サルコイドーシス(Sarcoidosis)という覚えにくい名前は「肉のようなもの」というラテン語に由来します。胸のリンパ節や肺、眼、皮膚、神経、心臓など全身の様々な部位に結節(細胞が集まって硬くなったもの)ができる病気です。自覚症状があまりなく、健康診断の胸部レントゲン検査で偶然見つかることがほとんどですが、眼症状のなどで発見されることもあります。原因や発症地域などに謎が多く、厚生労働省の指定難病に挙げられています。

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小さな「結節」が、全身に発生する難病

私たちの体内に、病原体などの異物が入り込むと、細胞が炎症を起こし、白血球などによって相手を分解して異物を弱体化しようとします。これは一般的な「免疫反応」です。しかし、異物を弱体化できないときは、リンパ球や繊維組織などが異物を取り囲んで組織のなかに閉じ込めることで、相手の異物反応を抑えます。

異物は小さな細胞の集まりである結節のなかに閉じ込められます。この結節を「肉芽腫」といいます。ニクガシュ、あるいはニクゲシュと読みます。サルコイドーシスは、顕微鏡を使って確認するサイズ(0.2ミリ程度)の「肉芽腫」が全身のあらゆる部位で無数に発生する病気です。

20~30代の男女と、50~60代の女性に多く発生しています。厚生労働省が把握する患者数は、2014年に約2万7000人に達し、毎年約1000人ずつ増加しています(難病情報センターHPより)。

ニキビの原因菌が、引き起こしている?

サルコイドーシスは、他人に感染することはなく、基本的には予後が良好で自然に改善することもあるために過剰な心配はいりません。しかしその反面、約10%の人は症状が治りにくく、再発を繰り返し慢性の経過をたどり、死亡例も報告されているために厚生労働省の「指定難病」に定められています(難病情報センターHPより)。

1877年(明治10年)にイギリスで病気が発見されてから、139年が経過した現在でも原因は不明です。欧米では、結核菌の仲間である「抗酸菌」が原因と考えられていましたが、2012年、東京医科歯科大学の江石義信教授の研究グループが、ニキビの原因である「アクネ菌」が原因細菌である可能性が高いことを報告しています(東京医科歯科大学HPより)。

最近では、もともとアクネ菌にアレルギーがある人が、ストレスなどの環境因子によって過敏性免疫反応を起こして、この菌を中心とした肉芽腫が全身の臓器に形成されると言われています。

江石教授らの研究成果により、欧米諸国でも「アクネ菌原因説」が注目されています。近い将来、サルコイドーシスの完全な原因解明があると期待されています。

自覚症状は、肺眼皮膚に多く出現する

女性の目元-写真

サルコイドーシスの肉芽腫は、多臓器にわたって発生するため、症状の幅がとても広いことで知られています。そのため、他人の症状が自分に当てはまることは稀です。

自覚症状があまりなく、患者の約30%は健康診人間ドックでの胸部レントゲン検査で肉芽腫が偶然見つかっています(東北大学大学院・医学系研究科より)。自覚症状のある人は、おもに肺や胸部のリンパ節皮膚に次のような症状が現れます。

肺や胸部のリンパ節

約90%以上の患者が、肺や胸部のリンパ節に肉芽腫が発生します(東北大学大学院・医学系研究科より)。・呼吸困難に加え、リンパ節が腫れるなどを感じます。

霧視(かすみ)、羞明(異常なまぶしさ)、飛蚊症(蚊が飛んでいるように見える)、視力低下などが起こります。約30~50%の人は、眼の症状からサルコイドーシスの特徴である「肉芽腫」が見つかっています(東北大学大学院・医学系研究科より)。

皮膚

赤く盛り上がった湿疹ができることが多く、鼻、額、頬、胸、背中、腹などに現れます。痛みや痒みはほとんどありません。

サルコイドーシス、診断のポイント

このように、個人差はあるもののサルコイドーシスは全身に症状が起こります。診断の基準としては、日本サルコイドーシス学会/肉芽腫性疾患学会による基準と厚生労働省の特定疾患のための基準が参考になりますが、サルコイドーシスの診断のためには、他の疾患を除外することが重要です。

その上で

  1. 症状とレントゲンやCTなどの画像所見がサルコイドーシスに矛盾しないこと
  2. 非乾酪性肉芽腫を確認すること

などが診断のポイントとなります。

まとめ

サルコイドーシスは、肺・眼・皮膚に症状が多くみられる病気ですが、約10%以下の確率で心臓に肉芽腫が発生します。症状が進んで「不整脈」が起こると注意が必要です。サルコイドーシスで死亡した人の約70%は心臓に関係しています(東北大学大学院・医学系研究科より)。自覚症状の少ない病気です。早期発見には、健康診断の定期的な受診が大切です。