過換気症候群は、体内の酸素は足りているのになぜか呼吸が頻回になり、血液がアルカリに傾いて、しびれやけいれん、失神などを起こす状態です。その多くは不安や緊張などの精神的なストレスが原因であり、生命にかかわるものではありません。

しかし、発作が起こると不安によって症状が増幅しやすく、また発作を起こした人に初めて接する人はどう対処すればいいのかわからず、かえって不安をあおってしまうことも。

過換気症候群について正しい知識を持ち、落ち着いて対処できるよう、過換気症候群の治療と発作時の対処についてご紹介します。

目次

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過換気症候群とは?

過換気症候群とは呼吸困難の自覚から頻呼吸となり、それによって体内の二酸化炭素が不足し、血液がアルカリに傾いた結果、手足や口唇周囲のしびれ、けいれんやときには失神を起こす症状です。

原因の多くはストレスと言われ、若い女性に多く発症する傾向があります。

発作時の呼吸困難感やけいれん、失神という症状は非常に重篤な印象を与えますが、命にかかわるものではありません。

しかし、呼吸困難を起こす疾患はほかにも多くあり、医療機関では年齢や基礎疾患、発作の状況に加え、動脈血のpH(血液の酸性やアルカリ性を示す指標である水素イオン濃度)や酸素量を検査し、診断を行います。

過換気症候群の原因や症状については、記事「過換気症候群って何?その原因と症状とは」をご参照ください。

発作時の対処:ペーパーバッグは危険!?

過換気発作は体内の二酸化炭素が不足することによって起こります。

ペーパーバッグによる処置は、発作を起こした人の口元に紙袋を当て、吐き出す呼気を再度吸い込むことで、呼気に多く含まれる二酸化炭素を吸入する方法として、過換気症候群の発作時の対処として広く認知されていました。

しかし、この方法に関するリスクを報告した海外の医学文献があり、TVの情報番組でも「ペーパーバッグ法は窒息死を招く、殺人行為に等しい」と紹介されました。

もともと不安やストレスを感じやすい人にとっては、このような扇情的な表現はさらに不安のもととなりますので、ペーパーバッグ法のリスクについては正しく理解しておきましょう。

安易な判断で行うと危険

この医学文献では、ペーパーバッグ法により低酸素症で死亡した事例が紹介されています。

これらの事例は過換気症候群の発作ではなく、肺塞栓や心筋梗塞という酸素が足りなくなる状況であり、そこに誤ってペーパーバッグによる処置を行ったことで、体内の酸素がさらに低下し死に至ったものでした。

医療機関では動脈血を採取して、酸素や二酸化炭素の量を確認することができますが、呼吸困難という症状だけでは酸素や二酸化炭素の充足状況を判断することはできません。

また、けいれんや失神を起こす病気はほかにも多くあり、糖尿病による昏睡や脳梗塞などの命にかかわる病気の可能性もあり、安易に判断することは危険です。

こうした背景から、ペーパーバッグ法は危険な方法と言われるようになりました。

ペーパーバッグでは呼吸困難感は改善しない

ペーパーバッグ法はあくまでも、呼気中の二酸化炭素を再吸入する原理なので、二酸化炭素が不足することによって起こる手足のしびれやけいれんを改善しても、頻呼吸や呼吸困難の改善には効果がありません。頻呼吸や呼吸困難の原因は不安や緊張などのストレスですが、紙袋を口元に当てられる閉塞感で恐怖やパニックなどの精神的ストレスが増強する場合もあります。

以上のように、有効性に疑問があることや、過換気の原因が心疾患や肺疾患であった場合には、病状を悪化させる可能性があることから否定的な意見が多くなっており、ペーパーバッグによる処置は過換気症候群の対処法として推奨されないものとなっています。しかし、紙袋を口元に密着させない、血液の酸素量をモニタリングしながら行うなど、医療的に安全な管理の下で行われることもあります。この場合も、心因性の過換気発作を繰り返す身体的基礎疾患のない若年者にとどめるべきと考えられます。

「ペーパーバッグ=窒息死」というような極端な理解は不安のもととなりますので、正しく理解しておきましょう。

応急処置は落ち着いて対処する

過換気発作の応急処置で最も大切なことは、周りの人も一緒になってパニックにならないことです。落ち着いて対処しましょう。

救急車を呼ぶ

前述のように呼吸困難とけいれん、失神を起こす病気はほかにもあります。初めての発作の場合は安易に過換気症候群と判断せずに救急車を要請しましょう。

また繰り返し発作を起こしている場合でも、けいれんや失神により呼吸が止まってしまった場合や、失神によって転倒し頭部や顔面を打撲しているケースでは外傷や打撲に対する処置が必要になる場合があります。こうしたケースでは速やかに救急車を呼びましょう

安心させる

発作が比較的軽い場合や、救急車が来るまでの対応として必要なことは、安心させることです。

親しい人はそばに付き添い、しびれのある手を優しく握り、発作が治まるのを一緒に待ちましょう。

吐くことを意識するように誘導する

過換気の状態では、頻呼吸となっています。健常時には、吸気:呼気=1:2の長さで呼気の時間が長いのですが、過換気状態では、吸気:呼気=1:1となってしまいます。空気が足りない、酸素が足りないと考えてしまうため、吸気ばかりに意識があるのですが、人間は呼気、つまり吐かないと、吸気、つまり吸うことができないのです。息を吐くことを意識して、腹式呼吸を促し、過換気を抑制することが重要です。

病院での治療は?

過換気発作の場合、病院に着くまでの時間経過や病院に着いたことでの安心感から、症状が自然に改善していることも少なくありません。病院では呼吸困難の原因となる病気ではないことを確認したのち、必要であれば安定剤が処方されることがあります。

ほとんどの場合、入院の必要はありませんが、発作を繰り返す場合は、心療内科での継続治療が必要となる場合もあります

発作予防のためにはストレスコントロールが重要

過換気症候群の原因の多くはストレスであり、一時期に繰り返し発作を起こすことがあります。

ストレスの原因を直接除去することは難しいと思いますが、ストレスの対処法を自分でコントロールすることが重要です。

食事や睡眠など、規則正しい生活を送ることを基本とし、積極的に身体を動かすことも有効です。

また、若い女性の場合、ストレスにはホルモンバランスが影響しているため、不安定となりやすい時期には無理をせずリラックスするよう心がけましょう。

まとめ

過換気症候群の発作時には周りの人は慌ててパニックにならないことが大切です。そのためには正しい知識を持って落ち着いて対応しましょう。

過換気症候群はストレスに起因した症状ですが、ほとんどが一過性のものです。上手にストレスをコントロールしながら、自分自身も落ち着いて対応しましょう。