ウイルス性肝炎は、肝炎ウイルスの感染で肝臓の細胞が壊れ、肝臓のはたらきが悪くなる病気です。原因とされる肝炎ウイルスは5種類ですが、このうち、食べ物や飲み物で感染し、特別な治療方法がないのが「A型肝炎」です。A型肝炎は海外渡航で感染する人が多く回復するまで3ヶ月以上かかることがあります。「A型肝炎」の症状や予防法を知っておきましょう。

目次

なぜか「A型」はあまり知られていない

日本人の肝臓病で最も多いのはウイルス性肝炎だといわれています。原因である肝炎ウイルスによって、A型肝炎B型肝炎C型肝炎・D型肝炎・E型肝炎と分類されます。日本では、B型肝炎C型肝炎が多くみられ、厚生労働省によると、B型が約110~140万人、C型が約190~230万人に上るといわれています(厚生労働省健康局より)。

B型・C型は、患者の免疫力の状態によってウイルスキャリア(ウイルスが生涯体内に住みつくこと。持続感染ともいう)が起こるため、患者数は増え続けています。一方、A型肝炎は、一時的な感染で慢性化することはありません。患者数も年間100300人程度と報告されています(食品安全委員会より)。他のウイルス性肝炎に比べて、症状・予防方法などが周知されていないのは、患者数が少ないせいかもしれません。

A型肝炎は、1~6月にかけての発症が全体の9割を占めています(イヤーノートより)。抗体を持っていない60代以下、特に若い人に多い病気です。

アジア旅行での飲食は、特に気をつけて

A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAVHepatitis A Virus)の感染が原因で起こります。HAVは、1973年(昭和48年)、ファインストン氏(アメリカ)によって肝炎患者の糞便から発見されています(国立感染症研究所より)。酸やアルコールに強く、殺菌するには85.1度以上の過熱や塩素が必要です。

感染した人の便で汚染された水、氷、野菜、果物、魚介類が口に入ることで感染します。このような感染経路を「口感染」と呼びます。口から体内に入ったHAVは、消化管を経て肝臓に到達し、増殖します。

近年、A型肝炎患者のほとんどは、海外渡航による感染です。特にフィリピン、インド、中国などアジア諸国での感染が度々報告されています。これは、上下水道の整備が十分でないこと、調理器具や調理場の衛生管理が日本のように徹底されていないことなどが原因と考えられています。

アジア以外では、2012年に、北ヨーロッパで発生した冷凍イチゴによるA型肝炎の集団感染が報告されています(国立感染症研究所より)。国内では、カキ・エビなどの輸入海からHAVの感染が確認されたケースがあります。A型肝炎の発症は、衛生環境や衛生管理と密接に関係しているといえます。また、性的接触によっても感染する場合があります。

感染から1ヶ月して「重めの風邪」に似た症状

A型肝炎ウイルスは、潜伏期間が約27週間(平均4週間)と長めです。感染から1ヶ月して、はじめは以下のように次のような重めの風邪に似た症状がみられます。

その数日後には、黄疸(目や皮膚が黄色くなる症状)が現れます。黄疸は、成人の70%を超える患者に現れますが、6歳未満の小児に見られるのは約10%です(WHO Fact sheetより)。子供に比べて、大人は症状が出やすく重症化する傾向があります。したがって、高齢者の感染は気をつけなければなりません。

劇症肝炎になることも

稀ではありますが、一部の人がA型肝炎ウイルスに感染した場合、劇症肝炎とよばれる重篤な病態になることがあります。急性肝炎と同じく風邪に似た症状に始まりますが、黄疸が出てからも症状が続く(強くなる)のが特徴で、全身の臓器障害や肝性脳症と呼ばれる状態を引き起こします。

体は回復しても、ウイルスの排出は続く

A型肝炎の診断は血液検査で行われます。採取した血液に「IgM抗体」が確認されると、A型肝炎は確定します。IgM抗体は、感染後5~10日で検出できます(日本旅行医学会より)。治療薬や特別な治療法はありません。急性期には原則として入院し、安静にしたうえで、症状に応じた治療(対症療法)を行います。

HAVは症状が消えても、数週間はウイルスの排出があります。他人に感染しないように注意しましょう。

A型肝炎は、完治すると抗体(ウイルスに対して身体を守ろうと働く物質)ができるため、再発することは少ないです。慢性化することも多くはありませんが、ときに4ヶ月以上にわたって症状が続く場合や、上記のように稀に劇症化することがあります。

A型肝炎を防ぐ3つのポイント

上下水道が整備されていないなど衛生状態のよくない地域では、ウイルスに感染するリスクが高いといえます。A型肝炎を予防するためのポイントは、次の3つです。

食事前には、十分に手を洗う

トイレの後・調理の前・食事の前は、石鹸と流水で十分な手洗いを行います。子供は大人が気をつけてよく見てあげましょう。

水や食べ物は、加熱したものだけを口にする

海外では、飲料水はミネラルウォーターか、煮沸した水を使います。WHO(世界保健機関)によると、日本以外では、韓国、ヨーロッパ(一部を除く)、北アメリカ、オーストラリア以外は水の管理が悪く、A型肝炎のリスクのある地域と注意を呼びかけています。

また、氷、アイスキャンディー、生の魚介類(特にカキ、ホタテなどの二枚貝)、生肉、生野菜、果物(特にカットフルーツ、冷凍フルーツ)にA型肝炎ウイルスが付着している可能性があります。食べ物は、加熱調理してあるものだけを口にしましょう。

渡航前に「予防接種」をする

衛生状況がよくないと予想される地域を渡航するには、ワクチン接種による予防がもっとも有効です。2013年3月、16歳未満への接種も承認されています。1回接種してから2~4週間後に2回目を接種し、さらに6ヶ月後に3回目を追加接種することで、ほぼ100%抗体ができます。5年間は有効といわれています。

まとめ

A型肝炎は、感染してから症状が出るまでに平均1ヶ月以上かかります。その間に周囲に感染させないよう、注意が必要です。家族や学校、職場が集団感染する状態は避けなければなりません。特に高齢者は、症状が重くなる傾向にあります。海外渡航後に、重めの風邪の症状が現れたら、早めに消化器科を受診し、医師に「A型肝炎かどうか」の相談をしましょう。