MRIは磁石を使用した検査です。CT検査と違って放射線を使用しないため、より安全な気がしますが、実際のところ、MRI検査によって体調が悪くなることはないのでしょうか?また、MRI検査の長所と短所はどのようなものがあるのでしょうか。

前回の記事に引き続き、放射線診断専門医がご説明します。

目次

MRI検査で使用する造影剤について

MRI検査ではガドリニウム造影剤が使われ、主に腫瘍の検査を行います。

また、肝臓用の造影剤として、EOB・プリモビストがあり、これはEOBという物質がガドリニウムにくっついており、肝細胞に取り込まれる仕組みを利用したものです。肝癌を検出するのによく使われます

ガドリニウム造影剤およびEOB・プリモビストは、使用できない場合があります。

患者さんの腎機能が悪い場合、合併症(腎性全身性線維症:全身の皮膚が硬くなったり、関節が拘縮したりする病気です)が報告されているので、造影剤を使ったMRI検査をしてはならないとされています。血液検査で、腎機能の目安であるeGFRという値を得ることができますが、この値が30ml/min/1.73m3 という値以下ですと受けることができません。これはかなり重症の腎障害にあたります。軽度〜中等度の腎障害の場合、検査に当たって輸液などの処置が必要になる場合があります。

また、喘息のある方は、造影剤アレルギーをきたす可能性があるので、原則検査できません。以前ガドリニウム造影剤を使用してアレルギー症状が出た方も、使用できないと判断されることが多いです。しかし、医学的にどうしても造影検査が必要な場合は、ステロイドの内服などをして行うこともあります

造影剤アレルギーは、体にじんま疹がでたり、喘息発作のような症状が起こったり、血圧が下がったりする症状をきたし、重症の場合には、頻度は低いものの、死にいたることもあります(死にいたるのは100万人に1人程度です)。

MRIが禁忌になるのって、どんなとき?

ペースメーカー-写真

受ける方の状態によっては、MRI検査ができないこともあります。

体の中に金属が入っているとき

ペースメーカーがうめこまれている、手術などで体の中に金属が入っている、インプラントをいれている、人工内耳を入れているなどのケースがあります。

ペースメーカーについては、MRIができない場合がほとんどですが、中にはMRI対応の型番もあります。この場合にも、万が一のことがないよう、入念な確認をしつつ検査に臨みます。

手術などで入れられる金属や心臓のステントなどについては、近年開発されたものはMRI対応であることがほとんどです。非磁性体である金属のチタンを使用しているものが多く、この場合は問題なく検査を受けていただけます。しかし、検査を受ける時は材質の確認がなによりも重要ですので、主治医に確認していただくことが必要となります。また、ステントに関しては、入れた直後は動いてしまう可能性がありますので、3ヶ月ほど経過するのを待つ必要があります。

歯のインプラントも、材質が様々で、受けられるものと受けられないものがありますので、歯医者さんで確認をするようにしましょう。

刺青やアートメイクにも小さな金属の粉が含まれています。多くの人は無事検査が終わりますが、まれにやけどをすることがあります。これを理由に検査ができないことは少ないかもしれませんが、リスクは頭に入れておきましょう。

また、検査室に入るときには、くれぐれも、時計やスマートフォンといった金属は持ち込まないようにしましょう。磁石にひきつけられて飛び出し、頭などに当たってしまうことがあります。また、電子機器は故障してしまいます。

妊娠初期の場合

胎児の器官形成期に当たる妊娠初期には、胎児への安全性が確立していないという理由から、検査を避けるのが一般的です。妊娠5ヶ月頃から検査可能となる施設が多いと思いますが、細かい基準は施設によって異なっているので、該当する場合には確認をしてみるといいでしょう。

MRIの長所、短所

長所

  • 放射線被曝しない。
  • 造影剤を使わなくても血管などが観察できる。
  • 様々な断面の画像を撮像することができる。

短所

  • 時間がかかる(短くて20分、長くて40分くらい)。
  • 撮影時の音が大きい。
  • 閉所恐怖症の場合は検査ができないことがある。
  • MRI非対応の金属が入っている場合には、検査ができない。

MRIで診断できる病気

では、実際に、どんな病気をMRIで診断することができるのでしょうか?

MRI

1.脳梗塞、脳出血、脳動脈瘤など

MRIが得意とする分野に、頭部があげられます。拡散強調画像にて、急性期の脳梗塞を検出でき、治療方針決定に役立てることができます。
脳出血の際は、簡便さからCTが撮影されることが多いですが、MRIでは微量の出血も検出することが可能です。
MR Angiographyを用いて、脳動脈瘤を、造影剤を使わずに描出できます。経過観察にも有効です。

2.脳の腫瘍性病変の検出

原発性の脳腫瘍や、転移した腫瘍は、造影をすることにより高確率で検出できます。

3.骨、関節、筋肉、靭帯、椎間板ヘルニアなど

CTではわからないような、骨髄の変化を捉えることができます。CTで描出されないこともある癌の骨転移に対して、高い描出能があるほか、骨折や骨挫傷などの外傷に対しても、高い診断能力があります。
半月板や靭帯、関節軟骨などの異常をとらえることができるのもMRIの特徴です。これらの構造は、CTでははっきりととらえることができません。半月板損傷や、靭帯断裂などを正確に診断することが可能です。
また、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症といった脊椎疾患も正確に病状を把握することができます。

4.肝臓の腫瘍

EOB・プリモビストという薬剤を用いて、他の機器では検出できない早期の肝臓癌の検出が可能です。
血管腫など、良性腫瘍の鑑別も得意としています。

5.胆管や主膵菅など、細い管にできる病気

MRCPを行うことにより、胆管癌や、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMNなどを検出することができます。

6.MRIで診断可能な、脳や肝臓以外の癌

咽頭や喉頭の癌、乳癌膀胱癌子宮癌卵巣癌前立腺癌などに対する造影MRIの精度は比較的高いです。大腸癌は診断できないものも多いですが、直腸癌に対して、直腸内に空気を注入してMRIを行うと、深達度を診断することができます。

MRIが苦手とする病気

MRIは非常に優れた診断機器ですが、苦手とするものもあります。空気が多く見られる箇所の診断には向いていません。具体的には、肺や消化管などです。肺癌の診断はできませんし、食道癌胃癌、大腸癌などの診断をすることも難しいです(上に書いたように、直腸癌には使われることがあります)。

また、甲状腺癌に関しても、良性と悪性を見分けることが困難です。

まとめ

MRI検査の実際や、長所、短所、診断できる病気などについて書かせていただきましたが、いかがだったでしょうか? 日頃病院で受けらている検査について、詳しく知るヒントになれば幸いです。ただ、実際の検査には、ここに書ききれなかった細かい適応など色々とありますので、何か疑問に感じることがあれば、主治医に質問するといいでしょう。検査のことについても、主治医と積極的にコミュニケーションをとっていただくのがおすすめです!