クッシング症候群は、主に中年の女性にみられ、副腎で分泌されるホルモンのひとつであるコルチゾールというホルモンの過剰産生により起こる症状です。過剰なホルモン分泌により体内のホルモンバランスが崩れることで、肥満や高血圧、糖尿病、うつ、骨粗鬆症など様々な症状を起こします。
これらさまざまな症状が起こるのはなぜなのでしょうか。クッシング症候群の症状とそのメカニズムについて解説します。
中年女性に多く、その症状はさまざま
クッシング症候群の発症の男女比は1:4で、特に中年女性に多くみられることが分かっています(慶応義塾大学病院より)。1965年から1986年の調査によると、毎年約100症例が新たに診断されているとされています(難病情報センターより)。
そもそもホルモンとは?コルチゾールとは?
ホルモンは、からだを一定の状態に保つための調節機能のひとつです。体内のいろいろな臓器で作られ、血液の流れに乗って全身を回り体のあらゆる場所で作用します。
クッシング症候群は、副腎で作られるコルチゾールというホルモンが過剰に産生されることにより起こります。コルチゾールは本来、体がストレスを受けたときに分泌されるストレスホルモンのひとつで、ストレスから体を守る働きを担っています。
具体的には、ストレスを受けたときに脳を守るため、血糖値を上昇させて栄養であるブドウ糖を脳に送ったり、筋肉の合成を抑制し分解を亢進させることでブドウ糖のもとであるアミノ酸を供給する手助けをしたりします。
コルチゾールが過剰になると何が起こるのか?
クッシング症候群の症状として、主に次のようなものが挙げられます。
クッシング症候群のように、ホルモンが原因で起こる病気はそのメカニズムが少し複雑です。代表的なものについて、症状の起こるメカニズムを見てみましょう。
筋肉(たんぱく質)の分解
コルチゾールはストレスホルモンの一種で、私たちの体がストレスを受けた際に、そのストレスから体を守ろうとする働きがあります。
まず、肝臓に働きかけて糖新生(新しくブドウ糖をつくる肝臓のはたらき)を促します。さらに同時に、筋肉(たんぱく質)を分解することで、そこからブドウ糖を取り出そうとする作用(たんぱく質の分解作用)働きます。
糖新生やたんぱく質の分解は、本来であればストレス下で効率よくブドウ糖を脳に送るための働きです。しかし、クッシング症候群ではこのコルチゾールが異常に分泌され続けることで、血糖値の異常な上昇とたんぱく質の分解が促され続けることによる筋力の低下を招きます。
血糖値の上昇
先に説明したように、コルチゾールが分泌されると血糖値が上がります。通常、血糖値が上がると、膵臓がインスリンを分泌してバランスをとろうとします。インスリンには血糖値を下げる働きがあるのです。
ところが、コルチゾールはインスリン抵抗性を持っています。インスリン抵抗性とは、コルチゾールが持つインスリンが血糖値を下げるのを抑える働きです。脳は人間にとって特に大切な臓器ですが、コルチゾールはこの脳を守るために、インスリンのはたらきを抑えてわざと血糖値を下げないようにするのです。
正常時には、コルチゾールは過剰分泌されないように調節されています。しかし、これができなくなると血糖値が上がった状態が続き、糖尿病を引き起こしたり悪化させたりする原因となります。
インスリン分泌を誘発
インスリンは血糖値の上昇に誘発されて膵臓から分泌されます。インスリンには血糖値を下げるほかにもいくつか働きを持っており、そのひとつが脂肪を蓄える働きです。
コルチゾール自身の働きが低下する一方で、インスリンにより脂肪が蓄えられます。その結果、脂肪がつきやすい顔や体幹が太り、筋肉の多い腕や脚は筋肉が落ちて細くなります。
こうして、顔に脂肪が沈着して満月のように丸くなった状態の満月様顔貌(まんげつようがんぼう、ムーンフェイス)、肩に脂肪が沈着する野牛肩(やぎゅうかた、バッファローハンプ)、腹部中心の肥満で、手足が相対的に細くなる中心性肥満といった症状があらわれます。
さらに、急激な肥満で皮膚が皮下で断裂し、腹部周辺が筋状の模様になる皮膚線条と呼ばれるものが現れることがあります。
コルチゾールが過剰に分泌される理由、クッシング症候群の3つのタイプ
コルチゾールが過剰分泌する原因としては、大きく2つに分かれます。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンが増加することでコルチゾールも増加するACTH依存性と、単にコルチゾールだけが増加するACTH非依存性です。
ACTH依存性
コルチゾールは、下垂体という脳の一部で産生される「ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)」というホルモンの刺激を受けて、副腎の副腎皮質から分泌されます。下垂体は、血液中のコルチゾールの濃度を調節し、一定に保つはたらきを担っています。
ACTH依存性では、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が増加することでコルチゾールの分泌も増加します。
下垂体性クッシング症候群(クッシング病)
下垂体でのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌が増加するタイプです。このタイプでは、下垂体腺腫(下垂体に発生する腫瘍)の影響によりACTHが増加し、その結果コルチゾールの分泌が過剰となります。
クッシング症候群の中でもこのクッシング病は国の難病に指定されており、医療費助成の対象となっています。
異所性ACTH産生腫瘍
下垂体以外の別の場所からのACTH分泌が増加するタイプです。主に、肺小細胞がん、カルチノイド腫瘍などがあります。
ACTH非依存性
コルチゾールの過剰分泌が、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の増加以外の原因で起こるタイプで、副腎性クッシング症候群と呼ばれています。
副腎腺腫や副腎がんといった、副腎に腫瘍ができる疾患が原因となるのが通常です。また、他の疾患の治療のために、コルチコステロイド(副腎ホルモンのホルモン剤)の投与をしている場合なども、クッシング症候群の症状が出ることがあります。
まとめ
人間のからだの中で、ホルモンのはたらきはとても重要です。ひとつのホルモンが、リレーのように次々と別のホルモンや器官に影響を及ぼします。コルチゾールが過剰分泌される原因としては3つのタイプがありましたが、原因疾患のメカニズムが分かっていないものもあります。