「物忘れ」の原因疾患というと認知症アルツハイマー型認知症など)が思い浮かぶかもしれません。しかし、物忘れは疲労やその他の疾患が原因となる場合もあります。20~40代の方の「物忘れ」という症状から考えられる原因、注意すべき疾患、そして対策について解説しています。

目次

物忘れ・記憶力の低下は生理的な原因も

物忘れは、過労による疲れ、寝不足、精神的なストレス、偏食・栄養不足などが原因で起こる場合があります。

また、生理的な(正常範囲の)物忘れと認知症による病的な物忘れには、「忘れ方」に違いがあります。正常範囲の物忘れは、ヒントがあれば思い出すことができますが、病的な物忘れはエピソードごと記憶が失われ、ヒントがあっても思い出すことができません。

「病的な物忘れ=認知症」というわけではありませんが、物忘れを感じた場合、まずは疲労やストレスをためる原因がないか確認してみましょう。

脳の休息

脳は、睡眠によって休息するので、睡眠不足の場合には脳の機能が低下することがあります。例えば睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、寝不足からくる日中の眠気やだるさのほか、記憶力の低下を訴えることがあります。

脳の栄養

脳のエネルギー源はブドウ糖です。偏食によりブドウ糖が足りていない(血糖値が下がりすぎる)と、脳はエネルギー不足に陥り頭がぼーっとしたり、イライラしたりすることがあります。集中力・思考力が低下することで、記憶力にも影響を与えます。

このほか、ビタミンB112葉酸の不足によるビタミン欠乏症、アルコールの過剰摂取によるアルコール脳症(ウェルニッケ脳症)なども、記憶力を低下させる原因になります。

物忘れを引き起こす疾患

認知症

認知症とは、一旦正常に発達した知能が、何らかの原因によって慢性的に障害されてしまう状態の総称です。

中でも日本で特に患者さんが多いものは、アルツハイマー病血管性認知症前頭側頭葉変性症レビー小体認知症などです。脳の細胞が死んでしまったり(神経変性)、脳への血流が障害されたりすることで起こります。

現在のところ根治治療はなく、早期治療により脳の機能を維持し、進行を遅らせることが重要です。

認知症は、頻度は非常に稀ですが、若い年齢でも発症することがあります。65歳以下で発症する認知症は若年性認知症と呼ばれ、全国に3.78万人の患者さんがいるという報告があります。基礎疾患としては、脳梗塞脳出血くも膜下出血などを契機として発症する血管性認知症が、患者さんの約4割を占めています(厚生労働省より)。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺そのものや、その甲状腺に命令を出す視床下部・下垂体に障害が起こることで、甲状腺の機能が低下する症状です。

甲状腺ホルモン新陳代謝を調節するホルモンで、私たちが元気に活動するために欠かせません。不足することで集中力の低下やだるさ、眠気などがあらわれ、物忘れの症状につながることがあります。

原因疾患にはさまざまなものがありますが、特によく知られているのは橋本病です。女性に多い疾患で、40代以降の女性の10人に1人が橋本病であるといわれています(東京女子医科大学 高血圧・内分泌科より)。

認知症と異なり、原因疾患を治療することで物忘れの症状を改善することが可能です。

脳腫瘍

脳腫瘍とは、脳の中にできる「できもの」の総称です。腫瘍組織の性質によって良性脳腫瘍と悪性脳腫瘍に分けられますが、良性・悪性にかかわらず腫瘍ができる位置によってさまざまな症状があらわれます。

中でも感情を司る前頭葉に脳腫瘍ができると、意欲の低下や性格の変化、物忘れが見られる場合があります。

原発性脳腫瘍(他の臓器からの転移ではなく、脳組織から発生する脳腫瘍)の発生頻度は年間10万にあたり10~12人、70%は成人(15歳以上70歳未満)の患者さんであるといわれています(徳島大学病院より)。

認知症は40代からの予防を、軽度認知障害(MCI)にも注意

認知症は根治治療ができない疾患です。治療では進行を遅らせることが重要となりますが、できるかぎり早期に発見することで予後を改善することができるとされています。そこで現在では、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる認知症の前段階で早期発見し、治療を行うことが推奨されています。

さらに最近では、認知症に至る20年以上前から脳細胞の変化がはじまっていることが解明されつつあります。症状がなかったとしても、より早期に治療を始められる方法が模索されているところです。

「物忘れ」の症状への3つ対策

ランニングをする女性

1.まずは生活習慣の見直しを

肉体的・精神的な疲労は思考力・集中力を低下させ、物忘れの症状を引き起こす場合があります。まずはしっかりと睡眠をとり、栄養バランスを意識した食事をとる習慣を心がけましょう。

また睡眠はもちろんですが、朝ごはんを食べる習慣も重要です。脳のエネルギーであるブドウ糖は体内に大量に貯蔵しておくことができません。そのため、朝ごはんをぬいてしまうと脳の活動に必要なブドウ糖が不足してしまうのです。

しかしながら、糖質や炭水化物の摂りすぎはかえって認知症になるリスクを高めます。甘い食物や飲み物は控え、食事のときはご飯や麺類だけでなく、必ずおかずを一緒に摂るようにしましょう。

食物繊維やたんぱく質、脂質を摂ることによって血糖値の上昇が緩やかになり、満腹感も長持ちするため食べ過ぎを防ぐことができます。

2.認知症予防のためにも、規則正しい生活を

日本神経学会の『認知症疾患診療ガイドライン』には、中年期の高血圧糖尿病肥満脂質異常症、うつ病は認知症の危険因子となりうると記載されています。

認知症予防のためにも、生活習慣病の予防、規則正しい生活を送ることが重要です。特に、ウォーキングなどの運動を定期的に行うことが、認知症予防にも有効です。

3.原因疾患の治療を

物忘れがある場合、まずはその原因が何かを検査する必要があります。主に、物忘れは神経内科・精神科、脳神経外科で相談に乗ってくれます。そこで他の疾患が見つかれば、その専門の科を受診することになります。

病院によっては「物忘れ外来」などを標榜しているところもあります。

物忘れの原因となる疾患はさまざまあり、認知症と他の疾患との鑑別が重要となります。気になる場合には一度病院を受診することをおすすめします。

まとめ

生理的な原因による物忘れも、将来の認知症予防のためにも、規則正しい生活を送ることはとても重要です。特に20~40代の若年の方は、仕事・家事・子育てなどによる疲労が引き金となっていることも少なくないでしょう。物忘れの症状を感じた場合には、生活習慣を振り返ってみましょう。

また認知症以外にも、さまざまな疾患が「物忘れ」の症状を引き起こします。それぞれの病気に関する記事も参考にしながら、気になる場合には該当の診療科目を受診するようにしてください。