「門脈圧亢進症」という言葉を知っていますか?門脈とは肝臓に入る主流な血管で、その門脈の圧力が高くなること(亢進)を表します。圧力が高くなることで腹水がみられたり、胃や食道に静脈瘤ができたりするなどさまざまな症状をきたします。今回は聞き慣れない門脈圧亢進症について、メカニズムや原因、症状、治療を詳しく説明していきます。

目次

門脈圧が亢進するメカニズム

門脈は肝臓へと血液を運ぶ主流となる大きな静脈で、腸管脾臓からの静脈が門脈を通ります。門脈を通る血液が何らかの原因で流れにくくなると、門脈圧が高くなります。

ちなみに通常の門脈圧は100~150mmH2O(水柱ミリメートル)ですが、門脈圧亢進症では200mmH2O以上となります。

門脈圧が高くなると、門脈を流れる血液が肝臓へと入らずに新しい道を作って、食道腹壁などの他の場所へと逃げ始めます。新しくできた血液の道を側副血行路(そくふくけっこうろ)といいます。

門脈圧が亢進する原因

門脈圧亢進症の原因は以下の3つに分類されます。

  • 肝臓へと入りこむ前に障害がみられる肝前性門脈圧亢進症
  • 肝臓の中に入ってから障害がみられる肝内性門脈圧亢進症
  • 肝臓を出てから心臓へ行くまでの間で障害がみられる肝後性門脈圧亢進症

門脈圧亢進症の原因で最も多いのは肝内性門脈圧亢進症に分類される肝硬変です。肝硬変の患者さんには、予防的に治療を行うこともあります。

その次に、はっきりした原因が分からない特発性門脈圧亢進症が続きます。特発性門脈圧亢進症は自己免疫の異常が関係しているといわれています。40~50代の中年女性に多くみられます。

肝前性門脈圧亢進症でよくみられるのは肝外門脈閉塞症です。肝外門脈とは小腸から肝臓へと入る血管で、肝外門脈が血管の形成異常血液の凝固異常などによって閉塞(狭くなって詰まる)し、門脈圧が亢進します。

肝後性門脈圧亢進症の原因としては、バッド・キアリ症候群やうっ血性心不全があります。

バッド・キアリ症候群は肝臓から出ていく血管である肝静脈、または肝静脈から心臓へと繋がる肝部下大静脈が、先天性の血管異常血栓の形成によって閉塞や狭窄を起こします。そして血液が流れにくくなることで門脈圧が高くなる疾患です。

急性に発症した場合は重症となり、1か月以内に死亡することもあります。慢性に症状がみられる場合はうっ血性肝硬変肝がんを発症する場合があります。

門脈圧亢進症の症状

バイパス-写真
門脈圧が亢進したり側副血行路ができたりすると、腹壁にある静脈の怒張(どちょう、膨れ上がること)や、胃や食道の静脈瘤(じょうみゃくりゅう、血管がコブのように膨れること)、脾臓の肥大(血液が脾臓へと溜まる)、腹水(血液成分が漏れ出てお腹に水が溜まる)がみられるようになります。

また以下のような症状がみられる場合があります。なかには命に関わるものもあります。

門脈圧亢進症の治療

門脈圧亢進症では胃や食道の静脈瘤が破裂して大出血することが一番のリスクなので、静脈瘤の破裂を防ぐための治療が行われます。また脾臓の肥大によって起こる脾機能亢進症の治療も行われます。

胃や食道の静脈瘤の治療

下記のような選択肢があります。

  • 結紮療法(けっさつりょうほう):内視鏡を使って静脈瘤をゴムで結束する治療法。最も基本的な治療法で、止血できる確率が高いです。
  • 硬化療法:硬化剤を注入して固める治療方法です。再発する確率が低くなります。
  • バルーンタンポナーデ法(Sengstarken Blakemore tube):カテーテルの先につけたバルーンを膨らませて静脈瘤を圧迫することで止血する治療です。一時的な処置として行われる治療法なので、バルーンを抜いた後に内視鏡での処置が必要となります。
  • 薬物療法:薬で治療を行います。
  • 食道離断術:食道を切り取る手術です。

結紮療法と硬化療法は、両方を同時に行うことがあります。胃の静脈瘤で内視鏡治療が難しい場合は、血管内の治療が選択されることもあります。

静脈瘤が破裂して出血すると点滴や輸血などの緊急治療が必要です。放置してしまうと出血多量でショック状態となり、命に関わることもあります。

脾機能亢進症の治療

脾機能亢進症で貧血や血小板の減少が高度にみられる場合は、大きくなった脾臓を切除する手術が検討されます。

また脾臓の動脈の中にカテーテルを通して造影で確認し、コイルやゼラチンスポンジなどを血管に詰めて血流を途絶えさせる脾動脈塞栓術があります。脾動脈塞栓術は脾臓の一部を壊死させます。

バッド・キアリ症候群の治療

門脈圧亢進症の治療のほか、肝臓のうっ血を改善するための治療を行います。

具体的にはシャント(血管とは別に血液が通る道をつくること)やステント(血管内に網目状の金属の筒を入れ、血管を内側から広げて狭くなっている血管内の血液の通り道を確保すること)などを肝臓の手前に作り、血液を逃がすものです。

まとめ

門脈圧亢進症は肝硬変バッド・キアリ症候群など様々な病気・病態が原因となって起こります。なかには肝機能の低下が進行すると肝不全に陥ったり、肝がんを発症するリスクがあります。そうなると予後(治り)が悪くなるため肝移植が行われることもあります。

また静脈瘤の出血は命の危険が伴います。定期的な健康診断を受け、早期に適切な診断と治療を受けることが大切です。肝硬変の患者さんの場合、予防的な治療を行うことも重要といえます。