飛行機の狭い座席に長時間座っていることが原因で起こる病気として、広くはエコノミークラス症候群という呼び方で知られていますが、現在はロングフライト血栓症と呼ばれています。

この病気は、サッカーの元日本代表・高原直泰選手がなったことで、日本でも広く知られるようになりました。アスリートであっても、ビジネスクラスであってもなり得る病気です。

ただし、この病気の多くは旅行中ではなく入院中などに生じるため、上記は比較的珍しいケースではあります。このロングフライト血栓症はどのようなメカニズムで起こり、どのような症状が起こるのでしょうか。

目次

ロングフライト血栓症のメカニズムと症状

下肢の静脈にできた血栓が肺に詰まる

ロングフライト血栓症は下肢の静脈にできた血栓(けっせん)が静脈の流れに乗って、心臓から肺へと血液が循環する過程で、肺の血管に詰まる(塞栓)病気で、医学的には静脈血栓塞栓症と言われています。

*静脈血栓塞栓症=下肢の静脈に血栓ができる(深部静脈血栓症)+肺の血管に詰まる(肺血栓塞栓症)

飛行機は長時間狭い座席に座っていることに加え、機内は極端に乾燥した状態にあります。
さらにトイレに行くために隣の席の人に迷惑をかけたくないというような思いから、水分を控えてしまうことなどが原因で、血液の流れが悪くなり、下肢に血栓を作りやすい状態になっています。

そして、飛行機から降り、身体を動かしたときにその血栓が静脈の血流に乗って肺に達し、肺の血管に詰まり、呼吸困難胸の痛み冷や汗やときには失神などの症状が現れます。

血栓が小さく、塞栓の範囲が小さければ無症状、または症状が軽い場合もありますが、大きな血栓により塞栓が広範囲に及ぶと、急激に重篤な症状を呈し、急死するケースもあります。

ロングフライト血栓症の原因は飛行機だけではない!

下肢に血栓ができる原因は飛行機だけではありません。

長時間の座位

飛行機と同じように、長時間座った姿勢で身体を動かさないでいたり、水分を控えたりすると、下肢に血栓ができやすくなります。
車やバスのほか、仕事や勉強などのデスクワークでも血栓ができる可能性があります。

また災害に被災し、長時間の車中避難をした方にロングフライト血栓症が起きるケースがあります。長時間、身体を動かさないことや脱水状態、さらには大きなストレスが加わることがその原因となります。

手術後などの長時間のベッド生活

膝や股関節などの下肢の手術による固定や直接的な血管の侵襲だけでなく、内臓疾患の術後に身体を動かすことができない場合にも、下肢に血栓ができやすくなります。

医療機関ではこのような合併症を防ぐために、術後にベッドに横になっている時間を短くしたり、足先の血流を良くするためにマッサージを行ったり、血液を固まりにくくする薬(抗凝固剤)を使用したりしています。

妊娠・出産

妊婦のおなか

妊娠は大きくなった子宮が骨盤周囲や下肢の静脈を圧迫することや、妊娠後期から出産後はベッドで横になる時間も長くなることに加え、出産に備えて血液を固まりやすくする生体反応から、血栓ができやすい状態になります。

経口避妊薬

一般的な経口避妊薬は、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンを服用することによって排卵を抑制するものです。
そのエストロゲンは血液を固まりやすくし、血栓を作りやすいという副作用があります。

血栓ができやすい病気

高血圧症糖尿病脂質異常症(高脂血症)は動脈硬化により、血栓を作りやすくなります。

また遺伝性があるといわれ、原因は明らかでない特発性血栓症などがあります。

喫煙・脱水・ストレス・疲労

喫煙は血液の流れを悪くし血栓を作ったり、血管の炎症を引き起こします。

脱水血液の粘度が高くなり血栓ができやすくなります。ストレス疲労交感神経の作用により血管を収縮させ、血流が悪くなり血栓ができやすくなります。

これらの因子単独でロングフライト血栓症を引き起こすことは稀ですが、ほかの病気や環境などの因子に加わることで、そのリスクは高くなります。

診断と病院での治療

ロングフライト血栓症による呼吸困難胸の痛みなどの肺塞栓症状が急激に起こった場合は、救命を第一とした治療が行われます。

妊娠や糖尿病などの血栓ができやすいリスクがある場合には、事前に検査を受けることで血栓の早期発見と肺塞栓の予防ができます。

病院では、血液凝固能の検査のほか下肢エコー下肢血管造影などによって診断を行います。

血栓の存在が明らかになれば、血液を固まりにくくする薬(抗凝固剤)による治療やカテーテルを用いた血栓吸引血栓溶解手術、さらには下肢静脈フィルターを留置することで、血栓が肺に流れることを防止する処置が行われます。

まとめ

ロングフライト血栓症はあらゆる原因によって下肢にできた血栓で肺塞栓を起こす病気であり、発症すると医療機関での治療が必要となります。
血栓を作りやすくする原因を理解し、日常生活の中でも予防していくことが必要です。