心臓は全身に血液を送り出すポンプとして重要な働きをしています。その心臓が正常に機能しなくなると、呼吸困難や血圧低下、頻脈、浮腫などのさまざまな症状が起こり、この症状を心不全と呼びます。
心不全は心臓そのものの異常が原因となって起こるものと、心臓以外の異常が原因で起こるものに大別されます。
その心不全の原因となる病気と治療について、医師・安田 洋先生による監修記事で解説します。
なお、心不全の症状については「心不全ってどんな症状?原因となる7つの病気 」をご覧ください。
心臓の異常が原因となる心不全
心臓の異常は、心臓の筋肉(心筋)、弁膜、心拍(脈)をコントロールする刺激伝導系など、様々な部分で生じます。
代表的な病気
狭心症心筋梗塞
心臓の冠動脈が狭窄または閉塞することによって起こる心臓の筋肉の虚血、または壊死
弁膜症
心臓の弁膜の狭窄または閉鎖不全によって起こる循環異常
不整脈
心臓の刺激伝導系の異常によって起こる心拍の乱れ
心筋症
心筋がなんらかの異常によって肥大したり拡張したりした状態
それぞれの詳しい病態は異なりますが、いずれも心臓のポンプ機能の低下を来すことによって心不全を引き起こします。
日用生活が可能なレベルにコントロールすることを目標に、内服薬などで治療が行われます。重症度によっては、開胸手術やカテーテル手術が必要になります。
心臓以外の異常が原因で起こる心不全
高血圧
高血圧は自覚症状のないうちから、少しずつ心臓に負担となっています。
また高血圧を精査してみると、心臓や腎臓の異常が発見されるケースもあります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌することによって新陳代謝が異常に活発になる病気で、頻脈や不整脈による動悸、手の震え、眼球の突出、体重減少、首の前面が腫れる症状などが出現します。
この頻脈や不整脈によって心臓に負担がかかることから心不全の原因となります。
貧血
血液内のヘモグロビンが減少した状態である貧血は、心拍数の増加を来たし、心不全の原因となります。また貧血の度合いが強いほど心不全のリスクも高くなります。
婦人科疾患や消化器疾患による慢性的な出血、血液疾患や腎臓疾患による血液を造り出す働きの異常などからも、重度の貧血を引き起こします。
摂食障害
拒食症や偏食によって必要な栄養素の不足が起きると、貧血やミネラルバランスの異常を来たし、不整脈から重症の場合は心不全となります。
心不全の治療
1.服薬
心不全の治療に使用される主な薬とその特徴をご紹介します。
強心剤(強心薬)
強心剤とは心臓の収縮力を高める作用があります。
強心剤はその作用機序(薬が効果をもたらす仕組み)によっていくつかの種類があり、心不全の重症度やもととなった疾患によって使い分けたり併用して使用されます。
心臓の負担を軽くする薬
①利尿剤
心臓のポンプ機能の低下により、血液を中心とした水分の循環が悪くなるため、余分な水分が全身にうっ滞することになります(浮腫、うっ血)。
利尿剤はその過剰な水分を尿として体外に排出させることで心臓の負担を軽くする効果があります。
②血管拡張薬
心臓の血管を広げることで心臓の負担を軽くする薬です。
また、もととなった疾患の治療薬として、抗不整脈剤や抗凝固剤(血液の固まりをできにくくする薬)などが使用されます。
心不全のみならず心疾患の治療に用いられる薬は、医療機関で経過観察をしながら医師が処方するものです。
薬には副作用もあり、症状や経過に応じて量や種類を変更するため、自己判断で服用量を変えたり、中止することは非常に危険ですので絶対にやめましょう。
2.食事(減塩)
心不全の食事療法の基本は減塩です。
塩分の取りすぎは身体に余分な水分を溜め込むことに繋がり、心臓の負担となります。
日本人はもともとの食生活から塩分を取りすぎる傾向にあるとされ、厚生労働省は今年(2015年)塩分の目標摂取量を以下のように改定しました。
18歳以上男性:2010年版 9.0g/日未満 → 2015年版 8.0g/日未満
18歳以上女性:2010年版 7.5g/日未満 → 2015年版 7.0g/日未満
塩分は調理で使用する塩、しょうゆ、味噌などのほかにも、食品そのものに意外と多く含まれているものもあるため注意が必要です。
(塩分含有量の一例)
食品 | 量 | 塩分(g) |
ごはん | 1杯(130g) | 0 |
うどん | 100g(乾麺) | 1.5 |
そば | 100g(乾麺) | 0.3 |
食パン | 6枚切1枚 | 0.8 |
焼きちくわ | 1本 | 0.7 |
チーズ | 20g 1個 | 0.6 |
梅干 | 1個 | 2.2 |
出典:MSD|塩を減らそうプロジェクト 減塩レシピを参考にいしゃまち編集部作成
3.運動(活動量の調整)
心不全が重度になると入浴などの日常生活動作も心臓の負担となるため、制限が必要になる場合があります。
重度でない場合は、適度な運動は心臓の予備能力(運動によって引き出される力)を高め、ストレス解消や気分転換としての効果もあります。
可能な運動量(運動の種類や方法)を医師に相談し、生活に取り入れるようにしましょう。
4.体重管理

太りすぎは心臓の負担となります。適正体重を維持するように心掛けましょう。
また、食べすぎによる体重増加だけでなく、心不全の症状のひとつである浮腫によっても体重が増加します。
体重は毎日同じ条件(入浴後または起床排尿後など)で測定するよう習慣づけましょう。
5.感染症
風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症のみならず、発熱や炎症は身体の代謝を高め心臓の負担となります。
日頃から手荒い、うがいなどの予防を心掛け、インフルエンザ流行期には医師に相談の上、予防接種を受け、重症化を予防しましょう。
また、歯科治療においても注意が必要です。
抗凝固剤を服用している場合は抜歯の際に休止する必要もあるため、必ず主治医に歯科治療の予定を伝えておきましょう。
まとめ
心不全は服薬、食事、運動(活動量の調整)などによって、日常生活に支障ない状態を維持することを目標に治療を行います。
また心不全の状態やもととなる病気の治療などは、医療機関での経過観察を必要とします。
適切な治療を受けることで、少しでも良い状態を維持できるよう心がけましょう。