劇症肝炎は肝臓の機能が急激に悪く(劇症)なり、様々な全身症状が現れて意識障害に至る肝炎を指します。肝細胞の破壊が広範囲に起こってしまうため、早期に適切な治療を受けなければ死に至ります。今回は劇症肝炎の原因や症状、治療や予防について詳しく解説していきます。

目次

劇症肝炎とは

肝炎は、肝細胞が破壊されることで肝臓の担う役割が行われず、全身に様々な症状が出る疾患です。

肝臓の主な役割は血液を凝固させるためのタンパク質を作ったり、身体にとって有害な物質や薬剤などを解毒・排泄したりする働きです。

血液を凝固させるためのタンパク質は、止血の際に必要となります。肝炎によって肝細胞が破壊されてしまうと、血液を凝固させるためのタンパク質が作られなくなるため血が止まりにくくなります。また肝臓の機能が悪くなることで、全身の臓器の機能も悪化していきます。有害な物質が身体から排泄されずに溜まっていくので、脳に障害が起こる場合があります。

劇症肝炎は、急性肝炎の症状が現れてから8週間以内に肝性脳症(意識障害)が起こり、血液凝固因子の異常によって、血液が固まりにくくなった場合をいいます。

急性肝炎の多くは、肝細胞が破壊されても自身の修復機能によって元に戻ります。しかし劇症肝炎の場合は広範囲で肝細胞の破壊が起きるため、修復機能が上手く働きません。早期に適切な治療を開始しなければに至ります。

10日以内に肝性脳症がみられる場合を急性型11日を過ぎてから肝性脳症がみられる場合を亜急性型といいます。亜急性型でより予後(治り)が悪くなります。

劇症肝炎の症状

初期の症状は、急性肝炎でみられるような身体のだるさ発熱胃のムカつき吐き気嘔吐食欲不振筋肉痛など風邪に似た症状が現れます。しばらくすると尿紅茶色になり、白眼の部分や皮膚が黄色くなる黄疸がみられるようになります。

急性肝炎では黄疸がみられると風邪に似た症状は軽減します。ただ劇症肝炎では症状が軽快することはありません。

細菌感染を起こしやすくなったり、全身の臓器に異常を起こすことで呼吸困難浮腫腹水下血頻脈などの症状がみられたり、血液凝固因子の異常によって出血傾向などもみられたりします。さらには意識障害がみられるようになります。

意識障害は、有害な物質が身体に溜まって肝性脳症を発症することで起こります。次に紹介するようなことが起こりえますが、程度は人によって異なります。

  • 興奮して暴れる
  • うとうとと眠りやすくなる
  • 人の顔や時間場所などが分からなくなる
  • 自分の身だしなみなどを整えること、周りの目などを気にしなくなる
  • 昼夜のリズムが逆転する

さらに重症化すると昏睡状態となって呼びかけや刺激に対しても反応しなくなります。

劇症肝炎の原因

劇症肝炎の原因として肝炎ウイルスへの感染や、免疫の異常(自己免疫性肝炎)薬剤アレルギー原因不明など様々です。日本における劇症肝炎発症の原因は、B型肝炎ウイルスによるものが一番多くみられ、続いて原因不明となります。

B型肝炎ウイルスに感染するケースは、母親がB型肝炎ウイルスキャリア(B型肝炎ウイルスに感染している状態)で子どもにうつる(母子感染)もの、性的なパートナーがキャリアであった場合に血液や体液を介してうつる場合が挙げられます。

自分がB型肝炎ウイルスキャリアになると、肝臓の機能が正常な場合でも急に劇症肝炎を発症する場合や、他の病気の治療でステロイドや免疫抑制剤を使用した時に発症する場合があります。

B型肝炎の治療が終了している人でも、抗がん剤や免疫抑制剤の使用で劇症肝炎を発症することもあります。A型肝炎C型肝炎でも劇症肝炎となることもあります。急性肝炎から劇症肝炎へ移行する原因についてはまだはっきり解明されていません。

劇症肝炎の治療

血液を交換し終えた光景-写真

必要な物質を生成できず、有毒な物質を排除できなくなった肝機能を助けるために、血漿(けっしょう)交換療法血液濾過(ろか)透析の治療が行われます。

血漿交換療法は、血液に含まれる血漿といわれる成分を健康な人の血漿交換する治療法です。血液濾過透析は、血液中の有害な物質取り除く治療法です。

これら肝臓の機能を助ける治療を行っても破壊された肝細胞が修復しない場合は、脳死と判定された人の肝臓や、身内の肝臓の一部を移植する肝移植が行われることがあります。

肝移植が行われた場合は、内科的な治療だけ行った場合と比べて予後は良好となります。ただ移植後は免疫抑制剤を服用し続けなければならず、拒絶反応への注意が必要となります。

劇症肝炎の予防

主な原因となるB型肝炎ウイルスの感染は、ワクチンで予防することができます。ウイルスの働きを抑える核酸アナログ薬インターフェロンなどが投与されます。

薬剤アレルギーや自己免疫性肝炎が原因の場合はステロイド投与による治療が行われます。肝性脳症を発症する前、急性肝炎のときに治療を開始すると劇症肝炎発症の予防が望めます。

まとめ

劇症肝炎は肝炎の中でも、急激に全身状態が悪化して予後不良な肝炎です。劇症肝炎を発症してからでは治療が難しくなります。身体のだるさや発熱などの体調不良があれば、早めに受診して適切な治療を開始するようにしましょう。劇症肝炎の原因となるB型肝炎ウイルスワクチン接種も有効です。