心臓の収縮を生む電気信号は、一つの決まった道を通っていきます。実はその決まった道以外に、もう一つ別の道がみられる場合があります。これをWPW症候群といい、通常よりも脈を速く打つ状態(頻脈)になります。今回はWPW症候群の症状や治療などについて詳しく解説していきます。

目次

心臓が動くメカニズムとは

心臓が規則正しく動くメカニズムを刺激伝導系といいます。心臓の右心房にある洞結節で電気信号が生まれます。電気信号は右心房から左心房へと移動し、心房と心室の間にある房室結節へと伝わります。

房室結節に伝わった後は、ヒス束、右脚、左脚と呼ばれる道を通り、心室全体へと広がって、心筋の収縮が起こります。洞結節で起こる電気信号の発生するスピードは自律神経によって調節されています。

 WPW症候群とは

WPW症候群は心臓の電気が伝わる本来の道とは別に、異なる電気の通り道がある病態です。副伝導路症候群とも呼ばれています。この病態を発見したウォルフ、パーキンソン、ホワイトという3人の頭文字からWPW症候群と名付けられています。

別の道は心房と心室の境目にあり、生まれつき(先天性)のものです。この道にも電気が伝えられるために、本来の電気の道と、別の道との間で電気信号が空回りして、発作的に頻脈が起こります。

WPW症候群によって発作的に起こる頻脈は発作性上室性頻拍といい、WPW症候群の人全員にみられるわけではありません。

心電図上でWPW症候群の特徴的な心電図がみられるだけで、生涯、何も症状が起こらない人もいます。自覚症状がない場合には積極的な治療は必要なく、経過観察となることがほとんどです。

WPW症候群の症状

WPW症候群によって心臓に違和感を覚える男性-写真

発作性上室性頻拍がみられると、1分間に140180回程度の少し弱い脈が規則正しく触れ、突然動悸がみられます。胸の不快感が生じることもあります。

症状が強い場合には激しい動悸呼吸困難などを生じ、日常生活に支障をきたすこともあります。

歳を重ねることで心房細動が生じると、心不全突然死を招くこともあります。女性の場合は発作性の頻脈が生じるリスクがあるため、出産時に循環器科のサポートが必要となることもあります。

通常の運動は制限する必要はありません。ただ発作性の頻脈が生じた時に対応できないような山奥や海、僻地(へきち)などでの激しい運動は避けると良いでしょう。

WPW症候群の治療

発作性上室性頻拍がみられた場合は、息を止めてお腹に力を入れる息ごらえや、冷たい水や氷のかけらを飲み込むなどの迷走神経を刺激する対処法が有効です。

動悸の症状が長く続いたり非常に多く発作がみられたりする場合は、発作を予防するために抗不整脈β遮断薬での治療が行われます。しかし薬が効かない場合もあります。薬が効いて発作を抑えていても、服用を止めると再び発作が起こることもあります。

根治するにはカテーテルアブレーションという、電極カテーテルを血管から心臓の中に通して副伝導路を電流で焼き切る治療が行われます。

カテーテルアブレーションを行えば高い確率でWPW症候群を根治することができます。

一方で心臓の血液が漏れ出て心臓が拡張できない状態となる心タンポナーデや、心臓の電気信号が完全、不完全に止まって脈が遅くなる房室ブロック、血栓が脳の血管に流れて詰まる脳梗塞などの重篤な合併症が手術中や手術後に起こることもあります。

まとめ

WPW症候群は生まれつきの病態です。一生症状が現れないままの人もいれば、ある日突然、頻脈の発作が生じてしまう人もいます。

症状がみられない場合は経過観察するだけで大丈夫ですが、繰り返し発作が起こったり、日常生活に影響が出たり、心房細動があったりする場合は薬やカテーテルアブレーションでの治療が必要となります。ただ治療にはリスクもありますので、医療機関で主治医と十分に相談しましょう。