PTSDという言葉を耳にすることが多くなりました。自分ではどうにもならないような衝撃的な恐ろしい出来事を経験し、心に深い傷を負うことで発症する病気がPTSDです。東日本大震災に見られるように、こうした出来事は誰もが経験する可能性があり、そういう意味では誰もがPTSDになり得るといえます。ここではPTSDの原因と症状について解説します。

PTSDとは
PTSDとはPosttraumatic stress disorderの略で、心的外傷後ストレス障害のことです。
PTSDは、命の安全が脅かされるような出来事や強烈な精神的ショック(外傷体験)を経験することによって、それが非常に深い心の傷(トラウマ)となって、時間がたってからも同じような恐怖を感じ続け、心身に様々な症状を引き起こす病気です。
外傷体験をすれば、誰でも多かれ少なかれ恐怖を感じたり、何度も体験を思い出して苦しむものです。
しかし、多くの人は、時間がたつにつれて恐怖を克服していきます。
PTSDの場合は、その記憶が1ヶ月以上にわたって薄れることなく、突然怖い体験を思い出す、不安や緊張が続く、頭痛がある、眠れないといった症状となって現れるのです。
PTSDの原因は、生命を脅かすものに限定されます。詳しくは、以下の項目で説明します。
PTSDの原因について
様々な外傷体験
PTSDの特色は、生死に関わるような危機を体験したり目撃するなど、明らかな原因によって発症する点です。具体的には、以下のような外傷体験が原因となります。
- 自然災害(地震、津波、洪水など)
- 重大事故(交通事故、飛行機事故など)
- 性的および肉体的暴行、虐待
- 戦闘体験
- 犯罪被害
- テロによる攻撃
- 生死に関わる病気であるとの診断
ただし、同じような体験をしたからといって、全員がPTSDを発症するわけではありません。
どのような体験がPTSDの原因になるかは、性格傾向や家族に精神疾患の患者がいるかなど、様々な要因が影響しています。
PTSDの発症率でみると、自然災害の被災者では3%程度、戦闘では50%弱、性的暴行(レイプ)では60%程度とされています。また、同じ被害を受けても女性のほうがPTSDを発症しやすいことがわかっています。
PTSDを悪化させる要因
外傷体験の衝撃が大きい場合、PTSDを発症するリスクが高まります。以下の項目にあてはまる外傷体験の場合は、特にPTSDの症状が重症化する傾向にあります。
- 突然に起こる
- 長期にわたって継続する
- 閉じ込められる
- 人災である
- 死亡者が多い
- 手足を切断する
- 子どもを巻き込む
PTSDの症状について

PTSDの症状は、1ヶ月以上続くのが特徴です。
こうした症状は、多くは外傷体験の直後から半年以内に現れます。
まれに、数年たってから症状が出ることもあります。
具体的な症状は、以下のとおりです。
1.追体験(フラッシュバック)
原因となった出来事が、ふとした瞬間に意図せず思い出され、そのとき味わった身体的苦痛や感情(恐怖、怒り、悲しみ、無力感など)を追体験する症状です。
また、その出来事を繰り返し夢に見ることもあります。
追体験によって、動悸がする、呼吸が困難になる、吐き気がする、体が強張る、冷や汗をかくなどの身体症状が出ることがあります。
2.回避および麻痺
体験を思い出すような思考、感情、会話、状況や人物を、意識的あるいは無意識的に避けるようになります。
そのため、行動が制限されて、日常生活に大きな支障がでることも少なくありません。
また、辛い記憶で苦しむことを避けるために感情や感覚が麻痺する、という症状が出ることがあります。
そのため、家族や周囲の人に対する愛情や優しさを感じなくなったり、人に心を開くこともできなくなりがちです。
3.過覚醒
過覚醒は、再び危険な状況に陥ってもすぐに対応できるように身構えている状態です。記憶がよみがえっていない時でも、交感神経系が亢進状態になって緊張が続きます。
そのため、常にイライラしている、ささいなことで驚きやすい、警戒心が行き過ぎなほど強くなる、ぐっすり眠れないなどの過敏な状態が続くようになります。
その他の症状
PTSDは、上記のほかにも様々な症状を引き起こします。筋肉痛、下痢、不整脈、頭痛、パニックや恐怖心、抑うつ気分、過剰な飲酒、薬物の使用などは、その代表的なものです。
PTSDかも?と思ったら
PTSDにおいては、外傷体験の後に受けるサポートが非常に重要です。被害の相談をした相手に心ない対応をされるなど、二次的な心の傷を受けると、PTSDの回復が難しくなります。
外傷体験のなかには、自然災害のように誰もが理解しやすいものもありますが、性的暴行や家庭内暴力、虐待など、被害に遭ったこと自体を人に知られたくないと思うものもあります。
なかには、自分に落ち度があると思い込んでいるケースもあります。
こうした場合、誰かに相談をしたり、医療機関を受診すること自体、大変な勇気が必要なことでしょう。
しかし、PTSDを放っておくと、精神疾患を併発するなど重症化する恐れがあります。
PTSDは治療開始が早ければ早いほど回復も早くなりますので、思い当たる場合はぜひ専門家の診断を受けてみてください。
相談窓口医療機関
犯罪被害の場合は、犯罪被害者の会や支援組織などの相談窓口へ、地震などの自然災害の場合は、救護チームとして派遣されたカウンセラーや、支援スタッフに情報を求めるとよいでしょう。
また、PTSDの専門医やカウンセラーのいる地元の精神保健福祉センター、精神科、心療内科の受診をお勧めします。
まとめ
はっきりした外傷体験があり、これまで述べたような症状が長期にわたって続いているなら、PTSDの可能性があります。
PTSDは誰もがなり得る病気であり、適切な治療をすれば回復していきます。
ひとりで抱え込まず、専門家のサポートを受けられるよう、ぜひ一歩踏み出してみましょう。