先日、法相や総務相を歴任した自民党衆院議員の鳩山邦夫氏が、十二指腸潰瘍で亡くなりました。
十二指腸潰瘍は比較的若い人に多く発症し、重症化した場合には出血や穿孔(せんこう=穴があくこと)をひきおこし、命にかかわる可能性もあります。
ストレスの多い現代、十二指腸潰瘍は増加傾向にあるといわれていますが、いったいどんな病気なのでしょうか?詳しく解説します。
十二指腸潰瘍とは
十二指腸の粘膜が主に胃酸によって傷つけられ、組織が剥がれてしまう病気です。胃潰瘍と合わせて消化性潰瘍とも呼ばれています。
十二指腸潰瘍は男性に多く、30~40歳代の比較的若い人(胃潰瘍では40~50歳代)に多く発症します。
日本では、十二指腸潰瘍よりも胃潰瘍の方が多いとされています。しかし、胃と比べて十二指腸の壁は薄いため、十二指腸潰瘍が粘膜を越えて深く進行した場合、出血や穿孔を起こしやすい傾向にあります。
原因
健康な状態では、胃酸が自分の胃や十二指腸を消化することはありません。しかし、胃の攻撃因子(胃酸など)と胃十二指腸の防御因子(粘液など)のバランスが崩れたときに潰瘍ができると考えられています。以下に十二指腸潰瘍の原因を挙げます。
1.ピロリ菌
胃・十二指腸潰瘍の最大の原因がピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)の感染で、十二指腸潰瘍の患者さんでは90%以上がピロリ菌の感染をともなっています。
2.非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)
ピロリ菌の次に原因となるのは、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の服用です。この薬は炎症を抑えて痛みや発熱を和らげる一方、副作用として胃や十二指腸粘膜の防御機能を低下させ、潰瘍ができると考えられています。
これらの原因に加え、ストレスや喫煙が胃・十二指腸潰瘍を悪化させる因子であることが分かっています。また、遺伝的要因が関係しているとの報告もあります。
症状
最も多い症状は腹痛(上腹部痛、胃の痛み、みぞおちの痛み)で、夜間や早朝の空腹時に出現あるいは悪化することが特徴です。何か食べたり飲んだりすると痛みは軽くなります。しかし、上腹部の不快感だけで腹痛がない場合もあるため注意が必要です。
腹痛の他には食欲不振、胸やけ、吐き気、嘔吐、膨満感(ぼうまんかん=お腹が張る感じ)などがあります。特に、慢性に経過した潰瘍では十二指腸が変形したり狭くなったりし、食べ物の通過が悪くなることがあります。
穿孔が起こった場合には痛みが激しくなり、また時間とともにお腹全体に広がっていきます。もともと十二指腸潰瘍のある人が、食後に急に腹痛が出現したときには穿孔を疑います。
潰瘍から出血がある場合、出血の量にもよりますが吐血や下血が起きます。下血ではタール便といって、真っ黒な泥のような便が出るようになります。また、下血がなくても、少量の出血がじわじわ続いている場合には貧血で見つかることもあります。
診断
十二指腸潰瘍の診断は、問診、触診、バリウム造影検査、内視鏡検査などにより行われます。ピロリ菌に感染している可能性がある時には、ピロリ菌検査を行います。
また穿孔が疑われる場合には、腹部単純レントゲン検査や腹部CT検査を行い、腹腔内遊離ガス像(消化管からおなかの中にもれた空気)を検出します。
治療
治療の基本は薬による治療で、プロトンポンプ阻害薬(PPI)といわれる薬(病院を受診し、処方してもらう必要があります)が第1選択です。またH2ブロッカー(ガスター、タガメット、ザンタックなど。市販薬にもあります)という薬も使われます。ピロリ菌の感染がある場合には除菌治療(1週間程度の抗生物質の投与)が行われます。ほとんどの場合、ピロリ菌の除菌によって十二指腸潰瘍の再発を防ぐことができます。
潰瘍からの出血例で、出血量が多い場合には緊急内視鏡による止血術が必要となることもあります。内視鏡による止血が困難な場合には、緊急手術となります。
十二指腸潰瘍が穿孔した場合には、腹膜炎の程度や全身の状態によって保存的に経過観察する場合と緊急手術を行う場合があります。
手術では、潰瘍で開いた穴を縫ってふさいだり、大網(だいもう)というお腹の中の膜を覆いかぶせたりします。最近では、小さな穴から行う腹腔鏡(ふくくうきょう)手術も増えてきました。
まとめ
十二指腸潰瘍は、比較的若い人に発症する十二指腸粘膜の傷(欠損)で、ピロリ菌の感染や抗炎症薬の副作用によって引き起こされます。症状は空腹時の上腹部痛が特徴的ですが、腹痛を伴わないこともあります。重症例では出血や穿孔を起こすこともあり、緊急の内視鏡や手術が必要となることもあります。しかし、多くの場合、薬で治すことができますので、早めに診断し、しっかりと治療することが大切です。もし気になる症状がある場合には病院を受診しましょう。