肝臓は、体内にある有害な物質をきれいにする働きをしています。しかし肝臓の働きや、肝臓に流れる血液の流れが悪くなると、機能がうまく働かず有害な物質が脳へと運ばれてしまいます。その結果、さまざまな精神症状や神経症状がみられます。その状態を肝性脳症といいます。今回は消化器が脳に影響を及ぼす肝性脳症について、詳しく紹介していきます。
肝性脳症になるメカニズム
肝性脳症は、何らかの原因で肝臓の機能が著しく低下し、有害な物質が脳に達することで中枢神経の障害がみられる状態です。
有害な物質が脳に運ばれる
肝臓はアンモニアをはじめ、中枢神経にダメージを与える有毒な物質を解毒する働きを担っています。肝臓の病気などで肝臓の働きが悪くなってしまうと、有毒な物質が解毒されずに身体の中に溜まっていきます。
また、肝臓に入る大きな血管である門脈の血液の流れが悪くなると、新たに血液の道を作ってしまいます(門脈圧亢進症)。その新たな道などを通って溜まった有毒な物質が脳に運ばれると、脳神経が損傷してしまい神経症状や精神症状が現れます。
体内のアミノ酸バランスの崩れ
肝臓は有害な物質を解毒するほか、栄養の代謝調節も行っています。具体的には体内のアミノ酸のバランスを保っていますが、肝臓の働きが悪くなると必須アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリンといった分岐鎖アミノ酸の割合が低くなります。
分岐鎖アミノ酸は神経の働きを助ける作用があります。そのため分岐鎖アミノ酸が体内から減少してしまうと、神経の働きに異常をきたして神経症状がみられると言われています。
肝性脳症の原因
肝性脳症の原因ははっきりとは分かっていません。ただ肝硬変がある場合には、以下のような要因が肝性脳症を発症するきっかけとなります。
肝性脳症の症状
肝性脳症の症状は、重症度によって昏睡度1~5に分けられます。
昏睡度1
最初にみられる症状です。睡眠のリズムが昼夜逆転し、昼間に眠って夜に活動するようになります。また身だしなみに気を使わなくなり、気分の高揚や抑うつなどの精神症状がみられます。
これらの症状は実際に症状がみられるときには気づきにくいです。後になってから「そういえば、あの時」と気付くケースがほとんどです。
昏睡度2
羽ばたき振戦といわれる特徴的な手の動きがみられるようになります。前に手を伸ばした状態で手首を反らすと、指先が小刻みに震えることがあります。
また自分がいる場所や時間が分からなくなることや、傾眠(うとうとと眠りやすくなる)状態がみられます。
昏睡度3
ほとんど眠っている状態となり、興奮やせん妄(幻覚や妄想、睡眠障害、見当識障害、イライラや不安などの気分障害など)がみられるようになります。羽ばたき振戦もみられます。
昏睡度4
昏睡状態となって意識がなくなります。ただ痛みを与えると顔をしかめたり、手で払いのけようとしたりなど反応はみられます。
昏睡度5
痛みを与えても反応せず、完全な昏睡状態となります。
肝性脳症の治療
原因となる要因の除去と食事のタンパク質制限
肝硬変があって消化管からの出血や便秘、脱水や低カリウム血症など、何らかの要因から肝性脳症が起こっている場合は、まず原因となる要因を除去するための治療を行います。
また医師や栄養士の指導を受けながら、食事のタンパク質制限を行うこともあります。
薬物療法
上記の治療に合わせて薬物療法も行なわれます。肝性脳症がみられるときは血液中のアンモニア濃度が高くなるので、アンモニアの処理を促進する作用を持つ分岐鎖アミノ酸輸液や、合成二糖類(ラクツロース、ラクチトール)の投与が行われます。分岐鎖アミノ酸が含まれる肝不全用経腸栄養剤を服用することもあります。
このほか抗生物質が用いられることもあります。
血漿交換や血液濾過透析
薬物療法を行っても改善がみられないときには血液中の有毒な物質を専用の装置で除去する血漿交換、血液濾過透析などが行われることもあります。
まとめ
精神症状や神経症状などは脳の病気だけではなく、肝臓の機能低下から肝性脳症を発症してみられることがあります。
肝性脳症にならないためには、肝硬変など肝臓の疾患を予防することが大切です。肝硬変の原因は肝炎ウイルスやアルコール、脂肪肝炎などの肝炎が挙げられます。肝炎ウイルスの検査を受けて陽性であれば治療を受ける、アルコールは控えめにするなど、生活習慣に十分に気を配ってください。
また、肝障害や肝硬変の方は食にも気を配ったり、便通を整えて便秘を予防したりしてください。胃や食道の静脈瘤からの出血を予防するために定期的な検査を受けることも大切です。