漢方薬は老若男女問わず、様々な症状や体質の改善に使用されています。今回はあまり一般的にはなじみのない八味地黄丸(ハチミジオウガン)という漢方薬について、どんな体質の人に向いているのか、どういう症状の改善に使用されるのか、意外に身近な薬として活躍している八味地黄丸の効果副作用についてお伝えしてみたいと思います。

目次

八味地黄丸って何が入っているの?

八味地黄丸は、その名の通り8種類の生薬からできています。含まれている生薬は次の通りです。

  • 地黄(ジオウ):貧血症状を改善し元気をつける
  • 山茱萸(サンシュシユ):滋養強壮作用
  • 山薬(サンヤク):滋養強壮作用
  • 茯苓(ブクリョウ):水分循環をよくする
  • 沢瀉(タクシャ):水分の循環を促す
  • 牡丹皮(ボタンピ):血行障害を改善し血の巡りをよくする
  • 桂皮(ケイヒ):身体を温め痛みをとる
  • 附子(ブシ):痛みをとる

八味地黄丸というとなじみのない漢方薬のようですが、市販の内服液の中には八味地黄丸と同様の効能を有する生薬が多く含まれています。CMでもおなじみのハルンケア(大鵬薬品工業)やボーコレン(小林製薬)などには八味地黄丸の主成分であるジオウやブクリョウなどが含まれているので、意外と身近な生薬といえます。

八味地黄丸はどんな人に効果があるの?

尿トラブルのある方へ

八味地黄丸は主に尿トラブルの方に処方される薬です。疲れやすく、手足の冷えが顕著な方、尿の量が多かったり少なかったり、口が乾く傾向にある方に向いているといわれています。また、八味地黄丸の処方を判断する症状のひとつが下腹部の腹力(腹部の弾力)の弱さだともいわれています。

高齢の方に処方されるイメージがありますが、尿のトラブルは決して高齢者に特有の症状ではありません。若くても出産を経験した女性に多いといわれる軽い尿漏れ、中年以降に自覚症状が増えてくる頻尿、残尿感、夜間尿などの症状も、心当たりがある方は意外と多いのではないでしょうか?

どんな効果がある?

尿は体内の余った水分や不要な老廃物で、腎臓でろ過されて膀胱にたまります。膀胱は伸び縮みする器官で、通常であれば尿道の筋肉の動きにより尿が勝手に出てしまわないようになっています。しかし加齢やホルモンバランスの乱れにより、本来は膀胱に尿がたまったときに発信される膀胱の筋肉に対する脳の指令に誤りが生じることがあります。この膀胱の筋肉に対する指令が誤って発信されると、「意思に反して尿漏れが起こる」「尿がたまっていないのに尿意を感じる」といったトラブルが生じるのです。

また、頻尿とは逆に排尿困難の症状を訴える方も多くいらっしゃいます。一見、頻尿とは正反対の症状に思えるこの症状にも八味地黄丸が処方されます。先に紹介しているとおり、八味地黄丸に含まれる八種類の生薬には水分代謝の改善血液循環の促進、さらに身体を温めて新陳代謝をスムーズにしてくれるという効果があります。このことはつまり、八味地黄丸は尿トラブルだけに効果があるわけではなく全身症状や体質改善への効果が期待できるということを意味します。

実際、医療用の八味地黄丸の適応には、腎炎、糖尿病坐骨神経痛腰痛脚気、前立腺肥大、高血圧なども含まれています。実際の医療現場でも主に下半身に生じるトラブルへの適応が多く見られます。

さらに、若い女性の多くは冷えの自覚があっても尿の変化には意外に気付かないケースがあります。冷えがあるということは体内の水分量に問題がある可能性があるので、冷え以外にも症状がないか専門家に相談しながら服用を検討してみてはいかがでしょうか。

副作用はあるの?

のぼせる女性-写真

こんな方には不向き

八味地黄丸にも副作用が生じる可能性があります。この点、体力が充実している方には副作用があらわれやすい傾向があるようです。暑がりでのぼせやすく、赤みの強い顔色の方にも不向きです。のぼせや舌のしびれがあらわれることがあります。また胃腸の弱い方にはジオウの副作用として、食欲不振や胃部不快感などの胃腸症状が出やすいようです。

附子(ブシ)の薬効成分と毒性

また、八味地黄丸にはジオウと並んで効果のポイントとなるブシが含まれています。ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、ブシはそもそもトリカブト(古くから矢毒などに使用され、有毒植物として知られている)から抽出された薬効成分です。

ブシにはアコニチンという猛毒が含まれていますが、ブシは毒性が高いと同時に強い薬効成分を有します。強い強心作用や鎮痛作用があり、薬としての作用だけを引き出すために研究が積み重ねられ、1960年に日本で「加工附子」が考案されました。しかし、加工附子ではブシの薬効成分が十分に引き出せなかったことから、さらに研究がなされ「炮附子(ホウブシ)」が生まれました。加工附子と同様アコニチンはほとんど残っていませんが、高い薬効作用が期待できるようになりました。

薬効が強いということはつまり、ほかにブシを含む薬を同時に併用してしまうと効果が増強されてしまうことになりますので、八味地黄丸を服用するときは他のブシを含む薬との併用に注意が必要です。

妊婦さんも注意

また、妊婦さんには八味地黄丸のうち、ボタンピの成分に流産・早産の危険があるため要注意です。投与しないことが望ましいとされています。また妊婦さんの身体は非常にデリケートなため、ブシの副作用があらわれやすくなるということも指摘されています。

漢方に限りませんが、妊娠中の方は、薬を処方されたときには必ず病院や薬局で妊娠中であることを伝えましょう。

生殖器にも効果があるというけど、どんな効果?

八味地黄丸は先に述べたように全身症状、特に下半身の症状の改善が期待できる漢方薬です。この点、八味地黄丸は身体の新陳代謝を高め、血液循環を改善することから不妊治療への活用が増えています。実際に、男性不妊、女性不妊に関わらず効果があるとの文献もあるようで、精子の数が増加した、卵巣機能が若返るとのデータもあり、八味地黄丸を服用したことでの妊娠事例も目にします。

しかし当然のことながら、不妊の理由は人さまざまです。不妊の原因は中医学的にも要因となる症状がいくつもあり、そのひとつに腎虚という症状があります。水分循環、血液循環が悪い体質の方をさします。体質に合った方には八味地黄丸の効果が期待できるかもしれませんが、不妊の理由や体質が合わなければあまり効果は感じられないでしょう。病院に通うほどではないけど不妊ではないか、と漢方を自己判断で選択するのはあまり好ましくありません。近年は漢方の専門薬剤師もいますし、医師はもちろん専門家に必ず相談しながら服用しましょう。

八味地黄丸の意外な効能

八味地黄丸はかすみ目骨粗しょう症認知症や加齢に伴う膝などの痛みにも効果があるというデータがあります。幅広い効能から究極のアンチエイジング漢方薬といわれるのもうなずけますね。

まとめ

市販で手に入る八味地黄丸は、第二類医薬品といって薬剤師でなくても登録販売者の資格を持った販売員から説明を受けて購入することができます。様々な効能から少し試してみようかなと思われたかもしれません。しかし、本来、漢方薬は体質を見極めながら慎重に服用するべき薬です。同じ症状でも体質で服用する薬が変わってくるのが本来のあり方になります。正しい知識を持って安全に使用するために、医師や薬剤師など専門家に相談しながら有効に活用してみてくださいね。