心臓は全身に血液を行き渡らせる、体の要となる部分です。その役割が機能しなければ、命を落とすことになります。心臓を囲む液体が増えすぎて心臓を圧迫させる「心タンポナーデ」は心臓の機能を低下させるため、ショックや呼吸困難などを招いてしまいます。今回は心タンポナーデの原因や症状、治療法を紹介していきます。

目次

心臓を守る心膜液

心臓は、心膜と呼ばれる二重の膜で覆われています。その膜と膜の間には液体が15~30ml(cc)ほど溜まっています。
この液体を心嚢液(しんのうえき)といいます。

この液体は心臓が動くときに周囲との摩擦を防いだり、外からの衝撃から心臓を守ったりする機能があります。

心タンポナーデとは

何らかの原因によって心嚢液が正常量より増えてしまうことを心嚢液貯留といいます。液体が大量に増えたり、急増したりすると、心臓が圧迫されて動けなくなります。

心嚢液によって心臓が圧迫し、機能が低下する状態を心タンポナーデといいます。心臓がポンプの役割を果たせなくなるので全身に血液が循環できず、意識が低下するショック状態になります。

心タンポナーデの原因は?

大動脈解離急性心筋梗塞による心破裂、交通事故などの怪我、がん、ウイルスや菌による心膜炎、心臓のカテーテル治療の合併症など原因は様々です。

がんや心膜炎では、ゆっくり心嚢液が溜まっていきます。大動脈解離や心破裂、さらに心臓カテーテルの合併症などの場合は急激に心嚢液が増え、心タンポナーデを引き起こします。

どのような症状が現れるのか

心臓が全身に充分な血液を送り出せないので全身倦怠感がみられます。
また、心臓への血液の戻りが悪いため、むくみが生じます。肺にも十分に血液が行き届かなくなるため、息苦しさ・呼吸困難がみられます。また、脳に血液が不足することで意識障害失神を起こす人もいます。

ベックの三徴候

心タンポナーデで生じる症状に、ベックの三徴候と呼ばれるものがあります。

  1. 膜の外側から圧力がかかって心臓の動きが抑えられ、拍動が弱まり心臓の音が小さくなります。
  2. 心臓が血液を送り出す力が弱まるので血圧が下がります。
  3. 心臓が膨らめないため、体から静脈を通って戻ってくる血液を受け入れる容量が少なくなり、静脈圧が上がります。

なお、この症状は3つ全て揃わないことも少なくありません。

奇脈

このほか、息を吸ったときに脈がふれなくなる奇脈も特徴です。

息を吸うと横隔膜が下がり(収縮)、胸のスペースが広くなります。静脈から沢山の血液が戻ってきて、静脈を受け止める心臓の右心室側が膨らみます。心臓は、心嚢液の圧力で全体を大きくすることはできないので、右心室側が膨らんだ分、左心室側が小さくなります。

左心室側は全身に血液を送る役割がありますが、小さくなってしまうと一回の送り出す量が減り、結果として血圧が低くなって脈がふれなくなります。

少しずつ液が溜まってくる場合は、心膜も少しずつ伸びていき順応してしまうため、症状が出ない人もいます。

検査の方法は

心臓の音は聴診器、血圧は血圧計で測定します。さらに詳しく検査するために以下の方法があります。

胸部レントゲン

溜まっている心嚢液の量が250 mlを超えると、X線(胸のレントゲン)でも大きくなった心臓が分かるようになります。ただし、心臓が大きくなっている原因が心臓自体の拡大なのか、心嚢液貯留なのか分からないため、心臓超音波検査(心エコー)が必要となります。

心臓超音波検査(心エコー)

心タンポナーデが疑われたときに最初に行う検査です。心臓超音波検査をすると、心臓の動き、血液の流れ、心嚢液の量など多くの情報を得られます。

心タンポナーデの場合、心嚢液が溜まっている部分が大きく黒く映し出されます。さらに心臓拡張期(心臓の下側が膨らんで、全身に血液を送る準備をするとき)に右側が充分膨らめない状態を確認できます。

治療方法

心臓手術中-写真

まず心嚢液を取り除きます。これを心嚢穿刺(しんのうせんし)術または心膜穿刺術と呼びます。

動いている心臓に向かって針を刺すので、心臓や肺を傷つけてしまう可能性があります。合併症には冠動脈や胃、肝臓の損傷、また感染症や迷走神経刺激による脈拍低下、血圧低下が報告されています。

排出した心嚢液は、溜まった原因を特定するために検査することがあります。

まとめ

急な心タンポナーゼは生命に危険を及ぼす可能性が高く、一刻を争う事態になります。意識障害や呼吸困難など生活に支障を来たすため、紹介してきた症状が当てはまるようであれば速やかに病院を受診しましょう。