2016年4月26日、44歳の若さで急逝したタレントの前田健さん。その死因は虚血性心不全であったことが報道されました。今回報道にあった虚血性心不全という病名は、虚血性心疾患とほぼ同じものですが、正確には虚血性心疾患によって心筋の収縮力が低下し心不全を起こした状態です。

この虚血性心疾患とはどのような病気なのでしょうか?病気の概要や症状、また突然死との関連について詳しく解説します。

目次

虚血性心疾患とは

心臓は全身に酸素や栄養を含んだ血液を送り出すポンプの働きをしている臓器です。
心臓は筋肉(心筋)でできており、心臓自体も冠動脈という血管から酸素や栄養を含んだ血液が送られています。

虚血性心疾患とは、この冠動脈がなんらかの原因によって狭くなったり、閉塞したりして血流が阻害される病気の総称です。

代表的な虚血性心疾患狭心症と心筋梗塞

虚血性心疾患のメカニズム-図解

狭心症とは

冠動脈の血流が悪くなると、心臓の筋肉に酸素の供給が不足し、胸の痛みや圧迫感を生じます。
この変化が数分から数十分続く一時的な状態が狭心症です。

冠動脈が狭くなる主な原因は動脈硬化で、アテロームと呼ばれる脂肪組織が血管内に堆積して肥厚性病変(プラーク)を形成し血流を阻害します。

さらにこのプラークに何らかの原因でひびが入ると、そこからの出血によりプラークの周りに血栓が作られます。
この状態はプラークが破れ心筋梗塞(後述)に移行する一歩手前の非常に危険な状態不安定狭心症と呼ばれています。

また、狭心症には動脈硬化以外にも冠動脈の攣縮(※1)によって一時的な虚血を起こすことがあります。

1:攣縮(れんしゅく)とは?

攣縮とは発作的に動脈がけいれんを起こし、狭窄や閉塞を起こすことです。
冠動脈のけいれんには自律神経のバランス神経伝達物質が関与していると考えられており、朝方に発作を起こす狭心症(冠攣縮性狭心症)の原因と考えられています。

狭心症の症状

狭心症の代表的な症状は胸痛です。

胸全体が締め付けられるような痛みが生じますが、のどが詰まる感じ歯が浮いた感じ左肩が痛む胃のあたりが重いなど、虚血の程度によって痛みも様々で、痛みとして自覚しない場合もあります

心筋梗塞

心筋梗塞は冠動脈が完全に閉塞し、長時間にわたって血流が阻害され、心筋が壊死してしまう病気です。
動脈硬化によって形成したプラークが破れ、冠動脈内に多量の血栓が発生し血流が途絶え、心筋が壊死してしまいます。

壊死の範囲が広くなると、生命維持に必要な血液循環を保つことができず、死に至ることもあります。
発症から3日以内急性心筋梗塞といい、心原性ショック(※2)や致死性不整脈(※3)などを起こしやすい、最も危険な時期です。

急性期を脱した後の30日以内亜急性心筋梗塞、さらにそれ以上経過したもの陳旧性心筋梗塞(ちんきゅうせいしんきんこうそく)といいます。

陳旧性心筋梗塞は、壊死した心筋が線維化し、症状も安定した状態になっています。
壊死した範囲にもよりますが、再発防止と心不全予防の治療が行われます。

2:心原性ショックとは?

心筋が広範囲に虚血、壊死を起こすと、心臓はポンプ機能を失い、全身に血液を送り出すことができなくなります。
これによって急激に血圧が低下し、多臓器不全に陥ります。

3:致死性不整脈とは?

脈が乱れることで全身の循環動態(各臓器へ酸素や栄養を含んだ血液が送られ、老廃物を排出する一連の働き)が著しく悪化し、治療をしなければ短時間で死に至る不整脈です。

心室細動心室粗動が代表的な致死性不整脈です。

急性心筋梗塞の症状

急性心筋梗塞の場合は、狭心症よりもかなり強い胸の痛みがあり、急激に心臓の働きが悪くなることから呼吸困難冷や汗嘔吐意識障害が現れます。

虚血性心疾患の中でも急性冠症候群は危険な状況!

虚血性心疾患には、比較的病状が安定したものや軽度のものから、重篤なものまで幅広い病態が含まれています。

この中でも前述した、プラークが破れ血栓形成が進む不安定狭心症と、その結果の急性心筋梗塞は、急性冠症候群(ACS)と呼ばれ、突然死の危険が高い状態です。

虚血性心疾患は年々増加している!

平成26年の厚生労働省の調査によると、心疾患(高血圧性のものを除く)の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は172万9,000人となっており、前回調査(平成23年)の161万2,000人に比べ10万人以上増加しています。

男女比で見るとやや男性が多い傾向があります(厚生労働省より)。

また、年齢別では高齢になるほど患者数は多く、男女とも60代以降に急増しています(Mindsより)。死因においても心疾患は、がんに次ぐ第2位となっています。

心疾患(高血圧性を除く)の内訳では、虚血性心疾患などの心疾患の結果、心臓の機能が低下した状態を指す心不全が最も多くなっていますが、これを除くと急性心筋梗塞とその他の虚血性心疾患が多く、心不全と合わせると心疾患(高血圧性を除く)の7割以上を占めています(厚生労働省より)。

虚血性心疾患の危険因子とは?

虚血性心疾患の多くは動脈硬化が原因で引き起こされます。動脈硬化は老化現象として必ず起こるものですが、動脈硬化のリスクとなる4つの因子は「死の四重奏」と呼ばれています。

心臓病と「死の四重奏」について詳しくはこちらの記事「日本人の死因第2位の「心臓病」。予防するための生活のポイントは?」をご参照ください。
さらに喫煙ストレスも虚血性心疾患の危険因子となります。

虚血性心疾患と突然死

虚血性心疾患突然死の原因としても多くを占めています。
多くの場合は事前に狭心症発作などの前兆がありますが、安静で自然に症状が軽くなったなど、この前兆を見過ごしてしまうことも少なくありません

また、虚血性心疾患の危険因子である動脈硬化自体には自覚症状はなく、健診などでこれを指摘されても軽視してしまうこともあります。

こうした要因を抱えた人が、急激な運動脱水、精神的なストレスショックが引き金となって心筋梗塞を起こし、不幸にも死に至るケースがあります。

まとめ

虚血性心不全虚血性心疾患)は、心臓の冠動脈が狭窄または閉塞し、血流が阻害される病気で、代表的な疾患は狭心症心筋梗塞です。

おもな原因は動脈硬化で、知らず知らずのうちに動脈硬化による冠動脈の狭窄が進行し、心筋梗塞を起こす一歩手前の状態にあることもあります。

このように虚血性心疾患は突然死の原因にもなりうる病気であり、予防や早期の発見、治療が必要です。