腎不全の症状として「尿毒症」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、名前からは症状のメカニズムや様子が想像しにくいのではないでしょうか。

尿毒症とはどんな症状なのか、なぜ腎不全により尿毒症の症状があらわれるのか、そして症状に対してどんな治療法が行われるのかについて見ていきましょう。

目次

尿毒症のメカニズムとは?

「尿毒症」とは、腎臓病により腎臓の機能が高度に低下したときに見られる症状のことです。

腎臓は、心臓から送り出された血液を漉し、血液中に含まれる老廃物や余分な水分を尿として排泄する役割を果たしています。腎臓の機能が低下すると老廃物をろ過して尿を作ることができず、体内に老廃物が蓄積します。種々の症状は、この老廃物により引き起こされると考えられています。

尿毒症の症状の原因となる物質は尿毒症毒素と呼ばれています。現在のところ、尿毒症毒素がどのように症状を引き起こしているかは不明ですが、尿素やクレアチニンを含む約200種類以上の物質が尿毒症毒素に該当すると考えられています。

尿毒症の症状は?

尿毒症の症状は腎臓の機能低下により尿毒症性物質の貯留による症状と、腎臓で産生、活性化される物質の減少による症状に分けられます。尿毒症の症状には以下のようなものがあります。

中枢神経症状 集中力低下、傾眠状態、振戦(ふるえ)、けいれん、尿毒症性昏睡など
眼症状 尿毒症性網膜症
循環器症状 高血圧浮腫(むくみ)心肥大心不全不整脈、尿毒症性心膜炎など
消化器症状 食欲不振嘔気、嘔吐、消化管出血、尿毒症性口臭(アンモニアのような口臭がする)など
呼吸器症状 肺うっ血、胸水貯留、クスマウル大呼吸(深くて速い呼吸)、尿毒症性肺など
皮膚・粘膜症状 色素沈着、掻痒感(かゆみ)など
血液・凝固異常 貧血、出血しやすくなるなど
末梢神経症状 多発神経炎、下肢静止不能症候群(restless legs syndrome)など
内分泌・代謝障害 二次性副甲状腺機能亢進症、耐糖能低下など
電解質異常 高リン血症、高カリウム血症、低カルシウム血症など
骨・関節症状 関節痛、線維性骨炎など
酸・塩基平衡異常 代謝性アシドーシス

このように、尿毒症の症状は局所ではなく全身に出現します。これらの症状は、人によって出現する症状の種類、程度が異なります。

尿毒症の原因となる疾患は?

尿毒症は、腎臓の機能が低下し腎不全の状態になることで起こります。腎不全には、慢性腎不全と急性腎不全があります。

慢性腎不全

慢性腎不全では、腎臓の機能が徐々に低下していきます。腎臓は一度機能が低下してしまうと回復が難しく、透析治療などの腎代替療法が必要な状態になります。慢性腎不全の状態になる病気にはいくつかありますが、特に代表的な疾患は次の3つです。

①糖尿病性腎症

糖尿病の合併症の一つです。高血糖の状態が続くことで腎臓の細小血管の障害が起きます。すると、腎臓で老廃物の濾過を担っている糸球体が硬化することで腎臓の機能が低下してしまいます。

②慢性糸球体腎炎

糸球体に炎症が起きることで蛋白尿や血尿などの症状がでる病気で、このような症状が少なくとも1年以上続くものです。原因となる疾患には、IgA腎症、紫斑病性腎炎などがあります。

③腎硬化症

血圧が高い状態のまま血圧の管理ができていないことで、糸球体の血管に負荷がかかり、硬化することで起こります。

急性腎不全

急激に腎臓の機能が低下した状態です。原因として腎前性・腎性・腎後性に分けられ、腎前性では脱水や全身性ショックなど、腎性では感染症や薬剤の使用などによる腎炎や急速に糸球体障害が進行する病態など、腎後性では悪性腫瘍の浸潤や尿路の停滞によるものなどがあげられます。

尿毒症の治療とは?

列車

尿毒症は、腎不全により尿毒症毒素が体内にとどまってしまうことで起こる症状です。放置すると体内に老廃物がたまり、心筋梗塞や脳卒中といった病気により死亡するリスクが高くなり、非常に危険です。

尿毒症に対しては、原因となっている慢性腎不全・急性腎不全の治療を行います。

原因疾患の治療

腎不全の原因となっている疾患の治療を行います。特に急性腎不全の場合には、原因疾患の治療を適切に行うことで回復が見込める可能性があります。

一方、慢性腎不全の場合には、一度機能が低下した腎臓は回復が見込めないことも多く、最終的に人工透析や腎移植などの腎代替療法が必要となります。

食事療法

急性腎不全・慢性腎不全ともに、食事療法はとても重要です。食事療法を行うことで腎臓への負担を軽減させ、急性腎不全においては腎臓の機能の回復を、慢性腎不全においては残った腎臓の機能の保存を目指します。

急性腎不全は発症後、尿量が少なくなる時期(乏尿期)、尿量が増える時期(利尿期)を経て回復へと向かいます。十分なエネルギーを確保することと塩分・タンパク質の制限が基本ですが、それぞれ時期にあわせた栄養管理も必要です。

慢性腎不全では、エネルギーの確保、塩分・タンパク質の制限に加え、カリウムリンの制限、適切な水分量の摂取が重要です。加えて、腎不全にいたる原因となった疾患によって食事療法の内容が少しずつ異なる場合があります。きちんと、腎臓専門医や病院の管理栄養士さんの指導を受けるようにしましょう。

薬物治療

高血圧やむくみ、高リン血症、高カリウム血症など尿毒症としてあらわれる症状に対して、降圧薬、利尿薬、リン吸着薬、カリウム吸着薬といった薬を投与する場合があります。

これらはあくまでも症状に対する対症療法であり、薬で腎臓自体を回復させることはできません。薬物療法は、尿毒症の症状を抑えるための補助的な役割を果たします。

腎代替療法

慢性腎不全により、腎臓機能の回復が見込めない状態となると腎代替療法を行います。なんらかの方法で腎臓の機能を補う治療法で、血液透析、腹膜透析、腎移植の3つがあります。

①血液透析

血液を体外に取り出し透析器に血液を通すことで、老廃物を取り除きます。1日あたり4時間の透析を週3日行うのが通常です。末期慢性腎不全の患者さんのほとんどが、この血液透析による治療を受けています。

②腹膜透析

透析液を腹腔に入れ、腹膜を通して老廃物を透析液側へと移動させることで、血液を浄化します。

③腎移植

腎臓を移植する方法です。国内では血液透析に比べると少ない傾向にありますが、腎臓が生着すれば人工透析は不要で、健常者とほとんど変わらない生活を送ることができるようになります。

まとめ

腎臓の病気は初期はほとんど症状がなく、気づかないうちに進行してしまっていることがあります。尿毒症として症状が出ている場合には、深刻な状態になってしまっていることもあり、ただちに適切な治療が必要な可能性が高いといえます。また、倦怠感・むくみ・かゆみといった患者さんが感じることができる症状のほか、高リン血症・高カリウム血症といった心血管系疾患の危険を高める症状にも注意が必要です。