないようになります。

しかし病的原因の飛蚊症の場合は、適切な治療を受ける必要があります。

早期に発見した網膜裂孔の場合、穴の周囲にレーザー治療を行うことで網膜剥離に移行するのを防ぎます。網膜剥離になっている場合は、視野や視力に影響を及ぼすので早急に入院・手術を行う必要があります。

硝子体出血の場合は、まず出血の原因究明と治療が必要です。時間の経過とともに硝子体内の出血も少しずつ吸収されていきますが、吸収が悪い場合や出血が多い場合は硝子体手術などを行う事もあります。

ぶどう膜炎の場合は、ステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与になります。ぶどう膜炎の原因疾患としてサルコイドーシスベーチェット病などの全身疾患、感染症などがあり、それぞれに対する治療が大切です。

しかし、ぶどう膜炎の約半数は原因疾患が特定できず、この場合の治療はステロイド薬の全身投与となります。

まとめ

飛蚊症と思っていたものが網膜剥離の症状だということもあり得ます。そのため飛蚊症の症状が現れたら自己判断はせず、放置していても大丈夫な飛蚊症かどうか一度眼科で診てもらうようにしましょう。

また、加齢によるものと診断されても後部硝子体剥離の過程で網膜に穴が開いてしまう場合もあります。急激に黒いものが増えた・ピカピカ光が見えるなどという場合は、再度眼科受診をおすすめします。