インフルエンザが本格的な流行に入る前に予防接種を受けることを検討される方もいることと思いますが、その効き目や副反応、そもそも本当に受けるべきかなど、気になることはたくさんありますよね。

「いしゃまち」では、インフルエンザの予防接種に関して多くの方が気になるであろう事柄を、小児科専門医・武井智昭先生にインタビューしました。一問一答の形式でお届けします。

目次

インフルエンザの予防接種は、10月下旬頃から受け始めましょう

Q.インフルエンザの予防接種は、いつごろ受けるべきですか?

武井先生:インフルエンザの流行期は、例年12月から翌年の3月頃です。抗体(ウイルスに対抗して身体を守ろうとするはたらき)がつくまで2週間程度かかり、抗体は3~4か月して徐々に低下傾向となります。抗体をつけるため、インフルエンザの予防接種を受けるのは10月下旬から11月下旬がよいかと思われます。12月までには接種が終了するような計画をおすすめします。

Q.インフルエンザの予防接種を必ず受けるべきなのは、どのような人でしょうか?

武井先生:平成13年の予防接種法改正で、65歳以上の高齢者及び60歳以上~65歳未満で特定の疾患にかかっている方に予防接種法二類疾病として接種が勧められています。

接種すべき方は、基礎疾患を有する方(慢性閉塞性呼吸器疾患気管支喘息等の呼吸器疾患、心不全先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、透析を要する腎疾患、免疫不全症の方)は重症化のおそれが高いのでワクチンによる予防が望ましいと考えられます。

また、このような人々にインフルエンザを感染させないようにするため、同居する方にも推奨されます。特に、A型の新型のウイルスでは学童期の喘息を患っている人が重症肺炎となる傾向があります。

インフルエンザの予防接種って、本当に効くの?

ワクチン注射-写真

Q.そもそも、インフルエンザの予防接種は本当に受けるべきでしょうか?ワクチン株の予想が外れたら、効き目が出ないのではないでしょうか。

武井先生:インフルエンザワクチンの有効性については以前から問題となっています。

インフルエンザウイルスは、毎年のように変異しながら流行します。このため、ワクチン株と流行株が一致したときの有効性は70~80%とされます(これは健康な成人で調べられたものです)。型別では、A型の有効性は80%前後で、B型は一般的にA型より低く40~50%前後との報告があります。インフルエンザワクチンの接種は、かかっても重症化(肺炎・脳炎・心筋炎など)を抑制する効果があります。

年齢別では、6歳未満の発病阻止効果は、20~30%前後と低い傾向があります。ただ、インフルエンザワクチンは社会における流行阻止も含め、接種を受けた方とその家族など、身近なところでのメリットはあるかと思われます。

Q.インフルエンザワクチンの改良は検討されていますか?

武井先生:インフルエンザワクチンは現在、不活化(ウイルスを殺して毒性をなくし、免疫をつけるために必要な成分だけを抽出したもの)のHAというウイルスの抗原を用いたワクチンを使用しています。その投与方法は皮下接種(皮下組織にワクチンを注入する、いわゆる「注射」)です。

インフルエンザ感染発症の予防には、気道から直接分泌されるIgA抗体と下気道(気管支・肺)からのIgG抗体が重要であります。全身のウイルス感染の抑制には、血中のIgG抗体が重要な役割を果たします。現在の皮下接種ワクチンは、血中のIgG抗体を作ることで、重症化防止には効果がみられます。その一方で、感染そのものの抑制には改良の余地があります。

この問題を改善するために、不活化ワクチンの鼻腔内接種が検討されています。経鼻接種型不活化ワクチン、あるいは、身体の免疫機能を活性化させる免疫賦活剤(アジュバント)を添加した経鼻接種型ワクチンの実用化が期待されております。

一方、同じく鼻から投与される経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミストは、いくつかの医療機関で行われております。米国疾病対策センター(CDC)の解析によると2歳から18歳未満ではその効果は2014年からではわずか3%と低値であり、推奨しない方針となりました(2015~2016年皮下ワクチンの効果は63%と報告がありました)。

予防接種への不安点:痛い怖い?副反応は大丈夫?

Q.「インフルエンザの予防接種は他の注射よりも痛い」という話を耳にすることがありますが、実際のところはどうなのでしょうか?

武井先生:他のワクチンと成分は変わりないので、痛みは変わらないと思われます。むしろ肺炎球菌ワクチン(プレベナー13、ニューモバックス)の方が局所の疼痛を訴える割合は高い傾向にあります。

Q.予防接種の副反応は、どのくらいの危険性があるものでしょうか?また、予防接種後に注意すべきことはあるでしょうか。

武井先生:他ワクチンと同様に、接種30分以内の呼吸困難や明らかなじんましんなどのアナフィラキシー症状が注意するべき事項ですが、その発症はほとんどありません。1-2日後に局所の発赤・硬結などは1%程度でみられますが、1週間ほどで自然軽快します。

お子さんのワクチン接種の前に、知っておいてほしい3つのこと

Q.子供の場合、2回の接種はどうして必要なのでしょうか?1回ではいけないのでしょうか。

武井先生:13歳未満の子供は2回の接種が推奨されますが、1回の接種では充分な免疫が得られないからです。その理由としては、小児では免疫の基礎となるリンパ球の機能が成人と比較して低い傾向にあるからです。

1回の接種では、1~2か月で免疫が低下します。このため、2回目の接種により免疫が増幅する「ブースター効果(追加の免疫効果)」を利用します。他のワクチン、例えばヒブ・肺炎球菌・日本脳炎でも、このブースター効果を期待して現在の接種計画が実行されております。

もちろん、13歳以上の子供も成人も、2回接種した方が効果は高まるようです。(受験など、冬のシーズンに体調管理が必要な方は2回受けることを推奨します)。

Q.卵アレルギーがある子供にインフルエンザワクチンを接種してもよいでしょうか?

武井先生:ワクチンは、発育鶏卵の尿膜腔で増殖したインフルエンザウイルスを原材料として製造しています。日本で製造されているインフルエンザワクチンの卵白の含有量は0.01g程度であり、たまごボーロが1個食べられれば比較的安全に接種することが可能です。ただ、担当医師と相談のうえ、皮内反応(プリックテスト)などを行いながら、慎重に接種してください。

Q.川崎病の持病があります。インフルエンザにかかった時、アスピリンの内服を継続してもよいでしょうか?

武井先生:インフルエンザにかかっていたときにアスピリンを内服継続すると、中枢神経症状を主とする「ライ症候群」の発症のおそれがあります。担当医師と相談のうえ、他薬剤の内服を推奨します。

Q.赤ちゃんやお子さんが予防接種を受けたがらない場合、怖がらずに受けさせるための方法はありますか?

武井先生:ワクチン接種をしたら風邪にかからない・遊びに行けると教えてあげる、ほめてあげるなど心理的なモチベーションを高めることがよいかと思われます。

最後に

ここまで、インフルエンザについて是非知っておいていただきたい事柄を、小児科専門医・武井智昭先生との一問一答形式でお伝えしました。皆さんの疑問は解消されたでしょうか?

現在のインフルエンザワクチンは、感染そのものを防ぐというよりは感染した場合の重症化を防ぐという点で効果を発揮するものです。10月下旬から11月下旬ごろの、流行が全国的に本格化する前の期間に、計画的に接種を受けておくことをおすすめします。