急性糸球体腎炎は、腎臓にある「糸球体」と呼ばれる血液のろ過フィルタ(毛細血管)が、溶連菌などの細菌によって炎症し、血尿・タンパク尿・尿量減少・むくみ・高血圧が引き起こされます。患者の約90%が溶連菌感染症のあとに発症しています(熊本大学医学部附属病院より)。秋の終わりから冬のあいだ、子供に多くかかるのが特徴です。血尿が出ることで周囲は心配しますが、小児がかかった場合には経過は良好で完全な治癒が期待できます。
喉の病気の後は、しばらく尿を観察して
溶連菌(溶血性連鎖球菌)の感染による「咽頭炎」「扁桃炎」「中耳炎」などにかかったあとに血尿が出たときは、急性糸球体腎炎の疑いがあります。血尿は、感染症の症状が完治したあと約1〜2週間後にあらわれるため、尿の色を注意深く観察してください(全国腎臓病協議会より)。ロゼワインのような赤みの強い尿が出たら小児科や腎臓内科を受診しましょう。
診断は、尿検査と血液検査の結果に基づいて行われます。尿検査による血尿、タンパク尿、血液検査による血液中のタンパク低下が認められ、さらに血圧の上昇がみられた時点で確定診断がなされます。一般的には、画像診断や腎生検(腎臓の一部を採取する検査)を行うことはありません。
安静にして「食事療法」と「血圧管理」が基本
急性糸球体腎炎では、病気そのものに対する治療法はありません。腎臓の機能が回復するまで、静かに過ごす(安静)ことが大事です。運動はタンパク尿を増やすことになります。また、尿の量が少なく、血圧が上昇して頭痛・嘔吐・けいれんなどの症状が強い時期は入院をすすめられるでしょう。
通常、急性糸球体腎炎では溶連菌感染に対する抗生物質の使用はありません。急性糸球体腎炎は溶連菌などの細菌が原因で生じますが、腎炎を発症したときには感染症は完治していることが多いためです。したがって、症状に合わせた治療(対症療法)が主体で、多くの患者は食事療法と投薬治療を行います。
食事療法は「3つの制限」を守る
糸球体腎炎に限らず、腎臓機能の低下が起こったときは、次の3つを制限し、食事療法を行うのが一般的です。制限の程度は症状によって異なります。医師とよく相談して、決まった範囲をできるだけ守りましょう。
タンパク質
タンパク質は、血液中の老廃物を増やします。腎臓が健康であれば、ろ過する糸球体は十分そろっていますが、機能が低下した腎臓には大きな負担がかかります。肉・魚・卵・豆類などの摂取量を控えましょう。
塩分
むくみの原因は体液量の増加です。体液を調整する塩分を腎臓が排出できないためです。塩分制限は、むくみの症状を軽減するために行います。また高血圧を抑える効果もあります。
カリウム
尿量が減少すると、体内にカリウムが上昇します。すると、嘔吐・全身のしびれ・不整脈などを引き起こす恐れがあります。特に里芋・白菜・キャベツ・バナナ・アボカドなどカリウムを多く含む食材の摂取は控えましょう。
投薬治療は「利尿」と「血圧管理」
糸球体の障害により、体内の水分がコントロールできなくなっている状態です。フロセミドなどの「利尿薬(尿を増やす薬)」を服用し、体に溜まった水分を排出します。
また急性糸球体腎炎では、腎臓のろ過機能がうまく働かなくなり、血液量が増えて一時的に血圧が上昇します。すると、嘔吐や不整脈などの重い症状にみまわれることがあります。その場合は「降圧薬」を服用して、血圧を下げる治療を行います。
約1〜3ヶ月で血尿は消える
食事療法と投薬治療を続けると、やがて回復に向かいます。むくみが軽くなり、血圧が安定し、尿の量が増えて、症状は急速に改善します。通常、約1〜3ヶ月で血尿やタンパク尿は消えます。検尿による陽性反応の症状が治まれば、普通の生活に戻して構いません(大阪府立急性期・総合医療センターより)。
小児の場合、完全に治癒する患者がほとんどです。しかし、小児の約0.1%、成人の25%は将来的に慢性腎不全に移行しているとの報告があります(メルクマニュアル医学百科より)。慢性の腎臓病は「サイレントキラー」と呼ばれるほど、症状があらわれにくいのが特徴です。自覚症状が認められたときは、症状が深刻な状態まで進行しているケースはよくあります。急性糸球体腎炎は、治癒する確率の高い症状ですが、完治後も必ず定期的な尿検査を受診し、結果を注意深く確認しましょう。
まとめ
急性糸球体腎炎の治療は、腎臓の回復を待つ自然療法が一般的です。したがって症状に合わせた対症療法として「安静+食事療法+投薬治療」を行います。約1〜3ヶ月での治癒が期待できます。それ以前に体調は回復するでしょうが、自己判断は禁物です。腎不全に移行してしまうケースもあるので、最後までしっかり治療を行いましょう。