糸球体腎炎は、腎臓にある「糸球体」と呼ばれる毛細血管に炎症が起きて、血尿やタンパク尿がつづく症状です。病名ではなく、糸球体の異常がみられる病気全体の呼び名です。糸球体腎炎は、ウイルス感染による急性が知られていますが、ここでは症状がより深刻な慢性糸球体腎炎を取り挙げます。

慢性糸球体腎炎のなかには、IgA腎症」「紫斑病性腎炎」など、小児に多く発症する病気がいくつかあり、厚生労働省の小児慢性特定疾病に特定されています。

目次

腎臓の病気は、慢性化しやすい

慢性糸球体腎炎は、慢性腎炎とも呼ばれる腎臓の障害です。血尿とタンパク尿があらわれ、むくみめまい高血圧倦怠感などが起こります。免疫反応の異常(自分の細胞を外敵と判断し攻撃すること)が関係するといわれていますが、明確な原因は分かっていません。

他の腎臓病と同じく、自覚症状がないのが特徴です。

腎臓の主な働きは「老廃物を尿にして体から追い出す」「体の水分を一定に保つ」「血圧を調整する」の3つです。腎臓の組織は一度壊れてしまうとほとんど回復しないので、病気によって一度機能が失われると症状が慢性化します。

腎炎が慢性化すると、将来的に腎不全のリスクが高くなり、透析や腎移植の治療が必要になるかもしれません。現在日本には、慢性腎臓病患者が約1330万人いるといわれています(全国腎臓病協議会より)。

尿が作られる「仕組み」を知っておく

腎臓は、腰のあたりに左右1個ずつあり、1つが約150グラムの小さな臓器ですが、毎日、心臓から送り出される血液の20%以上(1日200リットル)をろ過して、血液をきれいにし、老廃物を尿として排出します(日本慢性腎臓病対策協議会より)。

ろ過を担当するのは、1つの腎臓に約100万個ある「糸球体」です(協和発酵キリン株式会社より)。毛細血管が糸玉(球)のように集まった組織で、無数の穴があいています。水切りに使うザルのような仕組みで、次のように血液をろ過します。

  1. 1分間に約1リットルの血液が腎臓に運ばれる(日本腎臓財団より)
  2. 糸球体によって、血球成分とタンパク質以外がろ過される
  3. ろ過された液体は、原尿として尿の元になる
  4. 血球成分とタンパク質は、きれいな血液とともに体を循環する

尿の元となる原尿には体に必要なものが残されています。そこで尿細管に流れた原尿から、グルコース、アミノ酸、水分などが再吸収され、きれいな血液に戻されます。そして、糸球体のろ過作業で除去できなかった老廃物は、このとき尿細管に分泌されます。

このようにして、必要なものと不必要なものが確実に区分され、きれいな血液は体を巡り、老廃物は尿管・膀胱に運ばれ、尿として体の外に排出されます。

検尿の結果は、必ず確認しましょう

トイレ-写真

慢性糸球体腎炎の怖さは、自覚症状がないため、発見時にはすでに進行していることです。急性糸球体腎炎の喉の痛みのように、本人が苦痛と感じる明確な症状はありません。発病のサインは血尿とタンパク尿です。

痛みのない「血尿」は危ない

血尿は肉眼で見えるものと見えないものがあります。赤茶色や褐色の尿が出て、肉眼で異常がわかるものを肉眼的血尿といいます。一方、尿に漏れた赤血球の量がわずかでも、顕微鏡で確認して異常がわかるものを顕微鏡的血尿といいます。小児の血尿は、顕微鏡的血尿がほとんどで、3歳検尿学校検尿で発見されています。

血尿では、排尿時に痛みがあると膀胱炎や尿道炎が疑われます。心配なのは、排尿時に痛みがない血尿で、この場合は糸球体の炎症の可能性があります。腎臓内科を受診しましょう。

治療が必要な「タンパク尿」とは?

タンパク尿は肉眼で判断することは難しく、検尿での指摘が多いでしょう。運動や発熱によって一時的にタンパクが出る生理的タンパク尿は治療の必要はありません。しかし糸球体性タンパク尿(病的タンパク尿)が出たときは、精密検査が必要です。

どちらも無痛であるため気づきにくく、特に小児は、両親に報告しないことが多いでしょう。そのため、普段から気にするとともに、風邪をひいたとき、学校検尿が行われたときは「血尿やタンパク尿が出ていないか?」と確認しましょう。早期発見・早期治療によって腎臓機能の悪化を防ぐことができます。

慢性糸球体腎炎のさまざまな病気

慢性糸球体腎炎には、次のように複数の病気が存在し、その後の症状や進行・治療はそれぞれ異なります。小児の場合、いずれの病気も「疾患の状態の程度」に該当すれば、医療費補助の制度が受けられます。また、※印のついた病気は、厚生労働省の指定難病に挙げられています(平成27年7月1日時点)。

  • IgA腎症 ※
  • メサンギウム増殖性糸球体腎炎
  • 膜性増殖性糸球体腎炎 ※
  • 紫斑病性腎炎 ※
  • 抗糸球体基底膜腎炎(グッドパスチャー症候群) ※
  • アルポート症候群 ※
  • エプスタイン症候群 ※
  • ループス腎炎
  • 急速進行性糸球体腎炎 ※
  • 非典型溶血性尿毒症症候群
  • ネイル-パテラ症候群(爪膝蓋症候群)

これらのうち、小児で多くみられるのはIgA腎症」「紫斑病性腎炎」です。

IgA腎症とは

IgA腎症は、慢性糸球体腎炎患者の成人30%以上、小児では20%以上がかかる病気です(小児慢性特定疾病情報センターより)。IgAは「Immunoglobulin A(免疫グロブリンA)」の略で、喉や気管支の粘膜を細菌などから守る免疫物質です。

IgAが糸球体に付着したあと、炎症が起きて血尿やタンパク尿があらわれます。炎症のあと、糸球体は硬化して老廃物のろ過ができなくなります。一度壊れた糸球体は回復されず、そのため他の糸球体の負担が大きくなり、腎臓の機能は徐々に低下し、体に毒素が蓄積されます。

紫斑病性腎炎とは

紫斑病性腎炎は、IgA腎症と共通する部分が多い疾患です。初期に血尿とタンパク尿が見られ、その後に関節の腫れ・痛み、さらに膝から下に紫斑(皮膚組織が出血して起こる紫色の斑点)があらわれます。原因は分かっておらず、3〜7歳の男児に多く(女児の1.5〜2倍)発症します(難病情報センターより)。

まとめ

慢性糸球体腎炎は、血尿とタンパク尿が出続ける腎臓障害です。自覚症状がないため、慢性化しやすく、症状によっては将来的に腎不全にかかる危険があります。IgA腎症や紫斑病性腎炎などは、小児に発症しやすく、3歳検尿学校尿など定期的な検査は必ず受診しましょう。検尿で指摘されたときは、すみやかに泌尿器科の専門医に相談しましょう。