家族や友人など身近な人と接するとき、以前と比べ相手の表情に「活気がないなあ…」と感じたことはありませんか?活気がなく周囲への関心が薄い表情(顔貌、がんぼう)を無欲状顔貌といい、病気が潜んでいる場合があります。病気による顔貌の変化は、自分で鏡を見て気づくことよりも、周りから見て「何かいつもと違うな」と気づくことの方が多いでしょう。今回は、無欲状顔貌がみられたときに疑われる病気について詳しく紹介していきます。

目次

病気でみられる特徴的な表情

顔貌は病気を疑う際の手がかりの一つです。
ただし、表情をもとに医師が診断を行うことは、実際にはまずありません。あくまで、何らかの病気(特に認知症やうつ)を疑うサインになり得る、という程度に考えてください。

その中の一つとして無欲状顔貌(むよくじょうがんぼう)があります。
これは表情に活気がみられず、眼光も鈍く、周りに無関心のように見えるものです。

病気でみられる特徴的な表情には、他にも様々なものがあります。

たとえば心筋梗塞などで激しい痛みがある場合に顔をしかめたときにみられる苦悶状顔貌や、パーキンソン病で特徴的な、顔の筋肉が硬直して表情に乏しくなる仮面様顔貌、高熱があるときに顔が赤くなる有熱顔貌です。

無欲状顔貌が特徴の病気

白い壁の前で座って一人落ち込む女性

無欲状顔貌があるときに考えられる病気として次のようなものがあります。

うつ病

仕事、妊娠・出産・子育てなど様々な分野で精神的、身体的ストレスを感じたとき、感情とうまく向き合えないことで発症します。

脳内で放出される神経伝達物質(セロトニン、ノンアドレナリン)がうまく働かなくなることが原因の一つと考えられています。
その人の性格によって発症するリスクが変わりますが、誰にでも起こりうる病気です。

症状

不眠、食欲低下、気分の落ち込み、思考力の低下、何をしても楽しくない、無欲状顔貌などがみられます。
自分で体調や気分がいつもと違うと気づくことや、周りから見ておかしいと気づくこともあります。

治療・予防

精神科など専門家の元で治療します。治療方針はうつ病の程度によって変わるので、病院で相談しましょう。

カウンセリングや薬を服用します。

認知症

「いったん正常に発達した認知機能に障害が起こり、日常生活を妨げている状態」を指します。

よく混同される病気として、物忘れがあります。
物忘れは脳の神経細胞の減少によるもので、誰にでも起こり得ます。

しかし認知症は、脳に障害が起こって通常の加齢プロセスよりも速く神経細胞が減少するという「病気」です。

症状

物忘れ、失語、無関心、被害妄想、徘徊、睡眠障害、食行動の異常といった症状がみられます。
様々な症状がありますが、物忘れは必ず起こる症状といえるでしょう。

治療・予防

認知症の治療薬は基本的にアルツハイマー病に対するものです。
しかし、今のところ認知症を完治させる薬はありません。

そのため、薬物療法だけでなく、デイケアなどを活用することで薬の効果を高めます。

無欲状顔貌があらわれることのある病気

以下の病気の症状の一つとしても、無欲状顔貌がみられることがあります。
ですが上記の例と異なり、「無欲状顔貌だからといって以下の病気の可能性が高いわけではない」ので注意してください。

腸チフス

腸チフスチフス菌に感染することで起こる全身性の疾患です。
腸チフスは感染者の便や尿、腸チフス菌に汚染された食べ物・飲み物手指などから口へ入り、人から人へのみ感染します。

主に、海外(東南アジア、東アジア、インド、中東、アフリカなど)で流行しています。

日本では流行地域を訪れた方々が感染するケースのほか、渡航歴を持たない人が国内で感染するケースもあります。

8~14日間の潜伏期間後に、徐々に発症するのが特徴です。

症状

  • 発熱
  • 徐脈
  • 高熱のある数時間だけにみられるバラ疹(赤くバラのように見えるブツブツ)

この他、肝臓や脾臓の腫れ、腸からの出血、腸の穿孔(穴)が生じる場合があります。
重症例では意識障害無欲状顔貌難聴がみられることもあります。

これらの症状は、治療を受けないと1ヶ月続くこともあり、注意が必要です。

治療

抗生物質を服用して治療します。
また、予防として、腸チフスの発生の多い地域に渡航する際にはワクチン接種を行い、飲食には十分気をつけます。国内外問わず、手洗いを徹底するようにしましょう。

粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)

粟粒結核結核菌が血を通して全身へと巡って様々な臓器に障害を及ぼします。

結核の中でも重いタイプで、感染した臓器に粒状の病巣(病気になっている場所)が表れます。
治療が遅れると死亡するケースもあります。

症状

発熱呼吸困難無欲状顔貌などがみられます。

治療・予防

複数の抗結核菌薬を服用する化学療法で治療していきます。

痰に結核菌が検出されている場合は人に移す危険性があるため、入院が必要になります。
免疫力が低下していなければ感染するリスクは低くなるため、健康的な生活を送ることが予防の第一です。

脳血管障害

その名の通り脳の血管に問題が生じます。脳血管が破れて内部が出血する脳出血、心臓などにできた血栓が脳の血管へと運ばれて詰まる脳卒中、脳を覆っている膜(くも膜)の下、脳の表面から出血するくも膜下出血などがあります。命を失う危険があります。

高血圧糖尿病など、生活習慣病が原因として挙げられます。

症状

脳出血や脳卒中では言語障害、半身麻痺、物忘れなどの症状が表れます。
また無欲状顔貌がみられることがあります。ひどい場合は意識障害を起こすこともあるようです。

くも膜下障害では頭痛があり、重症の場合はその程度がひどくなっています。

治療・予防

手術などで治療しても一旦脳血管障害を発症してしまったら、治療によって表れていた症状が完全に良くなることはありません。

そのため、予防が非常に重要です。食生活の見直しなど生活習慣を正しましょう。

まとめ

病気を発症しているときには、表情病気の特定に役立つことがあります。

目力がなく、表情に活気がなく、周りに無関心な無欲状顔貌がみられた場合は、その他にどんな症状が表れているか注意しましょう。
そして、放置しておくと命に関わる可能性もあるため、早めに病院を受診してください。