はじめに
機能性ディスペプシア。聞きなれない言葉ですが、日本人の4人に1人はこの状態を持つとも言われています。どのような時にこの疾患を疑うべきなのか。受診後はどのような経過を経て診断され、治療法はどうするのか。今回はこれらについて説明いたします。
どのような症状がみられたら機能性ディスペプシアを疑って受診すべきか
機能性ディスペプシアは胃に明らかな病態がないのに胃もたれなどの症状がある状態のことをいいます。以前はよく「神経性胃炎」と言われたりしていたものです。受診しても「気のせい」とか「気持ちの問題」などと言われた方もいるかもしれません。
よくある症状、原因などから疑われる場合には受診をご検討ください。
症状
外来を行っていると、
胃もたれ、みぞおちあたりの痛み、すぐに満腹になってしまう、胃のあたりがなんとなくおかしい、むかむかする、胸焼けがする
といった症状を言われることが多いです。
ディスペプシアはみぞおち辺りのこうした様々な症状のことを指します。但し、食べ過ぎなどで一時的に胃もたれがあるとかといった場合には機能性ディスペプシアとは診断されません。機能性ディスペプシアは慢性的な疾患です。
原因
機能性ディスペプシアは「几帳面な人」や「周りに気を遣う人」に多い傾向があり、ストレスがきっかけになるとも考えられています。その他ピロリ菌、食生活、胃酸も原因として考えられています。
病態
こうした原因により胃の運動が低下し、「胃が十分に膨らまない」「胃から食べ物がうまく排出されない」ことが病気のメカニズムとして考えられています。
詳細な診断基準は以下の通りです。
- 6か月以上前から断続的に症状がある
- 最近3か月に食後のもたれ感、早期飽満感、心窩部痛、心窩部灼熱感の内の1つ以上がある
- 内視鏡検査をしても胃潰瘍や胃炎などといった症状の原因となる疾患がみられない
診断の経過は上記を調べていくことになります。
どのような経過で診断が行われるか
まずは問診、触診といった診察です。
※問診で主に聞く内容
- いつからか
- 症状がどの程度続くか
- 痛みの場所はどのあたりか
- 食事との関係
- きっかけになることはあるか
- 血便や黒い便が出ていないか
- 吐き気や下痢といった症状はあるか
- 体重の変化
- 日常生活でのストレスの有無や程度など
そのほか、症状によっては血液検査やレントゲン、お腹の症状を自覚されているが心臓の病気の可能性がありそうだとなれば心電図、胃ではなく胆嚢だとか膵臓だとなれば超音波、大腸だとなれば大腸の検査などといったように検査が組まれていきます。
検査の順番や診察前に検査など順番は医師によっても前後します。
これらの診察や検査の目的は「がん」などの重大な疾患ではないかを判断するためにも行われています。
機能性ディスペプシアは、基本的にはほかに原因となる疾患が無いとなった際に与えられる病名(除外診断)です。そのため、胃の不快感などの症状を起こす他の疾患の可能性を否定する必要があります。
このため、原因がやはり胃にありそうだとなった場合に必ず行われるのが胃の検査です。
上部消化管内視鏡検査:胃カメラまたは上部消化管造影:胃のバリウム検査が行われます。
これらの検査によって胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなど痛みの原因になるような疾患がないことが確認された場合に「機能性ディスペプシア」と診断されます。
治療方法
診断までの過程が長いので大変な病気かと思いがちですが、機能性ディスペプシアは命に関わるとか癌になりやすいとかの心配はありません。
ただし、症状は本人しか分からず、その不快な症状は辛いため治療を要します。様々な要因が関与していることが多く、治療方法もいくつか必要になることが多いです。
生活習慣の改善
全ての場合においてまず見直してみる必要があります。暴飲暴食やストレスの原因となる環境、服薬状況などを見直してみましょう。
薬
機能性ディスペプシア治療薬:アコファイド
アコファイドは機能性ディスペプシアに対して世界で初めて適応を取得した(効果があると認められた)薬です。主な効果は消化管運動の改善によります。
消化管運動改善薬
ガスモチンやプリンぺランなどといった薬のほか、六君子湯などの漢方薬も使われます。
消化管運動改善薬は吐き気やもたれ感などの解消を目的としています。ガスモチンには91%程度に改善が見られたとする報告もあります(Kato S et al. Chemical and Pharmaceutical Bulletin 1995)。
酸分泌抑制薬
- H2 blocker:ガスター、ザンタックなど
- PPI:パリエット、タケプロン、ネキシウムなど
胃の痛みには酸が影響しているとも言われています。胃の粘膜に傷がついていない状態でも刺激になっているとも言われます。
抗不安薬
ストレスが大きな原因となっている場合に効果が得られることがあります。
治療薬については全員に必ず効果があるといったものではありません。その人によって効果が異なるので試してみないと分からないといったこともあります。
診断には内視鏡などの検査が必要ですが、外来を受診するといきなり検査ではなく胃薬などの処方がなされることが多いでしょう。その経過をみて改善するかを検討することもありますし、他の疾患を強く疑う場合、可能性を否定できない場合などでは検査が行われるという手順を経ることもあります。
症状があるのに診断がつくまで放置するというのは、診断がどうしても必要で治療方法が大きく変わる場合や、症状の程度がそれほど強くなく患者さんも診断がついてからの治療を希望する場合など、限られた状況を除き無いと思います。
おわりに
機能性ディスペプシアは多くの方が抱える病態です。致命的になることはまずありませんが、胃の不快症状は生活の質を低下させ、場合によっては生活に支障をきたすこともあるでしょう。重大な疾患を見逃さないためにも、上記の様に疑われる場合には受診をすることが重要です。また複数の要因が重なっていることが多いので薬だけにこだわらず生活スタイルの改善やストレスの軽減を図ることが重要です。