特に思い当たる原因もなく生じる水ぶくれ(水疱)、それはもしかすると類天疱瘡(るいてんぽうそう)という病気かもしれません。

あまり耳慣れない病気かもしれませんが、類天疱瘡は高齢者の方を中心に見られる皮膚の異常です。お年寄りの方やお年寄りを介護する立場にある方はしばしば目にする病気です。

目次

類天疱瘡ってなに?

類天疱瘡とは、特に原因が無いのにも関わらず、皮膚に水疱(水ぶくれ)ができる病気です。症状の出る部位などによって、次の3つタイプに分類されています。

  • 水疱性類天疱瘡全身の皮膚に、紅斑(赤い膨らみ)、水疱、びらんが生じるもの。
  • 後天性表皮水疱症:主に四肢の外圧のかかる部分に 、水疱、びらんが生じるもの。
  • 粘膜類天疱瘡眼瞼(まぶた)粘膜や口腔粘膜に水疱、びらんが生じ、きずあとを残すことがあるもの。

皮膚に水ぶくれができる原因としては、熱傷虫刺されのほか、水痘帯状疱疹とびひ(伝染性膿痂疹)などの感染症などが挙げられます。しかし、類天疱瘡では特に原因がなく突然皮膚に水ぶくれが生じます。

この水ぶくれは発赤強いかゆみ、びらん(皮膚がむけてじゅくじゅくしたもの、一旦治癒すると跡が残らないのが特徴)を伴います。一般的に粘膜に生じる病変は口の中などの一部に限られているという点も特徴であるといえるでしょう。

類天疱瘡はなぜできる?

では類天疱瘡はなぜできるのでしょうか?

類天疱瘡を引き起こすのは、『抗表皮基底膜部抗体』という抗体の一種です。抗体とは本来、外部から体内に侵入した異物を除去するために働く『武器』のようなものなのですが、抗表皮基底膜抗体は異物ではなく自身の皮膚の一部である『基底膜』を攻撃してしまうのです。

基底膜は皮膚の表面を構成する表皮とその下の真皮をつなぎ止めておく役割を果たしているため、それが破壊されると表皮は真皮から脱落してしまいます。脱落してしまった皮膚が真皮から浮き上がることで生じたものが、水疱(水ぶくれ)となるのです。

なお、この抗表皮基底膜抗体がなぜ生じるのかについて具体的なメカニズムは良く分かっていません。ですが、ヨーロッパやアジア諸国などでの調査によって、神経疾患脳梗塞パーキンソン病認知症てんかんなど)や薬剤(利尿薬など)、悪性腫瘍との因果関係を推測させるデータが発表されています

天疱瘡との違いは?

似た名前をもつ病気に『天疱瘡』というものがあります。両者は似た名前を持ちますが基本的には別の種類の病気です。

類天疱瘡が表皮と真皮の間の基底膜を攻撃する抗体によって生じる病気なのに対して、天疱瘡は表皮内の細胞同士のつながりを破壊することで生じる病気です。

両者の治療法は基本的に同じですが、用いられる薬剤の量が異なる場合がありますので、どちらなのか正しく診断を受けることが重要となります。

治療法は?

塗り薬

ここまでで説明したように、類天疱瘡は自身の皮膚の基底膜を攻撃する抗体によって引き起こされています。したがって、この抗体の作用を抑え込む薬剤を投与することによって、症状を抑えることができます。

具体的には、プレドニゾロンなどのステロイド(副腎皮質ホルモン)の内服が主体で、軽症の場合には抗生物質(テトラサイクリン、ドキシサイクリン)やニコチン酸アミドを併用することがあります。

一方、重症では免疫抑制剤(アザチオプリン、シクロフォスファミドなど)の併用、免疫グロブリン製剤の静脈投与、血漿交換療法などを行うことがあります。

患者さん、そしてその家族が気をつけることは?

類天疱瘡で最も気をつけるべきことは、『感染症』です。というのも、本来外部からの病原体の侵入を防ぐはずの皮膚が剥がれてしまっているからです。

また、治療によって免疫力が抑えられていることも、感染症に対するリスクを増加させます。この点については常に意識しておく必要があるでしょう。常に皮膚を清潔な状態に保つことや、類天疱瘡を持つ患者さんは痒みのために皮膚を掻いてしまうので、手指を清潔にしておくことも大切でしょう。

まとめ

いかがでしょうか?皆さんも類天疱瘡という病気に対して理解が深まったでしょうか?皮膚科の病気は正しい診断に基づいて治療するかどうかでその後の生活も大きく変わってきます。是非、皆さんや皆さんの周りの方で上記のような症状に悩んでいる方がいらっしゃいましたら、一度皮膚科を受診してみてはいかがでしょうか?