健康な成人の安静時の脈拍数は1分間に60~100回とされています(厚生労働省より)。この値以上の脈拍である場合を医療的には「頻脈」と呼んでいます。

脈がいつもよりはやいように感じたり、鼓動の音を大きく感じたり、といった何かしらの違和感があると不安になることもあるかと思います。

なぜ、脈拍が早くなってしまうのか、脈拍がはやいということには何か病気が隠れている可能性があるのかどうか、脈がはやくなる原因について考えてみたいと思います。

目次

1.生理的な原因によるもの

脈が速くなる原因として、まずは運動やストレスといった生理的な原因によるものが考えられます。

健常者にも起こるもので、次のようなものがあります。

  • 運動、肉体労働
  • 一時的な緊張、ストレス
  • アルコール摂取
  • 寝不足

からだを動かすと、交感神経活動が亢進されます。
この交感神経の亢進が刺激となって脈拍が速くなります。

緊張やストレス、興奮時にも同様に交感神経のはたらきが活発になるため、脈が速くなります。
また、アルコールには脈を早める作用があるため、飲むことで脈が速くなってしまいます。特に、お酒を飲んだ後に顔が赤くなりやすい人では脈が速くなりやすい傾向にあります。

2.心因性のもの

心臓には疾患がみあたらないものの、心理的な要因により頻脈を起こすものです。
一時的なストレス・緊張による生理的なものと異なり、症状の程度が強かったり、頻脈・動悸をともなう発作症状を繰り返したりする場合があります。

心臓神経症、パニック障害

動悸の症状のほか、発汗、呼吸困難、ふらつき、吐き気、寒気などをともなうパニック発作がみられます。
発作自体は5~20分程度でおさまることがほとんどです。

しかし、発作を繰り返すうちに予期不安といって、「また発作が起こるかもしれない」という不安感を抱えるようになることもあるため、早期に治療をする必要があります。

過換気症候群

過度の緊張や不安を引き金に呼吸が速くなり、血液がアルカリ性に傾く(アルカローシス)ことでさまざまな症状があらわれます。
呼吸が速くなることで息苦しさを感じるほか、動悸めまい胸痛などの症状をともないます。

3.心臓病以外の病気によるもの

内分泌疾患

甲状腺機能亢進症褐色細胞腫といった疾患が該当します。

体内で分泌されているホルモンの中には、交感神経のはたらきを活発にしたり、脈拍を上げたりするはたらきを持つものがあります。
内分泌疾患によって、こうしたホルモンが過剰に分泌されることで、脈が速くなる症状があらわれます。

甲状腺機能亢進症とは、何らかの原因により甲状腺のはたらきが過剰になる病気です。

甲状腺ホルモンは、エネルギー代謝などにかかわるホルモンですが、この甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、多汗、疲れやすさ動悸手の震えといった自覚症状があります。
原因の90%以上はバセドウ病という病気です。

褐色細胞腫は、副腎の腫瘍が原因でカテコールアミンというホルモンが過剰分泌される病気です。
動悸頭痛などの自覚症状があり、高血圧糖尿病を合併することもあります。

低血糖

糖尿病治療中の患者さんに起こる症状のひとつです。
血糖値が下がりすぎることで、自律神経症状、中枢神経症状、意識障害、昏睡などが起こります。昏睡を起こすと最悪の場合、死に至る可能性もあり大変危険な状態です。

動悸は自律神経症状のひとつとしてみられることがあります。

4.心臓の病気によるもの

心臓の病気の症状として、脈が速くなるものです。

心臓の弁膜の障害

心臓の弁膜(血液の逆流を防ぐ弁)の障害により、動悸の症状があらわれることがあります。
大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁逸脱症などが該当します。

虚血性心疾患

心臓に栄養を送っている血管の狭窄・閉塞が起きる病気の総称です。

狭心症心筋梗塞などがこれにあたります。
症状のひとつとして動悸が起こることがありますが、代表的な症状は胸痛です。

心筋炎・心膜炎(心嚢炎)

心筋炎は、心臓を動かす筋肉である心筋に炎症が起こるもので、ウイルス感染などがきっかけとなり発症します。
また、心臓を包む2枚の膜(心膜)の中(心嚢)に炎症が発生すると、心膜炎あるいは心嚢炎と呼ばれます。

発症初期は、頭痛や発熱などの風邪のような症状からはじまり、続いて息切れ・息苦しさ動悸などの症状がみられるようになります。

不整脈

心臓は本来、1分間に60~100回リズムよく脈を打ちますが、回数が多くなったり少なくなったり、リズムにばらつきが生じることを不整脈と呼びます。

なかでも、この回数よりも脈が多くなるものを頻脈性不整脈と呼びます。

5.薬の副作用によるもの

カルシウム拮抗剤などの降圧剤抗コリン作用のある薬では、薬の副作用として頻脈、動悸といった症状があらわれることがあります。

抗コリン作用をもつ薬としては、風邪薬やアレルギー、酔い止めの薬として使われる抗ヒスタミン剤をはじめ、向精神薬、不整脈薬、頻尿・失禁薬などでも該当するものがあります。

まとめ

脈が速くなる原因は、生理的なものから病気が原因になるものまでさまざまです。
疲れや緊張、ストレスなど、生理的な原因が考えられる場合には、できるだけリラックスする時間をつくり、疲れをとるように心がけましょう。

一方で、ドキドキする・脈が速い・動悸がするといった症状が続く場合には、何らかの病気が原因となっているかもしれません。

原因となる病気の中には、死亡の危険があるものも含まれるので、気になる症状がある場合には病院を受診するようにしましょう。

受診の際には、脈がどのように速くなるのか、どんなときに症状があらわれるか、脈が速いこと以外の症状はないかといったことも、医師に伝えるといいでしょう。