肝炎は、ウイルスの感染によって起こる肝臓の炎症を主体とした病気です。肝臓は消化に関わる働きだけではなく、生命活動に欠かせない様々な機能を担っています。一方で、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、何らかの病気になったとしても症状はほとんど起こりません。そのため、肝炎になってもなかなか気づかないことがあります。ここでは、肝炎の感染経路と、感染した時に起こる症状を解説します。
感染すると厄介な肝炎
肝炎の原因としては、以下のように様々なものが考えられます。
- 体に合わない薬剤によるもの
- 寄生虫によるもの
- ウイルスによるもの
このうち、今回の記事ではウイルスによる肝炎に着目して解説します。ウイルス性の肝炎としてはA型肝炎・B型肝炎・C型肝炎・D型肝炎・E型肝炎の5種が知られており、中でも日本人に多くみられるのはA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎の3種類です。
ウイルス性肝炎の感染経路
ウイルス性肝炎は様々な経路で感染しますが、その種類により感染しやすい経路が異なります。
A型肝炎
A型肝炎は、東南アジアなどで広がっている病気です。水を介した感染が知られています。旅行先では飲み水に注意を促されることが少なくありませんが、その理由の一つがこのA型肝炎への感染です。
東南アジア地域では上下水道設備が不十分な地域が多く、ウイルスを含んだ水の殺菌除去がうまく行われていないことがあります。このため、飲水によってA型肝炎に感染してしまうことがあるのです。この他、貝類を介した感染が知られているので、生の貝をむやみに食べることは避けた方が良いでしょう。
B型肝炎
B型肝炎は、非常に感染の可能性が高い肝炎です。中でも、血液や唾液を介した感染が知られています。自分の傷口に感染者の血液や唾液が付着したり、感染者の血液が付着した針を誤って刺してしまったりしただけでも感染の可能性を疑わなければなりません。
上記のほか、性行為を介した感染の可能性も高いです。不特定多数との性行為は避けてください。また、パートナーにも感染させてしまう危険性があるので、不安な人は一度検査を受けてみることをおすすめします。
C型肝炎
C型肝炎は、主に血液感染で広がる病気です。輸血や、血液凝固因子剤などの血液製剤を介した感染がみられることがあります。また、不衛生な環境でボディーピアスを開けたことや、臓器移植によって感染したという報告もあります。
C型肝炎はほかの肝炎に比べて初期の自覚症状が乏しい病気です。自分が感染していることに気づかず、他の人に感染を拡大してしまう可能性もあります。
ABCの3種類の肝炎の症状
各肝炎の症状は「肝臓の炎症」で共通していますが、それぞれの炎症の程度や炎症が続く期間の長さに特徴があります。
A型肝炎
A型肝炎は、2~7週間程の潜伏期間(ウイルスに感染はしているが、症状の出ない期間)の後に、発熱や全身倦怠感といった症状が起こります。食欲不振や嘔吐などの症状がみられることもあります。
通常は一過性の急性肝炎の症状を呈し、慢性化することは少ないです。しかし稀に慢性化し、4ヶ月以上続く場合もあります。
また、A型肝炎ウイルスに感染すると、劇症肝炎という状態になることがあります。特に、高齢者で重症化しやすいです。劇症肝炎については、後ほど解説します。
B型肝炎
B型肝炎ウイルスに感染した場合の症状は、急性肝炎と慢性肝炎の2種類に分けられます。
B型急性肝炎では、感染後1~6ヶ月の潜伏期間を経て、全身の倦怠感や食欲不振、嘔吐、黄疸、褐色尿(烏龍茶のような色の尿)などの症状が起こります。重症化すると肝不全や劇症肝炎を引き起こすこともあります。
一方、母子感染などによってB型肝炎ウイルス(HBV)に生後間もなく感染した場合、特に症状が起こらないままで思春期まで成長することがあります。これがB型慢性肝炎です。
C型肝炎
C型肝炎は、慢性的な炎症を引き起こすことが多いです。A型肝炎やB型肝炎に比べて炎症の程度が弱いため、自覚症状もほとんど見られません。「なんとなく怠い」「なんとなく食欲が湧かない」といった症状が生じることもありますが、これらの症状は他の病気でもよく起こるため、症状だけでC型肝炎を自覚することは難しいです。
重症化すると肝硬変を引き起こし、肝臓がんに至るケースもあります。肝硬変がひどくなると、がんが生じても治療ができなくなる場合があるので、健康診断などで検査を受けることで早期発見に努めるべきです。
劇症肝炎とは?
急性肝炎のなかでも、肝細胞の破壊が急激に進行し、肝不全になってしまった状態を「劇症肝炎」といいます。全身の臓器に障害が起こり、発熱や呼吸困難、下血、口の中や注射針を刺した部位からの出血など、症状も多岐にわたります。
劇症肝炎は非常に経過の悪い状態で、適切な治療を行わなければ死に至る可能性が高いです。B型肝炎ウイルスによる発症が最も多く、次いでA型肝炎ウイルスによるものがみられます。
ウイルス性肝炎を放置しないで!
ウイルス性肝炎で最も注意すべきなのは、慢性化した場合に放置しないということです。
C型肝炎の項目でも述べた通り、肝炎を放っておくと、肝硬変になってしまうことがあります。現在、C型肝炎については非常に効果の高い薬剤が出ていますし、B型肝炎もコントロールのガイドラインが作られています。ウイルス性肝炎は、適切な治療によって、治癒が高い確率で期待できる病気なのです。
一方、感染に気付かないままでいると、周囲の人にうつしてしまうことがあります。そのため、検査を受けることも重要です。検査を受け、陽性であれば治療を受けてしっかりと治しましょう。
まとめ
肝臓は血液中のたんぱく質の量を維持したり、血液を固めるのに必要なたんぱく質を作り出したりする働きをしています。この他、栄養分の貯蔵や体に不要なアンモニアを分解して無毒化する機能を持っていたりと、とても重要な臓器です。肝炎によって肝臓機能が低下すると、肝臓だけの問題でなく全身にわたる多彩な症状が出てきます。
ウイルス性肝炎は、自分で感染を予防したり、検査での早期発見により他人への感染を防いだりすることができる病気です。正しい知識を持つことが、自分や大切な人の身を守ることに繋がるのです。