皆さんは腎硬化症という病気について聞いたことがあるでしょうか。あまり耳にしない病名ですが、実は意外にも身近な病気で、きちんと対処しなければ人工透析が必要になってしまうなど、決して他人事で済ませられるようなものではないのです。
今回はそんな腎硬化症という病気について、詳しく見ていきましょう。
腎硬化症とは
腎硬化症とは、文字通り腎臓が固くなってしまう病気で、腎機能の低下を引き起こします。平成25年時点で人工透析の原因の第3位であり、比較的身近な病気であるといえ、なおかつ近年増加傾向にあることが知られています。
腎硬化症には大きく分けると良性腎硬化症と悪性腎硬化症とがあり、その違いは病状の進行の速さにあります。良性腎硬化症は比較的ゆっくりと進行しますが、悪性腎硬化症は急激に進行し、素早い治療を行わなければ重篤な障害が残る可能性があるのです。
腎硬化症の原因
腎硬化症の原因は、一言でいえば高血圧です。
腎臓の主な機能は、細い血管によって血液をろ過し、不要な物質を尿に作り替えて排出することです。そのために腎臓には、フィルターの役割を担っている部分(糸球体)があり、そこに細動脈と呼ばれる細い血管が血液を運び込んでいます。しかし高血圧になると、この細動脈に負荷がかかってしまいます。すると、血管内の細胞がこれに対抗するために増殖し、結果として血管の内腔が非常に細くなってしまうのです。これを、細動脈硬化と呼びます。
細動脈硬化が起こると糸球体に十分な血液が流れ込まなくなり、不純物がろ過できない状況になっていきます。加えて、糸球体自体も硬化をし始め、どんどんと腎機能が悪化していってしまうのです。
良性腎硬化症の原因
良性腎硬化症の場合、比較的軽い高血圧が原因となり、病状がゆっくりと進行していきます。最終的には慢性腎不全を引き起こし、様々な症状を引き起こすことになります。徐々に進行して行く分、ほかの血管へのダメージも蓄積しており、心筋梗塞や脳卒中のリスクも高くなっていることが多いです。
悪性腎硬化症の原因
悪性腎硬化症の場合では重度の高血圧が原因となり、急激に腎機能が低下していきます。
最低血圧が130mmHg以上の高血圧状態が続くと、腎臓は自らを守るために細動脈を収縮させ、血液量を減らそうとします。しかし腎臓には、血液量が減ると血圧をあげるホルモンを出す機能が備わっています。その作用で全身の血圧はさらに上昇していってしまうという悪循環が発生し、どんどんと重度の高血圧へと変化していってしまうのです。
場合によっては、高血圧によって脳卒中や心不全を引き起こし死亡してしまうこともあり、そうでなくとも重度の腎不全を引き起こしてしまうというわけなのです。
腎硬化症の症状
良性腎硬化症の症状
良性腎硬化症の場合、目立った症状が現れることは少ないといわれています。しかし、腎硬化症が進むと腎不全に陥り、尿毒症、高カリウム血症、心不全、貧血、高血圧などを引き起こします。それぞれを詳しく見ていきましょう。
尿毒症は、腎臓が正常なろ過をできないために体に毒素が溜まってしまうことで発生します。思考力の低下、不眠、頭痛、全身のだるさ、食欲低下、吐き気、かゆみなどの様々な症状があらわれます。
高カリウム血症は、血液中のカリウムが尿によって排出されず、溜まっていってしまうことで引き起こされます。手足のしびれ、口のこわばり、吐き気、体のだるさ、胸の苦しさ、不整脈、意識消失などがみられ、最悪の場合は心臓が止まってしまうこともあります。
貧血、高血圧は腎臓から分泌されるホルモンのバランスが崩れることによって引き起こされ、ふらつきや頭痛などが現れます。
悪性腎硬化症の症状
悪性腎硬化症の場合では急激に腎機能が低下し、急性腎不全となります。急性腎不全そのものの症状としては、尿が出にくくなる乏尿(ぼうにょう)や尿が出なくなってしまう無尿が主ですが、重度の高血圧の症状として、頭痛、むかつき、視力低下、全身倦怠感などが現れることもあるようです。
悪性腎硬化症では症状が急激に進むため、命の危険性もあります。しかし早めに治療を行えば慢性化することはほとんどないため、早めの対処が重要であるといえます。
腎硬化症の検査、診断
腎硬化症の検査では、眼底検査、尿検査、血液検査などが行われます。
眼底検査では、目の中の血管の状態を見ることで動脈硬化の有無をチェックします。高血圧と全身の動脈硬化の程度をある程度判定することができます。
尿検査では、尿の中の物質を検査します。腎硬化症では多くの場合尿蛋白を少しだけ認めますが、尿蛋白が陰性の場合も少なくありません。また、腎硬化症では血尿を認めることはありません。
血液検査では、血液中のクレアチニンという物質の量を測定します。この物質の量によって腎臓の機能を推定することができ、この推定値(推定糸球体濾過値‐eGFR)が60未満の場合は、腎硬化症による慢性腎臓病である可能性が疑われるのです。
しかしながら、この検査をすれば絶対腎硬化症であるかがわかる、という検査方法は存在しません。腎硬化症というのは幅が広い病気で、ほかのどの腎臓病にも当てはまらず、検査結果が腎硬化症と矛盾しない場合に、診断されることになります。これを医学用語では除外診断と呼びます。
まとめ
腎硬化症は高血圧によって引き起こされる病気で、高血圧の重症度によって良性腎硬化症と悪性腎硬化症の2種類が引き起こされることがわかっています。症状は様々で、不眠、だるさ、吐き気、無尿などをはじめとして、心不全や脳卒中などの重大な症状につながることもあります。
検査には眼底検査、尿検査、血液検査などがありますが、どれも腎硬化症を一発で診断できるような検査ではなく、除外診断される場合がほとんどです。