みなさんは甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)という病気の名前を聞いたことがあるでしょうか。あまり耳慣れない病名ですが、主な原因であるバセドウ病の方は著名人にも多く、知っている方も多いかもしれません。今回はこの甲状腺機能亢進症について、詳しく見ていきます。

目次

甲状腺とは

まず、甲状腺(こうじょうせん)とは一体何なのでしょうか。
甲状腺は首の前側、喉仏のすぐ下にある器官で、体に様々な指示を行うホルモンという物質を分泌する役割があります。

甲状腺は特に、体の中でのエネルギー利用を活発にする甲状腺ホルモンを分泌することで、人の成長や代謝などをコントロールする働きを担っています。

甲状腺機能亢進症とは

甲状腺機能亢進症とは、文字通り、甲状腺の機能が必要以上に活発になってしまい、過剰な甲状腺ホルモンによって体のエネルギー利用がうまくいかなくなっている状態のことを指します。

エネルギーがどんどんと使われていってしまい、神経のバランスも崩れてしまうため、動悸、息切れ、疲労感などが現れ、体重の急激な変化といった症状も起こります。

甲状腺機能亢進症で代表的なものがバセドウ病と呼ばれる病気で、甲状腺が過剰に刺激されることによって、甲状腺の機能亢進が発生します。

他にも、プランマー病と呼ばれる病気や、がんによってホルモンが生成されて結果的に甲状腺の機能が強まってしまう病気なども存在し、原因は違うもののすべて同じような症状を引き起こします。

甲状腺機能亢進症を引き起こす病気

パソコンとテーブル-写真

1.バセドウ病

では、バセドウ病について詳しく見ていきますが、その前に、免疫というものについて説明したいと思います。

免疫というのは体を守るための機能のことで、体の外から来た異物や体内の異常な組織に対して攻撃をする機能が有ります。

本来は体を守るための機能ですが、バセドウ病ではこの免疫に異常が起こり、自分自身である甲状腺に対して免疫が反応することで甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンを過剰に分泌するようになってしまうのです。

典型的な症状としては、甲状腺が腫れる、脈が早くなる、目が飛び出てくる、という3つの症状が現れるとされています。
しかし、必ずこの3つの症状が現れるわけではありません。

またその他にも、動悸、多汗、手の震え、体重減少などの症状があります。

診断には主に血液検査を行い、血液中のホルモンの量や異常な抗体の量を調べます。また、超音波によって甲状腺の腫れの様子を調べたり、放射性元素を用いて甲状腺の機能を検査したりします。

治療には、薬物治療、外科治療、アイソトープ治療(放射性ヨード療法。放射性ヨードを含んだカプセルを服用する)があります。
薬物治療が選択されることが多く、血液中に過剰に存在する甲状腺ホルモンを、薬により正常な値に近づけます。

2.プランマー病

つぎはプランマー病についてです。プランマー病とは甲状腺にできた良性の腫瘍によって、甲状腺ホルモンが分泌されてしまう病気です。

一般的に甲状腺に腫瘍ができてもホルモンは分泌されないのですが、プランマー病では、脳のコントロールを離れて腫瘍から甲状腺ホルモンが分泌されるため、甲状腺機能亢進症の症状が現れます。

診断のためには放射性元素を用いたシンチグラフィーというものを用います。シンチグラフィーとは、放射性物質を少量注射し、それが体のどこに集まってくるかを調べる検査で、これによってがんのある場所を調べることができます。

この検査によってプランマー病と診断された場合、手術によるがんの摘出放射性ヨウ素内用療法(足りないホルモンを補う治療法)などが行われます。

3.その他の原因

バセドウ病やプランマー病は甲状腺そのものの病気ですが、甲状腺の病気でなくとも甲状腺機能亢進症になってしまうことが有ります。

そのひとつが甲状腺刺激ホルモン産生腫瘍と呼ばれるもので、普段甲状腺にホルモン産生の指示を行っている脳下垂体(のうかすいたい)という場所でがんができてしまい、甲状腺を働かせる甲状腺刺激ホルモンというものを沢山作ってしまうことによって引き起こされます。

また、妊娠によって甲状腺機能亢進症が引き起こされる場合もあり、これは妊娠甲状腺中毒症と呼ばれます。

妊娠初期には胎盤からヒト絨毛性ゴナドトロピンと呼ばれるホルモンが産生されるのですが、これが何らかの原因によって甲状腺を刺激してしまい、甲状腺ホルモンが多く出すぎる状態になってしまうのです。

さらに、たいへん稀な病気ですが卵巣甲状腺腫というものがあります。これは卵巣にできる腫瘍の一種です。

腫瘍は細胞の異常増殖が起こってしまうものなので、腫瘍のできた場所と腫瘍自体の組織が違うことがあり、この場合では卵巣に甲状腺の組織ができてしまうことで、そこから甲状腺ホルモンが分泌されてしまうことによって、甲状腺機能亢進症が引き起こされるのです。

まとめ

今回はバセドウ病プランマー病、その他様々な病気によって引き起こされる甲状腺機能亢進症についてみていきました。

甲状腺機能亢進症では、体を守るための機能の誤作動によって起きるバセドウ病や、甲状腺に良性のがんが発生するプランマー病などによって、体の中の甲状腺ホルモンが増えてしまうこと原因となります。

増えた甲状腺ホルモンによって、体のエネルギーが必要以上に使われてしまったり、神経のバランスが崩れたりしてしまうため、動悸、息切れ、疲労感などが現れ、体重の急激な変化も起こるのが特徴です。

きちんと治療を行い、症状をコントロールするために、早期発見をすることが重要です。特に、代表的なバセドウ病は成人女性に多い疾患のため注意しましょう。