現在、国内に130~150万人の感染者がいるとされるB型肝炎(日本肝臓学会より)。かつては、その感染原因の多くが母子感染によるものでしたが、近年ではその割合は減り、それに代わって性感染症という面が目立ってきています。感染しても症状がでないことがあるために、知らぬ間に感染して重症化したり、知らずに感染を広げてしまう危険もあります。
この記事では、主にB型肝炎の感染経路と症状について解説します。
B型肝炎とは?
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスによる感染症です。B型肝炎ウイルスへの感染で特に注意しなければならないのは、感染後に肝炎が慢性化(慢性肝炎)してしまうことです。感染しても症状が出ずに(不顕性感染)そのまま自然治癒してしまう場合もある一方で、感染により肝炎を起こし慢性化すると肝硬変や肝がんを発症させることもある病気なのです。
感染後の経過
B型肝炎ウイルスに感染しても必ず症状が出るわけではなく、また症状が出ても必ず慢性化するわけではありません。感染後の経過には以下のようなものがあります。
急性肝炎
ウイルス感染後に、倦怠感や食欲不振、吐き気、黄疸といった症状が見られます。急性肝炎は自然治癒することが多いため、特別な治療はせず、体調を整えながら経過をみます。感染はしても、自覚症状がないまま自然治癒することもあります。
急性肝炎のうち1~2%では、激しい症状の現れる劇症肝炎を発症することがあるため、注意が必要です。劇症肝炎になると、40度近い発熱や強い倦怠感、吐き気などの症状が一度に起こり、急激に肝機能が低下することによる意識障害を起こします。劇症肝炎は死に至ることもあります。
こうした一過性の感染の場合、症状が治まったあとにはウイルスが体から排除されて、免疫を獲得した状態となります。
慢性肝炎
B型肝炎ウイルスに感染し肝炎を発症したあと、肝炎が6ヶ月以上続いている状態です。また、ウイルス感染後に肝炎には至っていないものの、ウイルスが排除されずに6か月以上肝臓に住み着いている状態を持続感染といい、ウイルスを体内に持っている状態をキャリアと呼びます。
そして、持続感染の場合も肝炎を発症せず、症状も出ない状態を無症候性キャリアと呼びます。これは、出産時や幼少期に感染したケースにみられることが多く、そこから十数年以上を経て発症するケースが多いのが慢性肝炎です。
慢性肝炎を発症すると、さらに肝硬変、肝がんへと進むリスクも高くなります。しかし、慢性肝炎になっていたとしても、症状が顕著ではないことが多く、血液検査で肝機能の低下から発見されることがあります。症状として現れるものには、疲れやすい、食欲がなくなってくる、などがありますが、軽い症状のため、そこから肝炎に気づくことはほとんどありません。慢性肝炎は自然治癒することはないため、適切な治療が必須です。
どうして感染するの?
B型肝炎ウイルスへの感染経路は大きく2つに分けられます。
垂直感染
B型肝炎ウイルスに感染している母親から、妊娠中や出産のときに血液を介して赤ちゃんが感染することがあります。このような感染を「垂直感染」と呼びます。赤ちゃんへの感染の確率は母親のB型肝炎ウイルスへの感染の程度によって変わるため、母親が感染者であれば必ず母子感染が起きるというわけではありません。
水平感染
針刺し、輸血、移植、性交渉、ピアスの穴あけ、刺青など血液や体液を介して、不特定多数に感染するものを水平感染といいます。
以前は針刺し事故や予防接種の注射器の使いまわし、輸血、移植など医療行為が原因となる感染がありましたが、現在では医療環境の整備や対策、検査が十分になされているため、このような感染はほとんど見られなくなりました。
近年多くなっているのは性交渉を原因とした感染です。そのため、性感染症としての側面を持つようになりました。ほかには医療機関以外で行うピアスの穴あけや刺青、麻薬などを使用する際に注射器を使いまわすということが、感染が広がる原因となっています。海外旅行の機会が増えている中、旅先で知らずに感染している、といったことも起こりえます。
国内外でのB型肝炎の状況

B型肝炎は、世界中で見られる感染症です。特にアフリカや東アジアでは成人人口の5-10%が慢性的に感染しています。アマゾンや東ヨーロッパ南部と中央ヨーロッパの南部も慢性感染の割合の高い地域です。中東とインド・アジア大陸では総人口の推定2-5%が慢性感染しているとされています。日本は慢性感染の割合は約1%程度に該当しており、中等度のリスクがあるという地域に属しているのが現状です(厚生労働省検疫所FORTHより)。
肝炎の感染を広げないための対策
感染への対策は、数年ごとに見直しが行われています。
肝炎全般に対して
平成22年に肝炎対策基本法が施行されました。法令には、以下のような内容が網羅されています。
- 肝炎の予防や早期発見を推進すること
- どこにいても均一した治療が受けられること(=医療従事者の育成、医療機関の整備、肝炎患者への経済的支援)
- 国民が肝炎に対しての正しい知識を持つこと
- 肝炎に関する研究を進めること
特に水平感染を防ぐためには、医療従事者でなくとも、正しい知識を持つことが必要とされます。
垂直感染に対して
母子感染への対策として、昭和60年6月から妊婦全員に対して検査が行われるようになりました。検査は2段階あり、初めの検査で陽性と出た場合には更に2回目の検査を行い、これも陽性であれば生まれた赤ちゃんへのワクチン接種を公費で実施することとなりました。これにより、母子感染が原因となるB型肝炎のキャリア率はそれまでの10分の1程度まで低下したと報告されています(日本産科婦人科学会(PDF)より)。さらに、平成7年4月以降は、初めの検査で陽性と出た母親の赤ちゃん全員がワクチン接種の対象となりました。これは、2回目の検査で陰性であっても、赤ちゃんが急性肝炎を発症する場合があることが分かったためです。
水平感染に対して
WHOでは平成4年に、新生児へのB型肝炎ウイルスワクチン接種を推奨していました。日本では母子感染対策事業で一定の成果は上がってはいましたが、平成24年5月に予防接種制度の見直しが行われ、B型肝炎ワクチンの定期接種化が提言され、平成28年10月から定期接種が開始されています。
まとめ
B型肝炎は、医療過誤としての側面や予防接種化といった一部分だけの報道が目立ちますが、その他にも身近な感染源が存在します。感染予防のためには誰であっても正しく理解しておくことが、自分や家族に万が一を起こさせないために大切です。