毎年冬になると、気温が下がり空気も乾燥し、風邪などの感染症にかかりやすくなります。
中でも特に重症化が心配されるのがインフルエンザです。
インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスにはいくつものタイプがあります。
その季節によって流行るタイプが異なるので、その年に流行りそうなタイプを予想して予防接種が行われます。
また、ウイルスは少しずつ変化することで環境に適応するため、あるとき突然変異を起こしてまったく新しいタイプのウイルスが登場することもあります。
本記事では、数あるインフルエンザウイルスのうち、鳥インフルエンザを引き起こすインフルエンザウイルスについて解説します。
インフルエンザの基礎知識
インフルエンザウイルス3つのタイプと「亜型」
インフルエンザウイルスは、A、B 、Cの3つの型が発見されており、このうち人に感染してひどい症状をきたすのはA型とB型です。
インフルエンザウイルスは、その表面にタンパク質が突起のように突き出た構造をしています。この構造は、ウイルスが宿主にとりついて増殖していくために必要な構造です。
表面のタンパク質は、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2種類です。この2つのタンパク質の組み合わせによるタイプ分けを亜型といいます。
B型インフルエンザウイルスには、それぞれのタンパク質は1種類ずつのみです。
一方、A型インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニンが16種類とノイラミニダーゼが9種類あり、その組み合わせの数だけ亜型があります。
ウイルスの変異と感染拡大
インフルエンザウイルスは感染していく中で、常にそのタンパク質の構造に変化が生じています。これがウイルスの「変異」です。
そして、タンパク質が同じ型の中で変化するものを連続変異、タンパク質が全く別の型に変化するものを不連続変異と呼んでいます。
私たちのからだは、一度感染して克服したウイルスに対しては免疫を獲得し、その後そのウイルスには感染しないか、感染したとしても軽い症状ですみます。
しかし、ウイルスが変異を起こし、私たちが免疫を持たない亜型に変化することがあります(新型インフルエンザ)。
新型インフルエンザは、過去に人が感染した経験がないため、感染がひろがる可能性が出てきます。
鳥インフルエンザとは?
インフルエンザウイルスのうちA型インフルエンザウイルスは、人以外の鳥、豚などの動物も感染します。
鳥インフルエンザとは、鳥にインフルエンザウイルスが感染して病気を引き起こすものであり、その亜型の分類としてはH5N1であります。
特に、鳥インフルエンザウイルスの中で、鳥に感染したときに症状が重篤で致死率が高い強毒株を高病原性鳥インフルエンザウイルスといいます。
鳥インフルエンザはなぜ危険?
一般的に鳥インフルエンザウイルスは、人に感染することはほぼありません。また、人から人への感染もほぼないとされています。
しかし、A型インフルエンザウイルスはB型に比べて変異しやすいことから、鳥インフルエンザが鳥の間で感染を繰り返すうちに、鳥から人へ、人から人へと感染を起こすタイプに変異した場合は危険です。
なぜなら、このような変異により出現したインフルエンザウイルスは人が免疫を持たない新型ウイルスだからです。
11月に入ってから、秋田県秋田市、鹿児島県出水市、鳥取県鳥取市などで回収された鳥の死がいや水鳥の糞などから、相次いで高病原性鳥インフルエンザウイルスが発見されています。
野鳥観察などをしているだけで鳥インフルエンザに感染することはないと考えられていますが、野鳥や野生動物の死がいを見つけても、決して素手で触らないでください。
また、同じ場所でたくさんの野鳥が死亡しているの見つけたら、都道府県や市町村役場に連絡しましょう。
鳥インフルエンザが人に感染したときの症状
ウイルスの型により違いがありますが、突然の高熱、咳、全身のだるさ、筋肉痛などの症状を伴います。
幸い、日本での発症はありませんが、2003年よりアジアを中心に発生している鳥インフルエンザの型(H5N1亜型)では、次のような特徴があるようです。
潜伏期間
感染してから2~7日
症状
初期症状は季節性インフルエンザと似た以下のような症状が出ていますが、比較的、進行は早い傾向があります。
重篤な場合は全身の臓器が異常を呈し、死に至る場合もあります。
鳥インフルエンザが人に感染した場合の治療
今のところ効果が期待できるとされる治療は、抗インフルエンザウイルス薬のノイラミニダーゼ阻害剤(タミフル、リレンザ、ラピアクタ、イナビル)による早期治療です。
感染の可能性がある場合は極力早い時期に(48時間以内)投与することが勧められています。
また、現在、人のための鳥インフルエンザ予防のワクチンはありません。
つまり、季節性のインフルエンザのワクチンでの予防効果は期待できないのです。
鳥インフルエンザの予防

鳥類からの感染の予防
鳥インフルエンザの流行地域に行った場合は、以下のことに留意する必要があります。
- むやみに鳥類に近寄ったり触ったりしないようにする。
- 万が一、感染の可能性のある鳥等に触れた場合は、すぐに手洗い・うがいをする。
- 特に、子供は好奇心で野鳥などに近づく恐れがあるので注意をすること。
感染した人からの感染の予防
通常、鳥インフルエンザウイルスは人には感染しませんが、もし感染した人が近くにいる場合や、鳥インフルエンザウイルスの変異により新型インフルエンザが発生した場合の予防策は知っておく必要があります。
- マスクをする
- こまめにうがいをする
- こまめに石けんで手を洗う
- 汚れた手で口、目、鼻などを触らない
1と2は、飛沫が鼻や喉の粘膜に付着する飛沫感染を予防します。
また、3と4は接触感染を予防する目的です。
鶏肉や鶏卵を食べることによる感染は?
これまで、鶏肉や鶏卵を食べることで、人に感染した事例はありませんが、WHO(世界保健機関)は、鳥インフルエンザの集団発生が認められる地域で鶏肉や鶏卵を食べる場合の十分な加熱調理の必要性を示しています。
まとめ
鳥インフルエンザは鳥類がかかる感染症で、人に感染することはまれです。
また、鳥インフルエンザ=新型インフルエンザではありませんので、現時点でただちに大流行が起こるというわけではありません。
日常生活の中でむやみに怖がる必要はありませんが、流行地域に行く必要がある場合や、新型インフルエンザに変異した場合の対策を準備しておくとより安心です。