肝臓は沈黙の臓器といわれ、気が付かないうちに病気が進行し、症状が出てからでは病状が進んでいて手遅れとなっていることもあります。
気がつきにくい箇所であるからこそ定期的な健康診断を受け、早期発見をすることがとても大切です。そして、肝臓病と診断されてしまった場合には、適切な食事療法を行うことで病気の進行を遅らせることができます。
肝臓病といっても細かい分類によって食事療法の仕方が異なりますので、主な肝臓疾患別の食事療法についてまとめていきます。
脂肪肝の食事療法
脂肪肝は肝臓に脂肪が溜まった状態です。アルコールの飲み過ぎが原因となることが多いですが、乱れた食生活によっても引き起こされることがあります。
脂肪肝が肝硬変や肝がんへと進行することや様々な生活習慣病のリスクを高めることも分かっています。詳しくは「脂肪肝って一体どんな症状?何がいけないの?」をご覧ください。
脂肪肝の食事療法のポイントは次の通りです。
1.糖質を摂りすぎない
脂質の摂りすぎにももちろん気をつける必要がありますが、糖質の摂りすぎにも注意する必要があります。特に果物に含まれる糖質は吸収がよく、肝臓で中性脂肪になりやすいので摂りすぎに気を付けましょう。
2.野菜から先に食べる
野菜→たんぱく質→炭水化物の順番に食事をすることで、急激な血糖値の上昇を防ぐことができます。
急激に血糖値が上昇してしまうと血糖値を下げるホルモンのインスリンが大量に放出され、余った糖を中性脂肪に変えてしまうので、脂質を作らないためにも血糖値を穏やかに上昇させてあげることが大切です。
3.暴飲暴食を避け、バランスのとれた食事をしましょう
基本的なことですが、不規則な食生活が脂肪肝を引き起こす場合もあります。
偏った食事を避け、主食・主菜・副菜の揃った食事を心掛けると同時に適正量を守りましょう。
肝炎の食事療法
肝炎は肝臓が炎症を起こしているもので、ウイルスによるものやアルコールによるものがあります。
脂肪肝がある状態でアルコール性肝炎を引き起こすと、腹痛・発熱・黄疸の急性症状が現れ死に至る場合もあります。
アルコール性肝炎の患者さんは既にアルコール依存症になっている場合が多く、飲みなれたアルコールから離れることはなかなか難しいのですが、一番効果的な方法は断酒をすることです。特別な脂質制限はありませんが、規則正しい食生活を心掛け、栄養バランスを整えるためにも多種類の食品を取り入れるようにしましょう。
また、ウイルスによる肝炎は、ウイルスによって感染経路が異なります。
日本人に多いB型肝炎・C型肝炎は、感染者の血液が体内に入ることによって感染します。感染が分かった場合には、歯ブラシなど血液が付く可能性のあるものを共用しない、出血時は自分で手当てする、献血はしないといった他人への感染を防ぐ対策が必要となります。
一方、A型肝炎・E型肝炎は、ウイルスに汚染された水や食べ物を摂取することで感染します。特に海外旅行の際には、水道水を飲まないようにする、食べ物は必ず火を通して食べるといった自己防衛策が有効となります。
肝硬変の食事療法
肝硬変は、ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎の最終段階です。
肝硬変を放ったままにしておくと肝臓がんへと進行する場合があるので早期の段階から食事療法を行う必要があります。
肝硬変の段階によっても食事療法の仕方は異なりますが、ある程度進行してからの非代償性肝硬変の食事のポイントについてまとめました。主治医や栄養士ともよく相談し、食事についての指導を受けてください。
1.エネルギーをたっぷりと
安静時でも消費エネルギー量が多く、肝臓はいつもエネルギー不足になっています。
体重あたり30〜35kcalを目安にエネルギーたっぷりの食事をとりましょう。
2.適正量のたんぱく質を摂りましょう
肝硬変では様々な代謝異常によりたんぱく質が失われやすくなり、たんぱく質の合成自体も低下してしまいます。
栄養状態の低下を避けるため、たんぱく質は不足のないように体重あたり1.0〜1.2gの量を摂りましょう。
ただし肝性脳症や高アンモニア血症がある場合は0.5〜0.7g/kgの低たんぱく食とします。また、肝硬変でたんぱく質を摂りすぎると肝性脳症の原因となることがありますので、あくまでも適正量をとるよう心掛けるのがよいでしょう。
3.200kcal程度の夜間食をとりましょう
寝ている間空腹の時間が続くことはエネルギー効率が悪く肝臓に負担がかかってしまいます。
日中の食事の量を少なめに調節して寝る前に200kcal程度の食事をとることで夜間の飢餓状態を防ぐことができます。
4.その他
浮腫や腹水がみられるときには塩分制限をし、便通をよくするためにも繊維質の食品をしっかりととりましょう。便秘になると、肝性脳症という病態を引き起こしやすくなります。
まとめ
最近では脂質や糖質に偏った食生活による脂肪肝も増えてきているので、生活習慣に不安がある方は、アルコールだけではなく規則正しい食生活を送れるように心掛けることが大切です。
一方、現在もなお肝炎の患者さんについてはウイルス性肝炎の方が多い状況です。ウイルスの種類により感染経路が異なりますが、経口感染するA型肝炎・E型肝炎などについては自身でも十分な予防ができます。
また、肝臓病には様々な種類があり、進行具合によっても食事療法の方法、必要となる栄養の量などが異なります。特に、肝硬変では断酒が必要です。肝臓病と診断された場合には、主治医の先生と病院の栄養士さんに相談しながら、正しい食事指導を受けるようにしましょう。
肝臓疾患は、症状が出てしまってからではかなり病状が進行していることもあります。きちんと定期検診を受けて早期発見をしましょう。