心房細動は比較的よくみられる不整脈で、加齢に伴ってその罹患率は増加し、60歳以上で増加、80歳以上では約10人に1人は心房細動があるといわれています(国立循環器病研究センターより)。

自覚症状のないままに長期間経過することもあり、心房細動のみでは命に関わることはありません。
しかし心房細動は脳梗塞を発症するリスクが高く、注意が必要な不整脈です。

心房細動の治療、また自分でできる予防法について詳しく解説します。

目次

心房細動とは

心臓は刺激伝導系と呼ばれる電気の伝達によって規則的に収縮し、全身に血液を送り出しています。心房細動は刺激伝導系のスタート地点である洞房結節からの電気信号が発生せず、心房内で不規則な電気信号が発生し、心房全体が震えた状態になる不整脈です。

心房細動は初めのうちは一過性の発作性心房細動を繰り返し、次第に発作の持続時間が長くなり、やがて慢性化すると考えられています。

一過性の発作の時期には、胸の不快感動悸息苦しさなどの自覚症状がありますが、慢性化すると自覚症状が乏しくなり、慢性的に心臓から送り出される血液量が減ることによって心不全となることもあります。

心房細動について詳しくは記事「多くの高齢者におこる病―心房細動の症状とその原因」をご参照ください。

心房細動と脳梗塞

心房細動のもっとも大きな問題は、脳梗塞を引き起こすことにあります。

心房細動の状態では、心房内の血液がよどみ血栓を作りやすくなっています。
この血栓が心臓からの血流に乗ってほかの部位の血管を詰まらせてしまいます。特に脳の血管を詰まらせることが多く、結果、脳梗塞(心原性脳塞栓症)を引き起こします。

心房細動の治療

心房細動の治療は経過に応じた心房細動そのものの治療と、脳梗塞を予防するための治療を合わせて行います。

カプセル

心臓細動そのものの治療

1.発作を予防する(発症初期)

心房細動の発症初期は、一過性(数時間~数日間)の発作を繰り返して起こします。

この時期には心房細動を正常な心拍(洞調律)に戻す治療リズムコントロール)が行われます。

  • 薬剤による治療:心拍数を抑える薬(β遮断薬)や心拍の乱れを抑える薬(抗不整脈薬)の内服、または注射を行います。
  • 電気的除細動(Defibrillation Cardioversion:DC):薬剤だけで効果がない場合には、体表から強い電気ショックを与える治療が行われます。

2.心拍数を整える(慢性期)

発作の回数が頻回となり、持続期間が長くなると、薬剤や電気的除細動による効果が得られなくなり、洞調律に戻らない、または戻ってもすぐにまた心房細動となってしまいます

この時期には洞調律に戻すことは諦め、心拍数を適切に調整する治療レートコントロール)が行われます。

  • 薬剤による治療:β遮断薬やジギタリス製剤などによって心拍が早くなりすぎることを抑え、心不全を予防します。
  • ペースメーカー植え込み:慢性化した心房細動では脈が遅くなりすぎる徐脈となることもあり、この場合は心臓ペースメーカーの植え込みが必要になることもあります

3.カテーテルアブレーション治療

心房細動の原因となる異常な電気信号を発生する箇所を、カテーテルによって焼灼し、心房細動を起こらなくする治療法もあります。

この治療法では根治が期待できますが、長期間持続している心房細動ほど治りにくく、治療に伴う合併症のリスクもあります。

適応については専門医(循環器不整脈専門医)への相談が必要です。

脳梗塞の予防(抗凝固療法)

心房細動は脳梗塞を発症する危険性があり、直接の原因となる血栓を作らなくする治療抗凝固療法)が必要です。

抗凝固療法には古くからワルファリンが使用されてきましたが、副作用としての出血緑黄色野菜や納豆に含まれるビタミンKとの拮抗作用(効果をなくしてしまうこと)、消炎鎮痛剤との相乗作用(効果が強く出すぎてしまうこと)などが問題となり、投与量の細かな調整や食事制限を必要としました。

近年、ワルファリンに代わり、副作用や食事との関連などの面からも簡便で安全に使用できる新薬が使われるようになりました。

新しい抗凝固薬

  • ダビガトラン(プラザキサ®
  • リバーロキサバン(イグザレルト®
  • アピキサバン(エリキュース®
  • エドキサバン(リクシアナ®

心房細動予防のためのセルフケア

体重計

ストレス、睡眠不足、疲労、飲酒、喫煙など生活上の注意

心房細動は加齢とともに起こりやすくなる不整脈です。

好発年齢は60代以降ですが、それ以前の若い人でもストレスや疲労、飲酒や喫煙によって発作を起こすことは珍しくありません。

発作を起こし始めた初期は、自然に良くなったり、薬も効きやすかったりしますが、次第に発作が頻回になり治りにくくなります。

「すぐに良くなるから」と軽視せず、原因となる生活習慣を改善しましょう。

高血圧、肥満、糖尿病などの危険因子に注意

高血圧肥満過体重)、糖尿病などがあると、心臓に負担がかかり心房細動を起こしやすくなります。さらに合併症である脳梗塞を起こすリスクも高いとされています。

体重は標準体重を目安にし、高血圧や糖尿病は自覚症状のあるなしに関わらず、しっかりとコントロールしておくことが必要です。

高血圧と糖尿病について、詳しくは専門医によるこちらの記事「高血圧って何がいけないの?高血圧が引き起こす主な病気5つ」「糖尿病ってどんな病気?専門医が語る、放っておいてはいけない理由とは」をご参照ください。

定期健診と服薬

心房細動になっても自覚症状に乏しく、「健診などでたまたま発見された」「いつから心房細動になっていたか分からない」といったケースも多くあります。

心房細動は一般的な心電図検査で診断可能ですが、心房内の血栓を調べる心臓超音波検査(心臓エコー)や、発作をとらえるための24時間ホルター心電図などの検査が必要になる場合もあります。

発作を起こしたときや、その疑いがあるときは早めに医療機関を受診し、検査を受けましょう。

また、心房細動と診断された場合は、心臓の働きを調整する薬(β遮断薬や抗不整脈薬)のほか、抗凝固薬による治療が行われます。

これらの薬は効果を見ながら服用量を調整するため、定期的な受診が必要となります。

まとめ

心房細動は一種の老化現象であり、誰にでも起こりうる不整脈です。

心拍のリズムや速さを正常に近づけるための治療と、大きな合併症である脳梗塞を予防する治療が必要な一方、発作の予防にはストレスや疲労、睡眠不足、飲酒、喫煙などの生活習慣の見直しや、高血圧、糖尿病、肥満といった生活習慣病にも注意が必要です。

他の心臓病や動脈硬化の予防法同様、日常の心がけが重要と意識しておきましょう。